伝説としか言いようのないバンド、キ
ャロルの解散ライヴの熱を追体験でき
るアルバム『燃えつきる~キャロル・
ラスト・ライヴ!!』
あの矢沢永吉がトップスターに躍り出るきかっけとなったのが、1972年に結成されたバンド、キャロルである。メンバーは矢沢永吉(Vo&Ba)、ジョニー大倉(Gu&Vo)、内海利勝(Gu)、ユウ岡崎(Dr)の4人(初期にダウンタウンブギウギバンドに加入する相原誠がドラムを叩いていた時期もある)。ロックミュージシャンになるべく神奈川を拠点に活動していた矢沢永吉が、“ビートルズとロックンロール好きなヤツ、求ム”という貼り紙でメンバー募集をかけたことが結成のいきさつだ。
TVから飛び出したロックンロールバンド
そして、ある日、突然、キャロルがTV を通して目の前に表れたのだ。当時の記憶はおぼろげではあるが、皮ジャンにリーゼントのスレンダーな兄ちゃんたちがカッコ良いロックンロール(それがロックンロールなことも分かっていなかったが)を鳴らしていたこと、そしてヴォーカルの矢沢永吉がツバを飛ばす勢いでビートルズのポール・マッカートニーと同じ形のベース(当時はヴァイオリンベースと呼ばれていた)を弾きながらシャウトしていた姿ぐらいである。その時出演時のリハーサルを内田裕也氏が見てプロデューサー役を申し出、本番終了後、ミッキー・カーチスから一緒にやろうと連絡が入ったというからスゴイ。それがきっかけでキャロルはミッキー・カーチスと契約を結び、同年にシングル「ルイジアンナ」でデビューする。チャンスを掴むまでのスピード感からしてキャロルの威力を物語っているが、その後、3カ月連続でシングルをリリースしたのも当時としては異例のたたみかけだ。しかも、翌年の1973年にはスタジオアルバムを2枚も発表しているのである。ちなみに海外ではグラムロック・ブームだったが、日本ではかぐや姫が大ブレイクするフォーク・ブームで、ロックバンド自体、まだまだアンダーグラウンドな存在だった。そんな中、『リブ・ヤング!』で演奏した曲でもあり1973年にシングルとしてリリースした「ファンキー・モンキー・ベイビー」は約8万枚のヒットを記録。彼らはバイクで暴走する青年を中心に(もちろん、キャーキャーも言われていた)熱狂的に支持された。一時は人気のプレッシャーゆえか、矢沢とともにヴォーカルをとっていたギタリスト、ジョニー大倉が失踪し、新メンバーにサミーが加入していた時もあるが、すぐにジョニーはカムバック。1974年には福島県郡山市で行なわれた伝説のロックコンサート『ワンステップフェスティバル』に出演。内田裕也、小野洋子(ヨーコ・オノ)とプラスティック・オノ・スーパーバンド、クリエイション、外道、四人囃子、加藤和彦、かまやつひろしら、当時のロックを語る上で欠かせないスーパーアーティストたちと同じステージに立つ。しかしながら、ものすごいスピードで時代を駆け抜けていったバンドの宿命なのだろうか。結成からわずか3年、1975年に人気絶頂の中、キャロルはメンバー間の軋轢が原因で解散という結末を迎える。
キャッチーで新しかったキャロルの音楽
いろんな人が語っていることだと思うが、キャロルは多くの人が想像する日本のヤンキーバンドではない。50'sからの流れを組むロカビリーやモータウンなどの影響を受けたサウンドは洋楽寄りだったし、ジョニー大倉の英語と日本語をミックスさせた独特の歌詞も(当時は新しかった)甘酸っぱさこそあれど、男臭ささみたいなものは実はほとんどない。大半の曲を作曲していたのは矢沢永吉だが、後の躍進を予感させるのが、メロディーのキャッチーさだ。思わず口ずさみたくなるメロディーと歌詞にはハンパない吸引力があった。矢沢永吉のシャウト気味の力強いヴォーカルと、ジョニー大倉の甘いヴォーカルの対比も魅力で、内海利勝のロックンロールのツボを刺激するギターも岡崎ユウのドラミングもカッコ良かったけれど、やはり矢沢と大倉の2トップあってこそのキャロル。それと、“1、2、3、4!”のカウントで入るようなアップテンポのロックンロールを連発するイメージが強いかもしれないけれど、ミディアムテンポやバラードに名曲が多いのもキャロルの特徴だ。「やりきれない気持」とか「愛の叫び」とか「夏の終り」はスイートという言葉を使いたくなるほど切ないラブソング。暴走するロックンロールというよりはキュンとするロックンロール寄りな曲が多い。だからこそ、思春期の少年、少女の心を鷲掴みにしたのだろう。
アルバム『燃えつきる ~ キャロル・ラ
スト・ライヴ!! 1975 4.13.』
収録曲
02. 憎いあの娘
03. グッド・オールド・ロックン・ロール
04. メンフィス・テネシー
05. 涙のテディ・ボーイ
06. やりきれない気持
07. 変わり得ぬ愛
08. ビブロス・ピープル
09. ユーヴ・リアリー・ガッタ・ホールド・オン・ミー
10. 愛の叫び
11. ヘイ・ママ・ロックン・ロール
12. ヘイ・タクシー
13. 夏の終り
14. ゲスト紹介
15. ジョニー・B・グッド
16. ズッコケ娘~スローダウン
17. ルイジアンナ
18. エニタイム・ウーマン
19. ファンキー・モンキー・ベイビー
20. ラスト・チャンス
著者:山本弘子
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