果歩

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【果歩 インタビュー】
感情が揺れたりする時に
それを忘れないように曲を書く

新潟県出身のシンガソングライター・果歩が5 曲入りEP『きみと過ごした街のなかで』を発表した。約2 年振りにバンドサウンドを導入し、生々しくダイナミズムある音像を実現した同作。瑞々しい視点で綴られた歌詞は独自性を増し、彼女と同世代の20代はもちろん、世代を貫いて多くの人の共感を呼ぶ予感がする。若手注目株としてさらなる耳目を集めること必至の作品だろう。

自分の好きなように生きているし、
書きたくないことは書かない

EP『きみと過ごした街のなかで』の制作にあたって、どんな作品を作ろうと考えたのかを教えてください。

EPを作ることを先に考えて曲を作ったわけではなく、昨年できた曲がたくさんあって、その中から選抜して5曲を選んだ感じなんです。曲名はあとづけで決めていったんですけど、街に関係している曲が多くて、誰かと一緒に過ごしてきた思い出のある、東京にあるいろんな街の話になっていて。これは毎回そうなんですけど、先に“こういうものを作ろう”みたいなものはなく、あとから“自分は一年間こういうふうに過ごしてきたんだな”と実感することが多いんです。

街を題材にした曲が多かったことは、ご自身ではどう受け止めているんですか?

昨年配信で出した弾き語りのEP『女の子の憂鬱』に入っている「街と花束」という曲が、私の中でひとつの区切りだと思っていて。それはなぜかと言うと、「街と花束」を作ったあとに以前住んでいた街から引っ越しをして、新しく越してきた土地で生まれた曲が今回のEPになっているんです。今作には今住んでいる街の曲もあって…バイトをきっかけに初めて行った土地もあれば、下北沢や渋谷へ行ったりとか、今までと変わらない部分もあるんですけど、完成してみて、やっぱり引っ越しをしてアクセスが変わったのは大きいと思います(笑)。

なるほど。今のお話から果歩さんにとって曲作りが生活に密着しているということが分かりますね。

自分が感じたこと、見たものから広げていくことが多いですね。自分が思っていないことを曲にすることはできないので、ちゃんと感じたことをメモして、そこから広げるように作ります。“曲を作ろう”と意気込んで取りかかるより、“あっ、こういうの素敵だな”と思ったものを溜めていって、“今日、曲を作りたいな”という時に書いています。

EP『きみと過ごした街のなかで』を拝聴して、個人的には“躊躇なく歌詞を書く方だな”という印象があって──。

あっ、本当ですか?

“あまりこういうことは歌詞にしないのでは?”という、他では見かけないタイプがあるように思います。特に2曲目「残暑」は面白いですよね。

嬉しいです! ありがとうございます。

恋愛が終わる寸前というか、終わった直後というか、切り取り方がとてもいいと思いました。

高校生の時とかは今よりも経験がなかったので、他のアーティストの曲を聴いて“こういう曲もあるんだな”とか、“この人はこういう恋愛をするんだ!?”と吸収した上で歌詞を書くこともあって。でも、今は自分の生活を大事にしているというか。もちろん音楽もいっぱい聴くんですけど、昔みたいに“いろんなものを聴いて、とにかくインプットする”という感覚よりは、好きなものを好きな時に聴いて、心が動いたものを自分のものにする感じで、人の目を気にして書くというよりかは、自分が書きたいように書いて、それをいいと言ってくれる人がいればいいなという想いのほうが強いです。

「残暑」の歌詞だけ見ると、結構残酷なことを言ってるじゃないですか。でも、メロディーは柔らかい印象ですよね。だから、最初に聴いた時はどんなふうにとらえていいか分からないところがあって。

確かに(笑)。何だろうな? これ、ほぼ実話みたいな感じなんですけど(笑)、好きな人と一緒に生活していく中で、すごく好きだけど、いつからか“これは情なのか? 情じゃないのか?”みたいに思っちゃう時があったんです。今までの“好き”と違う感覚になった時にどう接していいか分からなくなってしまって、終わり方も分からない。別に嫌いになったわけじゃないから、“どうやって終わればいいか分からない…”みたいな時に素直に書いたんです(苦笑)。

自分でも“この感情は何だろう?”と思ってしまった感じですか?

そうですね。

で、その“この感情は何だろう?”と思った時が曲ができるタイミングということなんですね。

はい! やっぱり自分の想いを大事にしているので、そういう感情が揺れる時に、その時の気持ちを忘れないように曲を書くという。私、すごく忘れっぽいんですよ。日記じゃないですけど、手紙のような感じで、その人に向けて直接言えないこともたくさんあるから、“曲にして残しておこう”という感覚で書くことが多いです。

あと、5曲目「光のなかにいてね」も新鮮でした。誤解を恐れずに言えば、視線がちょっと“お母さん”みたいで。

あぁ、母性ですよね(笑)。

“こういうロストラブソングもあるんだなぁ”という感想です。

とっても嬉しいです。

訊いていいかどうか迷いますが、これも実体験が入ってますか?

実体験です。私のことをすごく好きでいてくれていたんですけど、私のほうがダメになっちゃって。その人は“絶対に一緒にいたほうが幸せになる”と言っていたけど、私は逆に“離れたほうがいい”と思ったので離れることに決めたんです。とはいえ、私は“大丈夫かな?”ってずっと気になってはいたんですけど、しばらく経った時、たまたま目にする機会があって、SNSでも元気にやってそうな投稿を見て“やっぱり正解だったんだな”と思えて。すごく大切な人だからこそ一緒にいなくても幸せになってほしいと思うし、「光のなかにいてね」は “ひとりでボロボロにならなくて良かった”と思って書いた曲です。

「光のなかにいてね」の《朝に起きて、夜に眠るきみを/想像して、嬉しくなるから/光の中にいてね/光の中で生きていてね》は、いいフレーズですよね。ダメ人間が更生した様子を見守るという。

そうです、そうです。本当にそういう感じなんですよ。

生々しいし、それを躊躇なく出しちゃうんですね。

生々しいです(笑)。恥ずかしいことという感覚は全然なくて、私は自分の好きなように生きているし。もちろん本当に書きたくないことは書かないですし、こうやって作品にして、聴いてくれた人がいいと思ってくれるならいいかなと思います。

シンガソングライターとして活動を続けるうちにそういうスタイルになってきたんですか?

高校生は想像で書くことも多かったんですけど、東京に出てきて、いろんな人に出会って、いろんなことを経験していくうちに、私の書きたいことってこういう感じ…“生きた証”ではないけれども、誰かと作った思い出をまず自分が忘れないように書いていけたらいいなと思うようになりました。
果歩
EP『きみと過ごした街のなかで』

OKMusic編集部

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