【nothingman】生活の一部として聴い
てもらいたい
取材:高良美咲
これまでの楽曲のリテイク・リマスタリング曲と新曲を収録したミニアルバムを2枚連続リリースということで、その1枚目『小さなライブハウスのステージの上から』をリリースしてからしばらく経ちましたが、改めて振り返ってみてどのような作品になったと思いますか?
宮下
これまでに廃盤となった作品の楽曲がメインで収録されているという理由もあっての11トラック入り1000円という破格の値段設定なんですけど、それはあくまでもいくつかの理由のうちのひとつですが、そういう意図を僕らはきちんと伝えられているかな?という不安がリリース直後にはあって。でも、8月の東名阪インストアツアーを終えて、今ライヴハウスでのツアーを回ってるんですけど、例えば先日の京都(9月29日@京都nano)でも、フロアーで僕らと一緒に歌ってくれている人が何人もいて。それはこれまでに見てきた景色とはまた少し違うような気がして。多分『小さなライブハウスのステージの上から』をリリースしたからだと思うんですよね。本当にタイトルの通り、少しずつですけど僕らとお客さんをより強くつないでくれた作品になってくれたと思います。
同作は廃盤になった曲を収録しているということで、ファンからの反響はどうでしたか?
宮下
ライヴ後、たまに僕らのコピーバンドをやっていますという人たちに出会うんですけど、先日もそう言いながらこのCDにサインしてほしいと持ってきてくれて。ちなみに何を演奏したの?と訊いたら、このCDの中の曲もあって。それは今まで流通してなかった曲だったから、やっぱりこのCDを作って、流通させて良かったなって思いました。
バンドとして嬉しい出来事ですね。そもそも、この2枚のミニアルバムを制作しようと思ったのはなぜでしょうか?
宮下
個人的には、できれば家で楽曲を聴き込んでからライヴに行きたい派で。バンドが自分の知ってる曲を演奏してくれるとやっぱり嬉しいじゃないですか。廃盤になったり、ライヴ会場限定だったりした曲も、CDは廃盤になってもライヴではこれからも演奏していくので。そういった自分の中の矛盾を解消できて、しかも今まで自分たちを知らなかった人にも改めてアピールができていいんじゃないかと思ったのがきっかけでした。あと、ネットで僕らの廃盤音源が高い値段で売られていたことへの、僕らなりのアンサーでもあります。値段設定も含めて。
なるほど。今回リリースとなる2枚目の『彼方からの手紙』はバラード曲が中心になっていますが、それぞれの構想はあったのでしょうか。
宮下
もともと1枚じゃ収まらないと思っていたので最初から2枚リリースするつもりでしたが、曲目がこの2枚に分かれたのは本当に偶然です。結果論ですけど、この曲目に分かれて良かったと思います。
唯一の新曲であり、1曲目を飾る「ドリームキャッチャー」は夢を叶えるための悲しい別れの中に“お互いに前進む”という未来へ向けての温かいメッセージが込められていますね。
宮下
一部前後はするんですけど、2曲目以降が制作した時間軸と主人公の人生に添っていくような曲順になっていて。そんな中での1曲目ということで、自分の中にある一番古い思い出を書くことにしました。ちょうどこの歌詞を書いている時期に、たまたま友人が大きな別れをして。そこから自然と別れの思い出を引っ張り出してきた気がします。最後にきちんと希望を歌ったのは、そのあとに続く曲目へのプロローグとしての意味だったり、友人への後押しの気持ちだったり。別れを経験したあとの自分の人生が、今とても充実しているからこそ歌えることかもしれないですね。
他に収録されている楽曲はこれまでのリテイク・リマスタリングですが、制作時と今回で変わったところはありましたか?
宮下
単純に、昔よりうまく演奏しなきゃなと思いました(笑)。
バンドとして重要なことですね(笑)。それでは、本作の“彼方からの手紙”というタイトルに込められたメッセージを教えてください。
宮下
もともと自分が弾き語りで作ってたCDのタイトルだったんですが、とても気に入っていて。今回の曲目を見ながらいろいろ考えたんですけど、どうしてもこれ以上にしっくりくるものがなくて、メンバーに言ってこのタイトルにさせてもらいました。一曲ずつに当時の思い出というか、作ったばかりの頃は当事者だったんですけど、時間を置いて改めて聴いてみると、当時の自分から今の自分へのメッセージでもあるような。昔の手紙を掘り起こして読んでいるような気持ちになります。
中でも特に思い入れのある曲は?
宮下
その時その時で違うんですけど、出来上がった直後は「響きあえる」(オムニバス『humarhythm』より)が特に印象的でした。一番古い曲だったんですけど、昔表現できなかったことが、今少し表現できるようになっていたことへの感動がありました。
どのような一枚になったと思いますか?
宮下
曲の中にいるひとりの主人公が、少しずつ成長していく物語のような作品になったと思います。
もしかしたら、その主人公は自分自身なのかもしれないですね。そんな今作の聴きどころは?
宮下
とてもシンプルな音なんですけど、だからこそ時代に振り回されずに歌を届けることができると思ってます。それを伝えられていたら嬉しいです。昔の作品を持っている人には、変化したところを聴き比べながら楽しんでほしいです。
この2作を制作したことで、何か得られたものはありましたか?
宮下
古い曲だと古臭く感じて再リリースに抵抗がある場合もありますが、僕らの感覚では自分たちの曲にはあまりそれを感じなくて。それは多分、僕らの最大の特徴のひとつのような気がします。時代に振り回されずに、でも時代背景や匂いもちゃんと録音して。その積み重ねが今のnothingmanなんだと、改めて自分たちの楽曲に教えられた気がします。
バンドとしてとても重要なことに気付けた2枚ということですね。今後は、どのような活動を?
宮下
まず、目の前にあるNAGOYA CLUB QUATTROでのワンマンライヴに向けて、より多くの人に僕らの作品を聴いてもらえるように活動していきます。そのあとのことは、そのステージからの景色を見てからゆっくり考えたいですが、せっかちなので多分ゆっくりは無理ですね(笑)。新しい目標を定めつつ、きちんと日々生活して、その中から普遍的なものを感じて、取り出して、楽曲にしていく作業をより繊細に続けていくことが、僕らの主な音楽活動だと思いますので。日々の生活を大切にしていきたいです。
最後に、リスナーの方々にひと言お願いします。
宮下
今回、破格の値段での2枚のミニアルバムをリリースさせていただいたのは、何よりもまずはみなさんの家のCDラックの1枚になって、家で、通勤で、学校で、職場で、みなさんの生活の一部として聴いてもらいたいからです。僕らのことを知っている人にはもちろん、全く知らない人にも手にとってもらいたいからです。ぜひ聴いてやってください。よろしくお願いします。
- 『彼方からの手紙』
- OBOCD-019
- 2013.10.16
- 1050円
ナッシングマン:2006年7月に結成された、名古屋を中心に活動中の3ピースバンド。これまでに自主制作によるミニアルバム、オムニバス、マキシシングルの他、松田龍平が主演を務めた映画『蟹工船』のインスパイアアルバムへの参加を果たしている。バンド結成10年目を迎え、15年11月に初のフルアルバム『ocean』をリリース。オフィシャルHP
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