鮎川 誠も参加したYMOの
『SOLID STATE SURVIVOR』は、
デジタルの革新性を
ポップに伝えた音楽のイノベーション

『SOLID STATE SURVIVOR』('79)/Yellow Magic Orchestra
潔い曲数と収録タイム
まぁ、それにしても次作『増殖』までは…という注釈は必要ではあろうが、とても大衆的なロックバンドであったことは間違いないと思う。話はずれるが、6th『浮気なぼくら』と7th『サーヴィス』もポップな作品ではあるけれど、あれはテクノ歌謡と言ったほうがいいような気がする。4th『BGM』、5th『テクノデリック』は、ポップな楽曲もなくはないけれど”ポップ”を抜いたテクノ、あるいはエレクトロニックというところに落ち着かせるのがいいのではないだろうか。8th『テクノドン』は30年近く聴いていないので、個人的にはよく分からない。たぶん4th、5thと同じフォルダーでいいと思う(乱暴)。
閑話休題。『SOLID STATE SURVIVOR』の何がポップかって、8曲入り、収録時間32分6秒というのが、すでにポップだ。相当に潔い曲数とタイムである。統計があるわけでもないのではっきりとは分からないけれど、筆者の感覚では、LPをカセットテープにダビングする際には、1970年代後半ですら46分テープが主流であったし、それ以上の長さの54分や60分を使うことも少なくなかったように思う。相対的に見ても本作はだいぶ短い。聴きやすさというところで言えば、お手頃と言えるポップさだ。…というのは半分冗談だが、少なくとも冗長ではないというのは本作の利点ではあっただろう。[このアルバムでは初めてコンピュータによるオート・ミックスを試みている。しかし、当時は精度が悪く、録音に時間がかかりすぎた]という話もあるので、もしかするとそうしたところが潔い曲数とタイムに影響しているのかもしれない([]はWikipediaからの引用)。いずれにしても、この曲数と収録時間を、筆者は『SOLID STATE SURVIVOR』の好感ポイントのひとつとして指摘したい。
無論、単に曲数が少なくて全体の収録時間が短いから、即ちそれがいいということではない。その中身が濃いからいいに決まっているのである。収録曲はこのあとで細かく分析するので、ここではザっと述べるに止めるが、(1)ポップなメロディーのてんこ盛り→(2)沖縄音楽風味→(3)キャッチーさと勢い→(4)ややダークなスローナンバー→(5)流麗な展開のミドル→(6)The Beatles(というかOtis Redding)のカバー→(7)日本及びアジアンテイスト→(8)疾走感あるロックチューンと、似たような楽曲が並んでいない。シンセを多用しているという点(特にヴォーカルの処理など)では似たタイプのサウンドがあるとは言えるだろうが、楽曲として見た場合、ひとつして近いタイプがないという、まさにバラエティーに富んだ内容である。それが連続して表れるという、つるべ打ち状態なのである。特にリズム(BPMも…か)が異なる点は大きい。とりわけM2「ABSOLUTE EGO DANCE」、M7「INSOMNIA」の役割が絶妙なように思う。仮にこういうタイプがなかったらポップさよりも甘さが目立っていたようにも思うし、M2やM7のようなタイプが多かったらポップさは薄れていたようにも思う。
8曲のバランスもいい。M2とM7が細野晴臣。M3「RYDEEN」とM8「SOLID STATE SURVIVOR」は高橋幸宏。M1「TECHNOPOLIS」、M4「CASTALIA」、M5「BEHIND THE MASK」は坂本龍一(M5のメロディーは高橋幸宏との共作)。で、M6がカバー…と、誰かに偏ることなく、メンバーそれぞれの作風がほぼ均等にアルバムに落とし込まれていて、しかも、均衡が保たれているというのは本作の素晴らしさであろう。
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