Bridgeの1stアルバム
『SPRING HILL FAIR』の普遍的な
ポップセンスと先見性を湛えたい

『SPRING HILL FAIR』(’93)/Bridge

『SPRING HILL FAIR』(’93)/Bridge

カジヒデキが9月5日、ミニアルバム『秋のオリーブ』をリリースした。というわけで、今週はカジヒデキの名盤…ではなく、カジヒデキのキャリアの原点であるバンド、Bridgeのデビューアルバムを取り上げてみたいと思う。メジャーでの活動期間は短かったが、その優れたライティングセンスと巧みな演奏力で、海外でも高い評価を受けたと言われる伝説的なバンドである。その今も色褪せることがない輝きを再検証してみよう(カジヒデキの名盤もそのうちに書きますよ……たぶん)。

50:50の男女混成バンド

Bridgeというバンドはその容姿からして大分新しかったんだなと今頃になって思う。サカナクション以降だろうか。ゲスの極み乙女。とか男女混成バンドも珍しくなくなった印象だが、Bridgeが活動していた頃、少なくともメジャーどころでは、決して多くはなかった。

全員女性のレディースバンドはいたし、ヴォーカルもしくはキーボードが紅一点というバンドはわりといた。女性ヴォーカルと男性ギタリストのユニットもいた。だが、ヴォーカリストとキーボード以外で女性がいるバンドは少なかったと思う。あれはなぜだったのか? 1990年代後半の第二次バンドブームまではバンド自体が本格的に市民権を得ていなかったということなのかもしれないし、バンド界隈にも男尊女卑思想が横たわっていたのかもしれない。どうしてかよく分からないが、当時は確実にそんな状態だった。

そこで現れたBridgeは、大友真美(Vo)、池水真由美(Key)、黒澤宏子(Dr)の、バンドの50パーセントが女性というジェンダーレスなバンド(?)であった。まず、そこが新しく映ったとは思う。ヴォーカル、キーボードはともかく、レディースバンド以外の女性ドラマーは、当時は結構画期的だったのではなかろうか。あの頃もドラムを叩く女性アーティストがいるにはいたが、それは鈴木祥子、森高千里といった弦楽器も鍵盤も操るマルチプレイヤーだったし、バンドでの女性ドラマーはちょっと思い浮かばない。

ナヲ(マキシマム ザ ホルモン)やSATOKO(FUZZY CONTROL)をはじめ、山中綾華(Mrs. GREEN APPLE)など女性ドラマーも珍しくなくなった今。そこへ直接、影響を与えたのがBridgeだとは言わないけれども、女性ドラマーがいる男女混成バンドの走りとして、のちのシーンに何かしらの作用があったと考えるのは強引な論法でもなかろう。

そもそも6人編成というバンドは今でもわりと珍しいほうだが、ここも良かったんだと思う。上記、女性メンバーに加えて、清水弘貴(Gu&Vo)、加地秀基(現:カジヒデキ)(Ba)、大橋伸行(Gu)。今も残るアー写を見てもルックもバランスもとてもいい。

当時は珍しい全編英語詞でのデビュー

中身に関して言えば、(少なくともメジャー1stまでは)全編英語詞というのもBridgeの大きなポイントである。英語詞そのものは──フリッパーズ・ギターの1989年の1stアルバム『three cheers for our side〜海へ行くつもりじゃなかった』も全編英語詞だし、当時の日本のヘヴィメタルやハードコアにも英語詞にこだわるバンドもいたので、決して珍しいものではなかった。しかし、そのほとんどがメジャー進出時か、メジャー2ndで日本語詞に変更を余儀なくされている。当時のメジャーレーベルが英語詞をオールOKとすることがほぼなかったからで(とはいえ、高圧的に英語詞を書くように迫る感じではなく、「日本語詞にもチャレンジしてみてよ」といったフレンドリーな要請が多かったようではあるが)、まだまだ全編英語詞は冒険的要素が強かったことは間違いない。『SPRING HILL FAIR』の歌詞カードには本来なら掲載されるであろう英語詞の対訳ではなく、カタカナで英語詞の読み方が載っている。これは彼女たちなりのジョークだろうが、この辺からも外部から日本語詞を書くことを促すプレッシャーがあったことも推測できると思う。

Bridgeは小山田圭吾がフリッパーズ・ギター解散後に立ち上げた“Trattoriaレーベル”からのメジャーデビューで、その小山田のプロデュースというのも大きかったのだろうか。前述のように『SPRING HILL FAIR』はオール英語詞。彼らが自然体で臨めたことは想像するに難くない(小山田プロデュースではない2ndでは日本語詞が増えて、それを最後に解散してしまったのは皮肉なことだが、逆説的にそれを証明していると思う)。

現在10~20代の音楽ファンにとっては、「英語詞ではデビューできない」や「英語詞のままでは活動が続けられない」なんて信じられない話かもしれない。今や超メジャーなバンドでも普通に英語で歌っている。これもまた、そのような現在の状況をBridgeが作り上げたなどと言うつもりはないけれども、あの頃、彼女らが英語詞を貫いたことはその後のシーンの変容に(わずかではあったかもしれないが)関係していると思う。

グルービーなネオアコに独特の歌声

これは個人的な感想になるが、Bridgeの特徴にはネオアコに分類されるサウンドと大友真美の声質との面白いマッチングがあると思う。大友の声は所謂アニメ声とは言わないまでも、かわいいらしいタイプであり、歌は決して下手ではないが、はっきり言って英語の発音は拙く、どこか子供っぽい印象は拭えない。批判を覚悟で極めて個人的感想を続けると、初めて新田恵利の「冬のオペラグラス」(1986年)を聴いた時の“これでいいのか悪いのか判断がつかない”状態にかなり近い聴き応えがある(いろんな意味ですみません)。

一方、バンドサウンドはどうかと言うと、一見、緩いように見えて極めて硬派。まず、ギターがとてもいい。分かりやすくカッコ良いのはM6「HE, SHE AND I」だと思う。ワウペダルを使った(と思われる)チャカポコしたカッティング、サビでのフランジャー(たぶん)とエフェクトも多彩で、間奏でのソロは鋭角的(間奏はどの曲もロック然としたアプローチであるが)。単純にネオアコと分けられないポテンシャルがある。

リズム隊が支えるグルーブもいい具合だ。どれもこれもグルービーと言えばグルービーなのだが、その中からあえて1曲を挙げるとすると、M2「KISS MY THOUGHT GOOD-BYE」やM5「MISSION ORANGE」もいいが、M10「BETTER DAYS」だろうか。ポップさに甘えない…と言ったらいいか、ポップなだけではないしっかりとしたバンドアンサンブルを聴くことができる。加地のベースのうねりがよく、特に間奏でのギターとの絡みは聴きどころではあると思う。Bridgeが甘ったるいバンドでないことが分かるトラックだ。

硬派なバンドサウンドと独特の声質のヴォーカル。ミスマッチだとは思わないし、対位法的とも言わないが、この邂逅がBridgeにしか成し得ないスタイルを生んだような気がする。男女混声はもちろん、ラップ、ボカロと、さまざまなヴォーカルとバンドサウンドの融合が当たり前となった最近のリスナーにはピンと来ないかもしれないが、当時このスタイルは新しかったし、これまたのちのシーンへの影響がまったくなかったかと言ったら、微力ながら確実に影響を及ぼしているだろう。

今、“サウンドも声質も異なるけど、Bridgeの構造はMy Bloody Valentineに近いのかもしれないなぁ”とか思ったのだが、マイブラも男女混成バンドで、男女比50:50だ。何かあるのかもしれない(ないのかもしれない)。

ポップ! メロディアス!
キャッチー!

Bridge、最大の特徴は何と言っても、そのメロディーラインであろう。黒澤以外の5人がコンポーザーであり(『SPRING HILL FAIR』に大橋が手掛けた曲はないが)、全員が優れたポップセンスを発揮している稀有なバンドであった。歌の抑揚もさることながら、ギター、キーボード(アコーディオン)の旋律もメロディアスで、それこそ対位法と思しき箇所も随所にある。しかも、歌メロの構成が洋楽的なA~サビのリピートだけでなく、Bridgeというバンド名だけあってか、M5「MISSION ORANGE」、M6「HE, SHE AND I」、M8「ON THE BRIDGE」辺りはA~B~サビとJ-POP、J-ROCK的な展開もある(M8「ON THE BRIDGE」は大サビもあったりする)。

A~サビのリピートにしても単純なそれではなく、A~サビ~Bな展開というか、A~サビ~大サビな展開というか、Aもサビも展開が多いと言ったらいいか、音符に動きがないのはおかしいと言わんばかりの旋律。どれも複雑さ、難解さはなく、普遍的な親しみやすさを持っており、どの曲もポップ、メロディアス、キャッチーのオンパレードといった感じである。声質、バンドサウンドの好みはあるだろうが、歌にしてもギターにしてもキーボードにしても、このメロディーが聴くに堪えないという人がいるとしたら、それはよっぽどの変わり者だろう。

現代にも十分に通用する旋律…というよりも、今でも一線級の評価を得るようなものもがいくつもあると思う。そこで提案だが、大友の声から考えて、ティーンの女の子、あるいはローティーンの男の子が歌えば原曲の雰囲気を損ねることがないと思うので、現役若手アイドルにカバーしてもらうのはどうだろうか。Bridgeを知らない層にはかなり新鮮に響くだろう。あれから四半世紀。当時のコアなリスナーには若手アイドルの親と変わらない年代の人も多いだろうから、温かく見守ってくれるだろう。Bridgeを再評価するにあたっては悪い話ではない気もするのでご一考を願う(すでに誰がカバーしてたらごめん)。

まぁ、カバーは半分冗談だけど、高品質なサウンド、メロディーだけでなく、下記のようなしっかりとしたメッセージ性を持っていたバンドだけに、その存在は後世に伝えていくべきだとは思う。

《Where can I stay and be held as someone new/I go to the place unknown》(M5「MISSION ORANGE」)。

《Where can I stay and be held as someone new/I go to the place unknown》《Let me with heartache and pain/Fighting and loving can be one/Take away my heartache and free me》(M10「BETTER DAYS」)。

《So may life be sweet bells for you/So may life be sweet bells for you/In the bright day,yet to be/Evermore make melody》(M11「SWEET BELLS FOR...」)。

カジヒデキをはじめ、メンバー全員が今も音楽に携わっており、Bridgeというバンドの意思はそれぞれが背負っている部分もあるだろうから、過度に煽るのは無粋かもしれないが、これまで以上に多くの人にその存在を知ってほしいバンドであることを、本稿作成しながた思ったので、改めて記して本稿を締め括る。

TEXT:帆苅智之

アルバム『SPRING HILL FAIR』1993年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.WINDY AFTERNOON
    • 2.KISS MY THOUGHT GOOD-BYE
    • 3.ROOM
    • 4.CHANGE
    • 5.MISSION ORANGE
    • 6.HE, SHE AND I
    • 7.MOTORCYCLE ANGEL
    • 8.ON THE BRIDGE
    • 9.PUPPY LOVE
    • 10.BETTER DAYS
    • 11.SWEET BELLS FOR...
『SPRING HILL FAIR』(’93)/Bridge

OKMusic編集部

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