『終わらない歌』収録の
「天使達の歌」
名曲誕生の背景を
坂本サトル本人に訊く

音楽を嫌いになりたくないし、
飽きないようにしたい

──自分の生まれたところに戻ってきたっていうのは面白いですよね。
「面白いんですけど、“もう逃げ場はない”っていう気がしますね。地元に戻ったらそれ以上戻る場所ないじゃないですか」

──でもね、今の話と関係するかどうかはあれですけど、新潟にいる人で、若い頃にニューヨークとかで現代アートをやってた方がいるんですよ。坂本龍一さんとかと一緒に創作活動をされていた方で。その方は新潟に戻られて、今、実家の写真館で活動していて、“それが今一番面白い”と。
「これはその人と同じかどうか分からないんですけども、青森に戻って一番良かったと思うのは、例えばさ、FMで2時間くらい生放送をやって、その中で“こんなことをやりたい”となると、これが東京だと“自分の順番が回ってくるの、何年待ちゃいいんだ!?”ってなる。全てがそうなんですよ。でも、青森へ行って思ったのは…今、毎週2時間の生放送と、もう一個4時間の生放送をやっていて、“こんなにラジオばっかりやってていいのかな?”って最初の頃は思っていましたけど、場数が半端ないんですよ。毎週生放送でラジオの前でしゃべると。そこはクオリティーを落としたくないっていうのもあるのでね。2011年の東日本大震災辺りからradikoが一気に広がって、地方の番組が全国で聴ける状況が徐々に始まってきたから、地方局のラジオでも全国放送だと思ってやればいい。とにかく経験値がガンガン溜まっていくんですよね」

──あと、特にFMでラジオ番組なんかやってると、リアルタイムの音楽がガンガン聴ける、自然と耳に入ってくるというところもいいでしょう。
「それもあリますね。今、午後ワイドの4時間生番組ってのをやっているんですよね、AM局で。それはね、本当に普段生活している人たちの声が届くんですよ。深夜ラジオを聴いている人っていうのは、その時間に狙って聴いてくるでしょ? だけど、午後ワイドっていうのは時計代りに流している人が多いからから、別に俺じゃなくてもいい。ファンと言うよりは普通の人ですよね。そういう人たちからのメールって、すごいその時代の空気感みたいなものを感じるんですよ。“こういう人が毎日暮らしてるんだな”と。1時間に1回必ずニュースも入る。ニュースにすごい敏感になりますし、物を話す時って、やっぱりニュースを知らないと話せないから。ってなるとね、世の流れがすごい掴めるようになるんですよね。圧倒的に快適な環境は作れていると思いますよ。例えば、スタジオひとつ作るにしても建設費用って10分の1ぐらいですからね。10分の1で広さが2倍みたいな」

──サトルさんは青森に戻られてから…いや、戻る前からJIGGER'S SONの再結成があったり、他アーティストのプロデュースもあったり、ソロの活動ももちろんあるし、それ以外のバンド、ユニットといろいろやっていて、音楽活動としてはこれまでにない充実した日々を送ってるのは、これはもうすごいことだなと思うわけです。
「音楽を仕事にするってデビューの時に決めたことで、“一生の仕事にするんだ”って今もずっと思っているんですよね。で、この25年で世界だけじゃなくて、音楽業界がものすごい変わったじゃないですか。CDがダウンロードになって、サブスクになって、制作費を回収する方法も変わるし、まったく音楽の聴き方も買い方も変わっていくっていう激動をずっと経験してきたんですけども、その中でできるだけ最新の情報とか最新の技術に目を光らせて、“その中で何ができるんだろう?”って、自分の置かれたプライベートな環境も含めて、とにかくその中で最適なものを選んできたつもりなんですよ。その中で大事なことっていうのは、音楽を嫌いになりたくないし、飽きないようにしたいっていう。だから、飽きそうになったらまったく違うことやってみるとか、ユニット作るとか、誰かと組むとか、そういうことをやっているうちにいつの間にかこうなったというか。だから、充実しているんだろうなと。おかげさまで、今も喫緊の仕事に相当追い詰められていますけど、お話もずっといただきますしね、いろんな。それがでっかい大手企業のCMじゃなく、地方の企業のCMソングだとしてもちゃんとお金はもらえるし。そこは本当に意外でしたね。“青森へ行ったら青森価格なんじゃないか?”と思ったら、青森は青森でちゃんと出すと思ったら出すっていう人いっぱいいるんですよね」

──地方創生モデルになりそうですよね。
「本当にね、俺は“いつ取材くるのかな?”と思ってんですよ。全然来ないんだけどさ(苦笑)」

──でも、どんどんそういうふうになっていったら地方も賑やかになるし、いいですよね。
「そうですね。でもね、俺が思ってるのは、一回メジャーでやって、全国あちこち行って、いろんな人と会って、いろんなことやった知識と経験を持ち帰っているから、きっと意味があるし、面白いこともできているんだなって」

──そういう意味では正しきUターンっちゃ正しきUターンですよね。
「だから、タイミング的にね、本当にいいタイミングだったと思いますけどね」

──いろいろ試行錯誤しながら逡巡しながらだったけど、かなり理想的なところに来たという。
「上を見たらキリないですし、もっとこうしたいっていうのはもちろんいろいろあるんですけど、今は相当いい音楽生活を送らせてもらっていると思いますね」

TEXT:帆苅智之

アルバム『終わらない歌』2000年発表作品
    • <収録曲>
    • 01. Yellow
    • 02. FREE
    • 03. 弟
    • 04. 愛の言葉
    • 05. たからもん
    • 06. 僕はどこへ行く
    • 07. 傘
    • 08. 世界中のすべての色 (アルバム・バージョン)
    • 09. 人生劇場三文芝居
    • 10. -Interlude-
    • 11. 天使達の歌
    • 12. 流れ星
    • 13. レモネードデイズ
『終わらない歌』('00)/坂本サトル

OKMusic編集部

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