ポルノグラフィティの最大の特徴を
ロックへの敬愛と共に捧げた
『ロマンチスト・エゴイスト』

『ロマンチスト・エゴイスト』(’00)/ポルノグラフィティ

『ロマンチスト・エゴイスト』(’00)/ポルノグラフィティ

ポルノグラフィティがシングル「アポロ」でデビューした1999年9月8日からちょうど20年目となる9月8日(日)とその前日である9月7日(土)に、デビュー20周年を記念したコンサート『20th Anniversary Special LIVE “NIPPONロマンスポルノ‘19〜神vs神〜”』を東京ドームで開催する。彼らにとって10年振りの東京ドーム公演であり、公演名にもあるように両日ともに“神セトリ”によるライヴとなるとあって、否が応にも期待は高まる中、本コラムではデビューアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』で、20年前の彼らを振り返ってみようと思う。

岡野昭仁の天性の歌声

この間、とあるバンドに取材した時、そのメンバーのひとりが“声は才能。磨いてどうにかなるものじゃない”と語っていた。ほんとその通りである。同意するしかなかった。練習したり、鍛えたりすれば、音程を上手にとれるようになったり、音域が広くなったり、声量が上がったり、それこそ表現力がアップすることもあるだろうけれど、その人が本来持っている声質がトレーニングで大きく変化することはないだろう。

いわゆるハスキーヴォイスというのは、先天性発声障害などを除いて、ほとんど先天的ではないらしいので、言わば“作れる声”なのかもしれないが(海に向かって叫ぶとか、ウォッカでうがいをするとか、ハスキーヴォイスの作り方はいろいろとあるらしいが、それらは民間伝承や都市伝説の類いなので、決して真似しないでください)、ハスキーヴォイスの本質はノイジーになったり倍音が増えたりすることと考えると、声質の変化とは少し違う気はする。

声帯の縁に小さい隆起ができる声帯ポリープという病気がある。声を出す仕事の人がかかりやすいと言われ、シンガーにも時々、声帯ポリープを患って切除手術を行なう人がいる。何度か声帯ポリープ切除手術を行なったミュージシャンに取材させてもらったことがあるのだが、みんなおしなべて、施術後に自分の声が変わらないか少し恐れていたと述懐していた。術前と術後で声質が変わることはほとんどないそうであるが、そうした発言を耳にする度に、やはり声を使った仕事にしている人たちだけに万が一のことも考えてしまうのだなと思ったものだ。すなわち…と言うには若干乱暴かもしれないけれど、声は天賦のものであって、のちにどうにかできるものではないことを表した事例と言っていいのではないかと思われる。

ソロシンガー、バンドのヴォーカリストを問わず、音楽業界の第一線で活躍する人の中には、先天的に恵まれた声を持ったと言えるアーティストは多い。実名を挙げていくときりがないけれども、男性ロックヴォーカリストで今パッと思い浮かんだ人で言うと、浅井健一、布袋寅泰辺りは間違いなく、その歌声は唯一無二のものと言っていいだろう。替えが効かない声と言ったらいいだろうか。両者ともに優れたメロディメーカーでもあるので、彼らが正式に作った曲であれば誰が歌っても一定のクオリティーは保障されるであろうが、少なくとも作った本人が歌ったものをオリジナルとすれば、他のヴォーカリストのカバーがそれを超えることはなかなか難しいと思う。

この他、思い付くままにアーティストの名前を挙げていくこともできるのだが、本題に戻る。今回そのメジャーデビュー作である『ロマンチスト・エゴイスト』を取り上げるポルノグラフィティの岡野昭仁(Vo&Gu)もまた天性の恵まれた歌声を持ったヴォーカリストであることは疑いようがない。その声質をつぶさに言語化するのはなかなか難しいのだけれども、彼の歌は喉や口から音が出ているのではなく、鼻の前辺りからメロディーが出てくるような──個人的にはそんな聴き応えがある。“押しが強い”と言うと簡単すぎるし、“声ならざる声”と言ってしまうと少し語弊があるだろうが、声量や喉の使い方によって簡単に出せるものではない印象が強い。しかも、滑舌がいい。そのため、フェイクに頼ったようなところがなく、歌詞をスポイルしている感じもないので、とても丁寧なヴォーカリストであることも間違いない。

“個性的”という言葉を使う時、その人の持つ何かが他者と比較して独特である様子を指してそう言うわけだが、その観点で言えば、岡野の歌声は独特と言うのではなく、ちゃんと歌える人が持つ歌声の最上位にあるような──そんな言い方が当てはまる気もする。真っ当に歌って、それが特徴になるシンガーという言い方でもいいだろうか。そんなアーティストは彼の他にはちょっと思い浮かばない。

OKMusic編集部

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