【BALLOND'OR インタビュー】
2作連続リリースの第二弾は、
一曲一曲相応しい音色を求めた
こだわりの赤盤
下北沢を拠点にポップとカオスのぶつかり合いを追求する、BALLOND'OR。それぞれにコンセプトを持った青盤『Blue Liberation』と赤盤『BLOOD BERRY FIELDS』というミニアルバムの連続リリースに挑む彼らが、2作連続リリースの第二弾となる赤盤を完成させた。
7月にリリースした“青盤”ことミニアルバム『Blue Liberation』は、いろいろ手応えがあったのではないでしょうか?
NIKE
『Blue Liberation』を聴いた感想として、周りのバンドマンもお客さんも“こんなの初めて聴いた”っていう声が多くて。それがどこの部分かというのは結構まちまちで、歌詞だったり、音の感じだったりとか、音に対する歌詞の乗り方だったり、いろいろなところが“新しい”と言ってもらえたんです。しかも、写真を撮ったり絵を描いたりしているような、何かクリエイティブなことに携わっている人たちに言われることが多くて。そういう人たちに共鳴してもらえたのが嬉しかったですね。
†NANCY†
絵を描いてる人が“歌詞に共感した”と言っていたのが面白かったです。あと、ディスクユニオンで初めてインストアライヴをやらせてもらたんですけど、外国人のお客さんが『Blue Liberation』を聴いて観に来てくれて。
NIKE
カップルで。すごいノリノリだったよね(笑)。
NIKE
そんな新しい出会いがいろいろ起こっているところですね。
“新しい”という反応は予想外だったんですか?
NIKE
作っている時から自分たちでも何か起こる気がしていたというか、今までとは違うムードを音源に詰め込めることができたと感じてたんですよ。だから、その反応が余計に嬉しかったですね。
そして、実際に何かが起こり始めているところに畳み掛けるように“赤盤”ことミニアルバム『BLOOD BERRY FIELDS』をリリースするわけですが。前作の『Blue Liberation』をMJMさんは“衝動的で、サウンドもシンプルで、自分たちが持っているものを限界までがむしゃらにやった”と表現していましたけど、赤盤はどんな作品になりましたか?
MJM
青盤はパンクとかガレージロックとか、もともと大好きだったものを出していったんですけど、赤盤はリスナーとして自分たちが好きないろいろなものをふんだんにというか、あまりブレーキをかけずに詰め込みました。
今、好きなものということですか?
じゃあ、パンクもガレージロックも?
MJM
はい。グランジやサイケデリックロックもそうなんですけど、それを融合したいっていう意識は青盤よりも赤盤はかなり強かったです。
90年代のヒップホップやビッグビートのエッセンスもすごく感じました。
MJM
そうですね。「SUICIDE HEADS」という曲は作っている前後にBeastie BoysやN.W.A.とかの映像集やアルバムを観たり、聴いたりしました。
AKAHIGE
MJMが持ってくるんですよ、“これ、みんなで観よう。聴こう”って。
MJM
「SUICIDE HEADS」は赤盤の中でも色が違うと思うんですけど、“今の自分たち”という意味で大事な曲なので入れたんです。僕らの曲って、さっきNIKEくんが言ってたみたいに“聴いたことがない”や“こんなの初めてだ”とか結構言ってもらえるんですけど、パンクとメロディーとか、グランジとサイケとか、いろいろな要素がミックスされている。「SUICIDE HEADS」もまさにそういう曲で。曲としてもすごく好きで、歌詞も自分なりに納得できるものになったんですよ。
「PASTDOWNERS」のビートはThe Chemical Brothersの「Setting Sun」か、The Beatlesの「Tomorrow Never Knows」かっていう。
MJM
まさに「Tomorrow Never Knows」のドラムのフィルや音像をイメージとしてエンジニアさんに伝えたんですよ。“今の時代の音でこの感じをやりたい”って。でも、ただ古臭いものにしたいわけじゃなくて。もちろん60年代のモッズとかサイケとか大好きなんですけど、その憧れをあの曲に乗せて、僕たちのテンションやセンスとちょうどよく混ぜて、今の時代のサウンドにできないかって考えてました。
MJMさんはモッズも好きなのですか?
「SUICIDE HEADS」の歌詞には《さらば青春の光》って映画のタイトルとか、モッズのシンボルである《ベスパ》(スクーターの種類)とかって言葉が出てきますね。
MJM
あの映画はモッズのバイブルですから。The KinksとかManfred Mannとかも好きですね。
あぁ、「PASTDOWNERS」の終盤で一瞬、Manfred Mannの「Do Wah Diddy Diddy」になりますもんね(笑)。
そういう遊び心が聴いていてとても楽しいです。
MJM
「PASTDOWNERS」は最初、リフはリフ、サビはサビで合わせてたから、メンバーたちはそれぞれに違う曲だと思ってたみたいで(笑)。そういう意味では変な作り方でしたね。
NIKE
“どこまで本気なの?”って思ってました。歌詞のワードもそうですし、曲の変調していく感じもそうですし。“これ、本当に一曲にするの? マジか!?”って(笑)。
MJM
自分の中では完成したものとしてあったんですけど、結構驚かれましたね。
†NANCY†
今回自分の中では、最初にMJMが持ってきた時と出来上がった時の印象が一番変わった曲でした。
AKAHIGE
今までのBALLOND'ORって激しい、衝動的っていうイメージがあって、特にドラムはそういう部分が強かったんですけど、「PASTDOWNERS」はMJMからいろいろ聴かせてもらって、衝動的ではありながらもちょっとオルディーズなフレーズや音作りを意識したんです。ドラムの音作りも今回はチューニングやミュートを曲ごとにこだわったんですよ。MJMの中に結構イメージがあったみたいで、完成したと思ってもイチからやり直したこともありましたね。
MJM
今回は一曲一曲の音色にこだわったんですよ。ドラムももちろんですけど、やっぱりシンセが一番なのかな。曲ごとに違うと思います。青盤のシンセってシューゲイザーな雰囲気があったんですけど、赤盤はもっと立体的というか。
†NANCY†
ドラムとシンセに関しては200曲ぐらい参考音源をもらって(笑)、それを聴いた上で音色やフレーズを一緒に作りました。
MJM
今回、リズムとシンセはかなり変わりましたね。ギターは前から結構ギンギンしてたんで(笑)。
200曲ってデータで渡したんですか?
MJM
いや、CDでした。ミックスCDを焼いて“これ、どう?”って(笑)。
この時代にCDってところがいいですね(笑)。
†NANCY†
曲でもらうこともあったし、映画に例えて言われることもあって。例えば、ピノキオがクジラに飲み込まれるシーンとか、白雪姫が山に迷い込むシーンとか、そういうファンタジー映画のダークなシーンの音みたいに言われることもありましたね。
そういう時はその映画を観るのですか?
†NANCY†
観ます。でも、ディズニー映画は私も大好きなので大体分かるんですけど(笑)。
NIKE
曲のイメージを伝える時、MJMの中で原体験になっているような作品を言われることが多かった。
MJM
青盤の時は“ピカソにも青の時代があったんだ”って。
NIKE
…っていきなり言われても分からないから(笑)。“岡本太郎の赤がすごい”とか、†NANCY†が言ったみたいに映画のタイトルやシーンが出てきたりもするし、小説の一節だったりとかも。そういうものを僕らも共有しながら、それが音楽としてつながっていくって体験はBALLOND'ORとして初めてだったので、新しいやり方で作れたんじゃないかな。
MJM
青盤の時はスタジオでメンバーと結構ガーッと作ったんですけど、赤盤の曲は自分の中で結構完成されていたから、あとはそれをどう再現するかだったんですよ。バンドをやる前、僕は小説家や絵本作家に憧れてたんです。だから、曲を作る時には風景や映像がまずあって。今回も1曲目の「Strawberry Rider」を作る時に映像がすでにありました。それをどういうサウンドやメロディーで表現するかってところで、この曲はそれが思い通りに…自分が目標としていた感覚にやっと辿り着けたと思ったと同時に、“できなかったことができた!”という感覚があるんです。
なるほど。そのまま素直に受け取ればいいんですね。セックスの暗喩かと思いました(笑)。
MJM
僕の想像と聴いた人の想像は違うと思うんですけど、それが面白いんですよね。例えばEric Carleって絵本作家の作品を読んだ時、感じ方ってみんな違うと思うんですよ。“悲しい”と思う人もいれば、“楽しい”と思う人もいると思う。そういうことをいつか自分でもやりたいと思ってたんですけど、それがたまたま赤盤の1曲目に訪れた(笑)。
青盤はとても狭いスタジオでレコーディングしたそうですが、赤盤はどうだったのですか?
NIKE
その分、ドラムのダイナミックさは出せたんじゃないかな。
MJM
「PASTDOWNERS」や「SUICIDE HEADS」とかの抜けの良さとか。
今回、ギターはどんなふうにアプローチしていったのでしょうか?
NIKE
BALLOND'ORがあまりやってこなかったビート、曲調、展開の曲が多かったので、1回自分の中でリセットして、改めてメンバーといろいろレコードを聴き漁ったり。その中でいいところを純粋に取り入れていったら、それがもともと自分が好きだったものと結び付いて青盤と全然違う表現になりましたね。もちろん、根底にあるグランジやシューゲイザーっていう音作りはこだわってやっているんですけど、曲が青盤とはまた違うので、それに合った表現にはできたと思います。
では、ひとりずつお気に入りの曲を教えてください。
†NANCY†
日によって全然違うんですけど…今パッと思い付いたのは「LOLITA JUICE」です。グランジっぽさはありつつ中盤でフレンチポップスのようになる、そのキラキラと幻想的になる感じがMJMっぽくて好きです。†NANCY†が歌うところもJane Birkinを意識しました。“もっと甘い感じで”とか“ロリータっぽい感じで”とかMJMに指示されながら、何回も歌ったんですよ。そこのメロディーもすごい好きです。
NIKE
BALLOND'ORってノイジーなのにバラードを歌えるバンドだって思ってるんですけど、それが僕自身、好きなバンドの在り方なんです。自分の好きなアーティストを考えても必ず名バラードがある。それがひとつと、青盤から赤盤っていう流れの最後の曲が「ANGEL FISH」なんですけど、その曲のマスタリングが終わった時、“ここに辿り着いたんだ”って思えたっていう思い入れもあるし、MJMっぽいメロディーが一番出ていると思うし。MJMが作るメロディーが好きで一緒にバンドをやりたいと思ったので、「ANGEL FISH」はすごくいい曲だと思います。本人には言ったことがなかったですけど(笑)。
AKAHIGE
僕は「PASTDOWNERS」。MJMが持ってくる曲がまた新しくなったと思いました。赤盤の代名詞になっちゃうんじゃないかってぐらいのイメージがありますね。サイケかつオルディーズな雰囲気と現代をつないでBALLOND'ORの色として仕上げているところが好きです。
MJM
本当迷いますよね。僕は「Strawberry Rider」かな。「PASTDOWNERS」かな。いや、今は「Strawberry Rider」かな…逆に、どれが好きですか?(笑)
リズムが面白い「PORNODOLL」ですね。
MJM
一番苦労した曲だからすごく嬉しいです。壊れた遊園地のイメージで作りたいっていうのがあったんですけど、何かが足りなかった。
それを完成させられたきっかけは?
MJM
歌詞が書けそうなんだけど、もうちょいなんだよなって時に、ひとりで夜中によこはまコスモワールドまで散歩して観覧車に“壊れろ!”って思ったりして(笑)。あとは、気持ちを高めようと思って初めてストリップを観に行ったことですかね(笑)。NIKEくんを誘ったら断られたんでひとりで行ったんですけど、すごかったです。エロさよりも強烈なものを感じたんですよ。
歌詞の世界観も好きです。
MJM
大金が結局ポルノ産業に流れ込む人間の欲望というか、あの汚い感じは、サウンドも含めて結構いいものができたと思います。
AKAHIGE
歌詞をもらった時はびっくりしましたよ。こんな歌詞、他にないですよね(笑)。
赤盤の最後には青盤同様、ちょっとした仕掛けがありますが、青盤と赤盤を完成させたBALLOND'ORはこれからどこに向かうのでしょうか?
MJM
ここから、青から赤へとマーブルになっていくと思います!
取材:山口智男
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ミニアルバム『BLOOD BERRY FIELDS』2018年10月3日発売
actwise
MJMとNIKEを中心に下北沢にて結成。2017年、夜の本気ダンスなどが所属するactwiseに加入。18年7月にミニアルバム『Blue Liberation』、同年10月にミニアルバム『BLOOD BERRY FIELDS』を2枚連続で発表。20年4月には3年振りのフルアルバム『R.I.P. CREAM』を完成させた。BALLOND'OR オフィシャルHP
「SUICIDE HEADS」MV