L→R ニシカワユウスケ(Dr)、フクシマアキラ(Ba)、フクシマサトル(Vo&Gu)

L→R ニシカワユウスケ(Dr)、フクシマアキラ(Ba)、フクシマサトル(Vo&Gu)

【限りなく透明な果実】3人のギリギ
リの関係性がこのバンドの魅力

3ピースバンド・限りなく透明な果実が11月25日にアルバム『Troll Tochk』(トロールトーチカ)をリリースする。ひと括りに“哲学的”と言うよりも、バンドの首謀者であるフクシマサトル(Vo&Gu)の辛さや悲しみが投影された各曲に注目してもらいたい。
取材:高良美咲

このバンドの結成のいきさつは?

サトル
僕が組んでたバンドのメンバーが抜けてしまったので、仕方なく弟とバンドを組みました。その後1~2年はライヴとスタジオの繰り返しの活動でしたね。
アキラ
もともとドラムの西川とバンドをしていたんですが、急に兄ちゃんから電話がかかってきて…“おい、バンドやるぞ”と(笑)。
ニシカワ:
さらに、アキラとサトルさんの電話の中で“ドラマー連れてきて”ってくだりがあったらしくて…それで、連れて行かれました(笑)。

限りなく透明な果実としてやりたかったこととは?

サトル
とにかく、新しいことをしたかったです。この3人でしかできないことというか。3ピースバンドの限界をどこまで超えられるか?っていうのを考えてました。さまざまな紆余曲折を経ても、それだけは今も変わらない気がしますね。
アキラ
いつもスタジオでセッションという名のぶつかり合いを何回もして…その結晶が楽曲となってます。俺ららしい、俺らだけの音楽をいつまでもしていたいですね。
ニシカワ
本当にいいと思うものをずっと追求していきたくて。替えが利かない存在でありたいです。

11月25日にリリースとなるアルバム『Troll Tochk』(トロールトーチカ)は、いつ頃から制作を始めたのでしょうか?

サトル
「さよならスカーレット」は9月にアナログ盤でもリリースしたんですけど、この曲はバンド初期からずっとあった曲です。「アントワネット」「ニュルンベルクの卵」は前作のミニアルバム『LILI&HAL』(2015年1月発表)以後、今年に入ってから作った曲で、それ以外の5曲は今年の9月くらいに制作を始めました。実はとても最近なんです。

楽曲は実際の出来事から旧約聖書の物語まで、歴史的に変化を及ぼした出来事や発見などの哲学的なものが多く感じました。

サトル
この1年はさまざまな政治的出来事があり、個人的にも歴史に対して真摯に向かい合おうと思っていた時期でした。原発のことや法案のことはもちろんですが、もっと遡れば、歴史の分岐点になった出来事はたくさんあって…。そういった出来事を勉強しながら、そこにいたであろう人々の想いを想像することで現実逃避していたんだと思います。僕個人の辛さや悲しみを拡大解釈して投影したかったんですかね。しっかりとした構想とかは特に練ってなかったので、ただただあふれ出る言葉と感性に任せてみました。
ニシカワ
俺も時事や歴史に関して勉強してますが、サトルさんの“あふれ出る言葉と感性”には、驚かされることが多々ありますね。

楽曲はどのように作ることが多いですか?

サトル
曲はスタジオでセッションして作ることが多いです。それらのサウンドをもとに僕がまとめ上げることもありますけど。歌詞は…とても辛くて(笑)。喫茶店、またはスタジオでカンヅメになります。

今作を経たことで、改めて限りなく透明な果実とはどういうバンドだと思いましたか?

サトル
昨今のさまざまなバンドと比較すると地味なバンドかもしれない。でも、実際はとても個性的で…不器用なバンドなんだなと。
ニシカワ
このバンドはこれまで何度も衝突を繰り返してきて、このアルバムに関しても例に漏れずぶつかってきました。目標は同じなのにすぐに衝突する、3人のギリギリの関係性がこのバンドの魅力のひとつかもしれないとアルバムを通じて思うようになりましたね。
アキラ
ひっくるめて簡潔に言うと、唯一無二の、まさに今の音楽シーンに必要不可欠なバンドなわけです!(笑)

今作の始まりを告げる「風を食べる怪物」は、もともとはどのような楽曲を作ろうと思っていましたか?

サトル
オランダの物理学者テオ・ヤンセンのストランドビーストに影響を受けました。既存の発電方法やエネルギー獲得に対するアンチテーゼというか、そもそも風と光があれば音は鳴るので、それを幕開けにしたいと思ったんです。

「さよならスカーレット」は過去にアナログ盤「さよならスカーレット/レコンキスタ」、デモCD「       」(無題)にも収録されていますが、今作にも収録した理由は?

サトル
とても純粋な曲ですので、この曲を軸にすれば他の楽曲でどれだけ振り切っても戻ってくることができると思っていました。ノスタルジックでセンチメンタルで…むしろ、それだけでできている曲です。歌詞ひとつひとつが涙そのものなんです。

「トーチカソング」で描いているストーリーの真意とは?

サトル
もともとは初期の楽曲である「十字衛生軍」の続曲を考えていたのですが…。“トーチカ”とは軍事施設のことで、その存在と精神性、また、そこに散らばる兵士を俯瞰して描こうと思いました。ギリギリの命とともにあるのは希望だ、むしろそうあってほしい、という願いを込めました。制作時に安保可決と国会前のデモなどがあり、よりリアリティーを持ってしまった気がします。個人的には複雑な気持ちですね。

「アンティキティラ島」は?

サトル
ここでは文明の発端を描こうと思いました。少し寓話的にしたいと思い、神秘性のあるオーパーツ的な事柄とスチームパンク的な要素を混ぜて合わせ、ちょっと斜めからの提示をしたいなと思いながら描きました。

「象の足音」は1曲の中での展開が幅広く、インドのシタールのような響きも印象的でした。

サトル
サウンドやアレンジに関しては、今までやってこなかったことを率先してやって、とても実験的な楽曲になっていますね。これは旧約聖書のソドムとゴモラという街を主軸に描きました。天からの火で滅ぼされてしまう街なんですが、放射線が降り注ぐ様子とリンクしたので、そういう歌詞になりました。

「アントワネット」は、マリー・アントワネットを題材に孤独さや悲しみを書いた歌ですね。

サトル
ブレゲのNo.160という歴史的な懐中時計がありまして…最初はそれについて書こうと思ったんですが、だんだん逸れてきてしまい、王妃マリー・アントワネットが主役になってしまいました。「ニュルンベルクの卵」と対になるはずの楽曲でしたが、次第に意思を持って独立してしまった曲です。

ドラムロールとコーラスが印象的な「ニュルンベルクの卵」は、1511年にピーター・ヘンラインによって作られた懐中時計がテーマになっていますね。

サトル
前作『LILI&HAL』に収録の「三番街、発明家」と同様のステージを描きました。とある街の地下室での発明が世界を動かし、人類を進化させるわけで…懐中時計という凄まじくミニマムな空間が発端なのに、最終的に巨大な歯車をも動かしてしまう。そういうロマンを描こうと思いました。

最後を締め括る「透明な兵士」は、今作における上でどのような一曲になったと思いますか?

サトル
ここまでの7曲を受けてのアンサーソングですね。兵士たちへのレクイエムを書きたかったんだけど、やはりというか、またというか…センチメンタルでパーソナルな曲になってしまいました。この曲は僕の精神性そのものです。泣きながら歌詞を書いた覚えがあります。

今作には“Troll Tochk”(Troll=北欧の怪物、Tochk=希望の灯)と名付けられたわけですが、どのような一枚になりましたか?

サトル
正直、まだ自分でもうまく咀嚼できていないんです。このアルバムを制作している時、本当にギリギリの命だったと思うんです。完成した時に、もう僕の役目は終わった、死んでもいいや…それに近いことを思いました。良くも悪くも、自分そのものだと思っています。

本作の中でも思い入れのある楽曲、印象深い楽曲があれば教えてください。

サトル
もちろん、全ての曲に対して思い入れが深いですが、「さよならスカーレット」はここに収まるまで時間がかかった曲なので思い入れが深いですね。手間がかかったと言うべきか(笑)。全曲、メンバーだけでレコーディングをしているんですが、ヴォーカルの録り直し回数が一番多かった。少なくとも500回以上、もしかすると4桁はいっていますね。納得するまで時間をかけてレコーディングをしました。
アキラ
俺は「トーチカソング」ですかね。バンドとしてあっと言う間に出来上がる曲もあれば、難産な曲もあって。このアルバムを作る中でメンバー全員、ものすごく自然に仕上げることができた「トーチカソング」は今のバンドを表現してくれる素敵な一曲ですね。
ニシカワ
「風を食べる怪物」と「透明な兵士」ですかね。ひとつに選べませんでした(笑)。「風を食べる怪物」は、出来上がって聴いた時のインパクトがめちゃくちゃ強かったです。“この曲、カッコ良すぎるだろ”って(笑)。「透明な兵士」はサトルさんの弾き語りで。俺らの曲の作り方、メンバーの不器用さ、衝突の頻度…全て語ると長すぎるので言いませんが、果実をかたち作るいろんな要素において、とても大切な意味を持つ曲だと思っています。

今作は、どのように聴いてほしいですか?

サトル
歌詞で触れている歴史的背景も感じながら聴いてほしいですね。もちろん、リスナーさんの自由に楽しんでほしいんだけど、分からない言葉を調べたりするとより楽しいかもしれません。ダイレクトに届くようなストレートな歌詞ではないので、深読みしてくれると嬉しいかな(笑)。
ニシカワ
俺も深読みしてほしいというのに賛成ですね。言葉の意味を知ると印象が変わる曲もあるので、そういった部分もぜひ楽しんでほしいです。
アキラ
どっぷりと浸れる世界観に気持ち良く身を任せてほしいです‼

制作し終えたことで、改めて発見できたことはありましたか?

サトル
自分のスタイルを再確認できましたね。結局、こういう歌詞しか描けないんだろうし…もっともっと追求したいとも思いました。
アキラ
自分でも“めちゃカッコ良いバンドやん‼”って思いました!
ニシカワ
曲としても、曲作りの面でも、バンドの可能性が広がったと思います。

リリース後はどのような活動が期待できそうでしょうか?

サトル
描きたい世界観に忠実にいたいです。そのためには3ピースバンドの枠組みを大きく超えてしまうかもしれませんけど、そういった挑戦も楽しみのひとつですね。
『Troll Tochk』
    • 『Troll Tochk』
    • DDCZ-2064
    • 2015.11.25
    • 2000円
限りなく透明な果実 プロフィール

カギリナクトウメイナカジツ:フクシマサトルを中心に、実弟のフクシマアキラとニシカワユウスケによって2011年に結成。エモーショナルなライヴで観る者を魅了し、手売りのデモ音源を瞬く間に完売。極めて前衛的でありながら、どこか懐かしくてポップで親しみやすい。そんな他に類を見ない魅力を放つバンドである。限りなく透明な果実 オフィシャルHP

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