【平岡優也 インタビュー】
音楽活動を始めて10年という節目で
より挑戦心が芽生えた
“僕の強みはピアノではなくて声”。路上ライヴで誰もが思わず足を止める歌声で、SNSなどでも話題のピアノシンガーソングライター・平岡優也はこう言いきった。自身初となる1stミニアルバム『∞ - infinity -』、さらには本作を掲げた自身初となる東名阪ツアーで、彼が新しく開く扉について語ってもらった。
エレキギターが鳴っている感じで
作りたかった
今回はジャケット写真もこれまでとは雰囲気が違うものになっていますね。
これを見て“変わってない”という人はむしろいないと思いますけど(微笑)。
年齢が20代から30代に変わるんですけど、10年間やってきたことを30代になってもライヴパフォーマンスであったり、発するメッセージ性や曲作りにおいても、継続するものは継続したい。でも、その反面で変えていきたいと思う気持ちもあって。いろんなことにチャレンジしたいというベクトルが僕の中にあったので、タイトルを“∞ - infinity -”にしたんです。あと、30代、40代、50代になっても可能性が無限大に広がっていることを伝えたいという気持ちもタイトル込めましたね。
なるほど。ここで先に確認しておきたいのですが、平岡さんの中でいろんなことにチャレンジしたいという気持ちのベクトルが強くなっていったきっかけはどこにあったのでしょうか?
基本的に音楽シーンは“これをやっていればいい”という世界ではないし、これは僕の性分なのかもしれないですけど、飽っぽいところがあるので、次から次へと新しいことにトライしてみたい気持ちがベースにあるんです。その感性が今回は強く働いてしまったというか(笑)。20代から30代、ちょうど区切りのいい年齢でもありますし、音楽活動を始めて10年という節目でもあったので、より挑戦心が芽生えまして。
そういう節目が重なったのも大きいと。
はい。特にここ3年くらい、コロナ禍になってからはライヴ活動ができなかったので、自分の楽曲を見つめ直す機会がありまして。“こういう曲があったらライヴで盛り上がるだろうな”とか、いろいろと考えたんですよ。結果、ライヴパフォーマンスもピアノの弾き語りスタイルにこだわらず、そのフォームを崩してピアノを弾かないでもできる曲があっていいんじゃないかと思って。そういうふうに自分のやりたいことも含めて、楽曲やライヴの可能性を探るようになりました。もしかしたら、そのタイミングがたまたまこの節目にやってきたというだけかもしれないですね。
平岡さんとしては“ピアノシンガーソングライター”という肩書きに縛られるのは嫌だという気持ちもあったのでしょうか?
嫌というよりも、ピアノだけでいろんな世界を自分で広げていけるのであれば、それを貫いたほうがいいと思うんです。それこそ藤井 風さんみたいに。だけど、僕の強みはピアノではなくて、声だと思っているんですね。なので、ピアノに固執しなくてもいいんじゃないかというのが自分の見解です。
そうなんですね。平岡さんが自分の最大の強みは声だと確信したのは、いつ頃でしたか?
僕の中では、やっぱり路上ライヴの影響が強いと思います。ピアノを弾きながら路上で歌っている男性シンガーの人数自体があまり多くはないんです。その中で、僕の場合はピアノで通行人が止まってくれているというより、声で止まってくれている。それに気づいたという感じですね。
ピアノを弾きながら歌うというパフォーマンス以上に、人を立ち止まらせていたのは声だったんですね。
そうですね。それは僕だけに限らずそうだと思いますけど。路上ライヴにはギターの弾き語り、オケ音源で歌う方、さまざまな方がいますけど、やっぱりみんな声なんですよ。新宿とかで路上ライヴをやると、いろんな音が騒がしく周りで鳴っているんですけど、その喧騒の中でふっと聴こえてきた声に惹かれて通行人は足を止めていると思うんです。だから、極端な話、僕の声を嫌いという人もいると思います。
もっとワイルドで、強い声が好きな人もいらっしゃいますからね。平岡さんはやさしい声ですから。
パワフルな圧力があったり、ちょっとしゃがれた声が好きだったりね。それは人の好みだと思うんですけど、その中で僕の声を好きと思ってくれる方が路上で足を止めてくれるんです。だから、その強みを30代ではもっと尖らせていきたいなと。
路上ライヴでは楽曲や楽器よりも、声が立っていないと生き残れないということですね。
僕はそう思っています。一番前にくるのは声ですからね。そもそもその漏れ聞こえてくる声が好きじゃなかったら、曲がどんなに良くても、演奏がどんなに上手でも足を止めてまで聴こうとは思わない。例えば、優里さんの「ドライフラワー」という楽曲ひとつとっても、“この人が歌うのはいいけど、この人の声では聴きたくない”ってみんなあると思うんです。それって、そういうことですよね。
なるほど、分かりました。では、作品の話に戻ります。今作のジャケットのアートワーク、文字のフォント選びとか少しデジタル寄りですよね。それを柔らかい感じに落とし込んでいるところは平岡さんらしいと思いました。
ありがとうございます。アーティストイメージとして、そういうものをデザイナーさんが汲み取ってくれたんだと思いますね。
アルバムタイトルはどのタイミングで思い浮かんだのでしょうか?
流れから話すと、今回は最初にツアーをやることが決まっていまして。やるなら何か作品を出したいという話になり、フルアルバムは昨年に出したから、今回は僕にとって初のミニアルバムを作るということになったんです。楽曲が先に出来上がってきたので、タイトルをどうしようかというのと同時にツアーのタイトルも考えました。その時にツアータイトルとして考えたものを、そのままアルバムのタイトルにもしちゃいました(笑)。
先にツアーが決まっていたということは、収録した新曲はライヴを意識して作ったものばかりですか?
「パラレル」に関しては舞台『あの夏の飛行機雲』の主題歌として書き下ろしたものなんですけど、それ以外の4曲に関してはライヴも意識しましたね。僕はピアノの弾き語りでできるスローなバラード曲が多いので、もっとアップテンポの曲が欲しいと。なので、今回は「ソングレター」しかバラードは入れていません。それ以外の曲はアップ、ミディアムというテンポ感を意識しました。
今作がバンドサウンド主体となったのは平岡さんの意向ですか?
そうです。バンドサウンドでエレキギターが鳴っている感じで作りたかったんですよ。
それは、なぜですか?
制作時期にバンドの音が鳴っているライヴを観に行く機会が多かったからですかね? そこで“やっぱりバンドサウンドっていいよな。カッコ良いな~”と思ってしまって(笑)。“じゃあ、自分がバンドの前に立って歌うとしたらどういう曲かな?”と思っていたら、こういう作品になりました。僕はバンドで歌った経験があまりないんで、ないものねだりですね。ないからこそバンドサウンドの曲を作りたいと思ったんじゃないかと。だから、今後30代に突入して、ライヴの規模が大きくなってバンドでやる機会が多くなったら、今度は逆にピアノの弾き語りを欲するのかもしれないし、もしかするとEDMを欲するかもしれない。これからの先は未知なので。
まさに“infinity”ということですね。