CHABOの人間性が伝わってくる、いぶ
し銀の味わい持った名盤『My R&R』

古井戸、RCサクセション、麗蘭、ソロ(CHABOバンド)と、45年間に渡って、まさに縦横無尽にギターを鳴らしてきたアーティスト、仲井戸“CHABO”麗市。45周年を記念して、今夏、これまで発表されたソロ作品全8タイトルが再発された上、この9月、渋谷公会堂にて自身の半生を総括するかのようなコンサートを開催したことも記憶に新しい。そのコンサートの公演時間は、なんと4時間にも迫ろうという長時間のもので、邦楽史における氏の偉大な功績を実感させられる格好となった。本コラムでは、今もなお日本のロックシーンに影響を与え続けるレジェンドのソロワークから、1999年に発表された『My R&R』を取り上げる。

CHABOのようにソロ、バンド、ユニットそれぞれにおいて活動し、それらがしっかりとリスナー、オーディエンスの支持を得ることができたギタリストは邦楽では極めて珍しいケースなのではないかと思う。ヴォーカリストならわりといる。それこそ盟友、故・忌野清志郎はRCサクセションをはじめ、ザ・タイマーズやラフィータフィーなどのバンドのほか(公式にはザ・タイマーズのヴォーカリストは清志郎ではなく“ZERRY”だが)、ソロや数々のユニットで活動していたし、奥田民生あたりもあらゆるスタイルで登場する度に話題となってきた。だが、ギタリストで…と考えると、CHABOの他にはCharくらいではないだろうか。布袋寅泰や松本孝弘も人気と実力を兼ね備えた日本人ギタリストだが、そのキャリアとスタイルの多彩さでは氏には及ばないだろう。もしかすると、このCHABOのような精力的な活動歴を持ったギタリストは邦楽シーンのみならず、洋楽を含めてもなかなか見当たらないのかもしれない。古井戸はフォークデュオ、RCサクセションではキース・リチャーズを彷彿させるプレイを展開し、麗蘭ではブルースを、さらにはソロ活動においてはギターを置いてポエトリー・リーディング(詩の朗読)を行なうこともある。
そんな仲井戸“CHABO”麗市ゆえに、“これ1枚!”を挙げるのは至難の業だ。古井戸、RCサクセションはそもそも作品が多すぎるし、麗蘭はオリジナルアルバムこそ2枚だが、麗蘭の場合、ライヴアルバムもこのユニットの重要作なので、それを含めると、これまた結構な枚数がある。まぁ、何よりバンド、ユニットの作品は、RCサクセションであればやはり忌野清志郎のカラーも色濃いし、古井戸なら加奈崎芳太郎との、麗蘭なら土屋公平との共作であるから、個人の作品ではないので、仲井戸“CHABO”麗市のアルバムとなると、本来ソロ名義からチョイスすべき。と考えても、これもまたライヴ盤を含めると数が多い上、リリース時期も幅広いので1枚に絞るのは正直言ってなかなか難しい。よって、異論のあるファンも少なくないだろうが、本稿では独断で1999年発表の『My R&R』を推すことにする。このアルバム、タイトルからRC時代にもあったポップかつラウドなギターロックをイメージする人がいるかもしれないが、そのタイプの楽曲は案外少ない。強いて挙げれば、M1「Good Morning」と、M8「プリテンダー」のバックで歪んだギターが聴けるくらいで、ドカドカうるさいR&Rアルバムではない。フォーク、ブルース、レゲエとバラエティー豊かな楽曲が揃う秀作である。
当然のことながら、全編においてCHABOのギターが素晴らしい。“ギターは6本の弦を伝わって出てくる人間性だ”とは誰の台詞だったか忘れたが、ここで奏でられているギターはまさにCHABOの人間性が伝わってくるようだ…と言っても、筆者は氏にお会いしたこともないので、キャラクターとイコールだとかそんなことを言いたいわけじゃなく、 “少なくとも、この人、悪い人じゃない”感があって、聴く度にほっこりさせられる。M3「Voltage」辺りは、特に後半のエレキギターのカッティングはエッジが立っているが、それでも刺々しい印象はなく、やさしさの中にもしっかりと芯がある感じと言えばいいか。どの曲がどうというのではなく、全曲においてそんなプレイが聴ける。ソロパートのみならず、エレキでのリフ、アコギのストローク、その全てで…である。そのひたすら素晴らしいギタープレイを、早川岳晴(Ba)、河村“カースケ”智康(Dr)、たつのすけ(Key)というCHABOバンドのメンバーが支え、実にグルービーなバンドサウンドに仕上げている。これもまた素晴らしいのひと言である。EDMあたりに慣れたリスナーにはおそらく薄味に感じられるだろうが、一曲一曲がいぶし銀のような味わい深さがある。どれもこれも素晴らしいので、1曲を例に挙げるのも憚られる気もするが、特筆するとすれば、やはりタイトルチューンのM11「My R&R」だろうか。この楽曲自体、10分を超える大作なのだが、6分40秒くらいからラストまで、まさに渾身のギタープレイを聴くことができる。これはギターでの語りと言ってよい。そりゃあ、言葉のように明確な意味が分かるようなことはないけれども、意思や想いがそこに刻まれているのは間違いない。この楽曲前半でCHABOはこう歌っている。《覚えた事は自分を知ろうとすること/事のはじまりは例えばそれは俺なら/THE BEATLES》《覚えた事は君を愛すること/事のはじまりは例えばそれは俺なら/JIMI HENDRIX》《覚えた事は自由であろうとすること/事のはじまりは例えばそれは俺なら/MISSISSIPPI DELTA BLUES》。蛇足ながら、「My R&R」のギターはそういうことがない交ぜになった感情表現なのであろう。
ギタープレイ、バンドサウンドのみならず、歌詞もいい。《世界は今 日の出を待ってる/世界は今 新しい日の出を待ってる》(M1「Good Morning」)や、《時代に負けない根性 時代に負けない感情/時代に負けない愛情》(M3「Voltage」)、あるいは《でも don't give up !/don't give up ! don't give up!/背中で聞いてる言葉はいつでも ガンバッテ! ガンバッテ !》(M7「男もつらいよ(but don't give up!)」)といった、所謂ロック然としたポジティブなメッセージもいいが、M2「Good Day」やM4「サイクリング」、M10「いいぜBaby」辺りで見せる、何気ない日常の切り取り方がとても素敵である。また、《Ah 遠ざかる青い幻に 今別れを告げて》(M10「いいぜBaby」)に象徴される、“年季の入った”と言ったらいいか、50歳を迎えようとしていた時期ならではの物の見方も実にいい。《生きてゆくことを 選んでゆく僕達は/若さだけではない美しさ/いつか知るだろう》《生きてゆくことを 選んでゆく僕達は/若さだけではない輝きにも/いつかきっと気づけるだろう》(M4「サイクリング」)…それこそ若いミュージシャンには絶対に言えないフレーズである。《何処でもない何処からか/やって来たのなら/何処でもない何処かへ/帰って行けばいいサ》(M11「My R&R」)あたりは、盟友、忌野清志郎を失った今となっては世の無常を重ね合わせて聴いてしまうが、深いみのある言葉である。これもまたR&Rなのだ。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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