L→R 橋本 薫(Vo&Gu)、稲葉航大(Ba)、熊谷太起(Gu)

L→R 橋本 薫(Vo&Gu)、稲葉航大(Ba)、熊谷太起(Gu)

【Helsinki Lambda Club
インタビュー】
“このバンドなら大丈夫だな”という
気持ちは以前よりも強くなった

バンドの過去・現在・未来をコンセプトに制作された2ndアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』。ラップが入った「IKEA」やエレクトロ要素を全面に出した「Happy Blue Monday」のような未来のHelsinki Lambda Clubとしてのアプローチから、これまでのバンドらしさに立ち返った楽曲も同時に並んだ多種多様な今作について橋本 薫(Vo&Gu)に語ってもらった。

もう踏み込まざるを得ないところまで
来てしまったというのが正直なところ

アルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』には、M1 ~ M6がHelsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)の過去~現在盤、M8 ~ M13は未来盤というコンセプトがありますが、実際に聴いてみるとすごく素直なヘルシンキを感じられた気がします。何かを固めるためのコンセプトではなく、さまざまな曲を幅広く取り込むための軸であって、楽曲制作も広い視野で取り組めたのではないですか?

ほぼその通りだと思います。僕もメンバーも同じようなアプローチの曲をやり続けることが苦手で、フルアルバムというパッケージだと結局はさまざまな要素を入れてしまうんだろうなという予感は制作前からありました。ただやりたいことだけやっただけだと、とっ散らかった印象にもなり兼ねないため、今回はある程度コンセプト的な制限がある中で自由に作ってみたいという想いがあり、“未来”という大義名分があれば“今までやっていないアプローチにも堂々と取り組めるぞ”と思って採用しました。“未来”というコンセプトは2年近く前に思いついたんですけど、その構想と並行して2019年は僕が20代最後という節目もあり、かつての衝動的なロックを素直に鳴らせるうちに鳴らしておきたいという想いも芽生えたので、最終的に“過去〜未来”というコンセプトへと固まっていきました。

1曲目の「ミツビシ・マキアート」はサウンドのガレージパンク感、“好きな子にVampire Weekendにライヴに誘われる”というシチュエーションや、素直に舞い上がらずに《俺も君にそんな顔させたいし》と思っちゃうところなど、どこをとっても過去のヘルシンキだと思いました。

やっぱり未だに幸せ全開のラブソングは書けないですよ。そろそろ書いてみたいとも思うんですけど、たぶん精神的にドMなので難しいです(笑)。

この簡単に幸せな気持ちになれない“ヘルシンキらしさ”を改めて表現してみていかがでしたか?

この曲はかなり素直に僕の中にあるものを出して、すんなり完成しましたね。固有名詞をバリバリ出す歌詞のスタイルとか、シンプルなコードで進んでいく展開も久しぶりに解禁してみたんですけど、やっぱり自分に染みついているんだなと改めて思いました。ずっと新しいことに挑戦してきたからこそ、昔のアプローチに立ち返ることに罪悪感なく取り組めたと思いますし、昔だったらもう少し捻くれた要素を入れようとしたけど、歳を取るごとになるべくシンプルに届けようと思うようになったのは大きな変化だと思います。

今作で素直さを感じられたのは、いい意味でカッコつけていない印象があるからで、どこか楽観的かつ平和主義なヘルシンキのスタンスを取っ払った「Shrimp Salad Sandwich」の存在も大きいです。この曲あたりからアルバムにシリアスさが出てきますが、今までは言わなかったことに踏み込んでみた意識はありますか?

踏み込んだという意識はもちろんありますが、踏み込もうという意志があったというより、もう踏み込まざるを得ないところまで来てしまったというのが正直なところです。最近プライベートにおいても自分自身がどんどん素直な人間になってきていると感じているのですが、それは作詞においてもそうなのかなと。この曲はメロディーやビート、固有名詞を使った描写や皮肉などは今までのヘルシンキを体現していますが、素直な怒りや不安が描かれていたり、最後の最後まで皮肉で終わっているのは今までになかったことなので、そういった意味で現在のヘルシンキを一番象徴する曲になったと思います。

「それってオーガズム?」の《インダス川で嘘つきは皆遺灰/それってオーガズムに至ってるみたいかい?》は韻も踏んでますが、「Debora」の《ジュリアナトーキョー 踊り狂って 朝の死に化粧》でも感じた歌詞とメロディーの相性100パーセント!みたいな感じが本当に癖になります。

この曲はレコーディングが延期になったことで新たに収録することになった曲なんですけど、個人的にもとても気に入っています。全体的にアルバムの内容ががっつりしすぎている気がしたので、少し気楽な曲を入れてバランスを取りたくなったという意図もありました。デビュー前の曲に「ルイジアナの類人猿」っていうヘンテコな曲があるんですけど、その時のような自由に韻を踏みまくって異世界へ連れていくような曲をもう一度作りたいと思って。かなり気楽に楽しんで作れた曲です。

曲順的には過去かと思ってましたが、聴いていくと最後に現代を揶揄するフレーズがあって、曲全体の見え方が変わるのも興味深かったです。

その言及はさすがですね(笑)。最後のほうに作った曲ということもあって現在の要素も強いんだと思います。最後のフレーズは「IKEA」の詞の世界観ともリンクする部分があります。

先行配信された楽曲はいくつかありますが、「Good News Is Bad News」のロマンチックで少し偏屈さがあるところや、「Debora」の突拍子もない展開など、アルバムで聴いてもかなり色濃くヘルシンキの過去~現在を表現していると思いました。ご自身でも手応えはありますか?

この2曲を録る段階からアルバムのコンセプトはできていたので、ちゃんと必要なピースになるだろうとは思っていましたが、改めてアルバムの流れで聴くと想像以上にハマっていて驚きました。特に「Debora」の聴こえ方が結構違ったというか、すごくパワフルかつカラフルな印象になりましたね。

ヘルシンキはいい意味で変わった曲が多いけれど、奇抜にならないのは「パーフェクトムーン」のような繊細さがあるからだと思います。《欠けた形が僕らのパーフェクトムーン》というフレーズのようなハッピーとバッドの間の気持ちを表現することは、今までにもヘルシンキがやってきたことだと感じました。

アウトプットの仕方としてオルガンを入れていたり、完全な歌モノ的なアレンジをしている点においては未来盤に収録されていてもおかしくないと思うんですけど、もともとあったヘルシンキのメロディーや歌詞の良さをシンプルに際立たせようという方向性は過去から現在の総決算のようなかたちになったと思っています。歌詞の内容で言えば、「引っ越し」(2018年12月発表のアルバム『Tourist』収録曲)などにも通ずる“人それぞれの価値観や美しさ”を大事にしたいというマイノリティー側の視点がヘルシンキらしさなんだと思います。
L→R 橋本 薫(Vo&Gu)、稲葉航大(Ba)、熊谷太起(Gu)
アルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』

OKMusic編集部

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