デビッド・ボウイに発見された
スーパー・ギタリスト、
スティーヴィー・レイ・ヴォーンの
『テキサス・ハリケーン』
ボウイからのツアー参加要請を固辞、
レコーディングに専念
ボウイは『レッツ・ダンス』の世界ツアーにスティーヴィーを参加させたかったのだが、自身のレコーディングに専念したいと彼は依頼を固辞している。ギャラが安かったからという理由が流布されているが、やはりスティーヴィーの中ではデビューアルバムを早くリリースしたいと考えていたというのが自然ではないだろうか。
S.R.V&ダブル・トラブルの
デビュー作『テキサス・フラッド』
ジャクソン・ブラウンのスタジオで録音された『テキサス・フラッド』は83年の終わりにリリースされ、50万枚以上のセールスを記録した。この遅れてきたブルースアルバムは、他の人力演奏のロックグループやブルースマンに大きな希望を与えた。また、クリス・デュアーテ、ケニー・ウェイン・シェパードらのような後進のデビューを容易にさせただけでなく、後にジョン・メイヤーのようなスーパースターを生むことになったのも、このアルバムが成功したからこそである。打ち込みがもてはやされた80年代に人力演奏でデビューした彼の存在は、ポピュラー音楽界全体に相当大きな影響を及ぼしたと言える。
本作『テキサス・ハリケーン』について
収録曲は全部で8曲。冒頭のインスト「Scuttle Buttin’」から凄まじいエネルギーでリスナーに迫ってくる。短い曲であるが、これだけのキレのある演奏はそうそう味わえるものではないので、ブルースファンだけでなく、ロックファンにもぜひ聴いてもらいたい。続くタイトルトラック「Couldn’t Stand The Weather」はファンクロックっぽいナンバーで、後半のギターソロはリスナーを煽りまくるというか、まるで喧嘩を売っているような暴れぶりだ。ギター・スリムの代表曲「The Things(That)I Used To Do」でも煽りは継続、アルバート・コリンズばりの切れ味鋭いフレーズの連発だ。ここまでの2曲には、スティーヴィーの兄でテキサスではかなり有名なギタリスト、ジミー・ヴォーンがリズムギターで参加している。
8分に及ぶジミヘンのカバー「Voodoo Child」では、デビューアルバムでは見られなかったサイケデリックロックやファンクの影響をも窺わせる強烈なギターソロを披露しており、かつてロックが光り輝いていた頃を思い出させる名演となった。スティーヴィーの気怠いヴォーカルが光る「Cold Shot」、珍しくロバート・クレイのようなハーフトーンを使ったスローブルース「Tin Pan Alley」、シャッフルの「Honey Bee」と正統派ブルースを3曲続け、アルバム最後はジャズテイストが強い4ビートのインスト「Stang’s Swang」で、彼の新たな一面を覗かせて本作は終わる。
本作は前作『テキサス・フラッド』(全米チャート38位)よりも上位の31位にランクインしており、これはブルースアルバムとしては異例のことである。ましてやリリースが80年代前半(何度も言うが)ということを考えると、彼の音楽がいかにすごかったかということがわかる。
残念ながら、彼は1990年に不慮の飛行機事故によって亡くなってしまうのだが、彼の壮絶とも言えるギタープレイは永遠に生き続けていく。彼のギターを体験したことがない人は、是非この機会に聴いてみてください♪
TEXT:河崎直人