木村カエラが数多のアーティスト、
ミュージシャンから
寵愛を受け続ける理由を
アルバム『Scratch』から探る

『Scratch』('07)/木村カエラ

『Scratch』('07)/木村カエラ

12月14日、木村カエラの約3年5カ月振りとなるニューアルバム『MAGNETIC』がリリースされた。今作ではAI、iri、Open Reel Ensemble、SANABAGUN.、玉置周啓(MONO NO AWARE)らの参加が話題である。木村カエラと言えば、デビュー時からベテラン、ニューカマーを問わず、多くのアーティスト、ミュージシャンとコラボレーションしてきたシンガー。当コラムでは、初めてチャート1位を獲得した3rdアルバム『Scratch』をピックアップするが、こちらでも強力なメンバーが顔を揃えており、実にバラエティー豊かなサウンドを響かせている。木村カエラのアーティスト性ばかりでなく、発売された2007年という時代を感じさせる名盤である。

伝説のバンドの再々結成にも参加

とりわけ2006~2007年の木村カエラを表す言葉は、やはり“羊の皮をかぶった狼”が相応しいだろうなと考えていたのだけれども、これは本来(1)自分の正体を隠している悪人、もしくは(2)凡庸な見た目の実力者という意味であるそうだから、厳密に言えばこの形容は間違っている。しかしながら、そのニュアンスは汲み取っていただけるのではないかと思う。4ドアセダンにレースカーの性能を組み込んだBMWがそう呼ばれていたようなイメージだ。車好きには分かってもらえるだろう。彼女のルックス、佇まいと、アーティストとしてのポテンシャル、そのパフォーマンスには大いなるギャップが存在している。これまた厳密に言えば、ギャップが存在していた…と言うべきだろう。それはもちろんいい意味で…である。

デビューから18年。この度の新作『MAGNETIC』でオリジナルアルバムは11作を数え、そのギャップにも慣れてきたところではあるけれども、やはり当時の印象は今も鮮烈に残っている。そのギャップを示す好例として、アルバム『Scratch』の話に入る前に、本作の前年のSadistic Mica Band Revisitedについて語っておきたい。とはいえ、そこを掘り下げるとかなり長くなるので、サラッと触れておく。Sadistic~とは1970年代前半に活躍した伝説的ロックバンド、サディスティック・ミカ・バンドが再々結成した時のバンド名である。サディスティック~については当コラムの初期で解説されているので、そちらをご覧いただきたい。このバンドの伝説を理解してもらえるだろう。2006年のメンバーは加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏。ちなみに高中の作品については偶然にも先週取り上げているし、高橋はソロ作品を紹介している。手前味噌ではあるけれども、当コーナーでこれだけ取り上げていることでも、彼らのレジャンダリーっぷりを知ってもらえるのではなかろうか。木村カエラはそんなメンバーにヴォーカリストとして迎えられたのである。再々結成は話題となって、新録されたシングル「タイムマシンにおねがい」は配信ランキングで1位を獲得。アルバム『NARKISSOS』もチャートトップ10入りを果たした。Sadistic~は大成功したと言える。木村カエラの功績も少なくなかったと見るのは決した穿ったものではないだろう。
■『黒船』/サディスティック・ミカ・バンド
https://okmusic.jp/news/32687
■『虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS』/高中正義
https://okmusic.jp/news/502389/
■『Saravah!』/高橋幸宏
https://okmusic.jp/news/350796/
■『Yellow Magic Orchestra』/Yellow Magic Orchestra
https://okmusic.jp/news/30969/
伝説のバンドの再々結成に一役買った木村カエラが、その半年後に発表したアルバムが『Scratch』である(そう考えると、Sadistic~の活動と並行してレコーディングしていたわけで、そこもまた彼女のすごさだなぁ)。伝説のバンドから寵愛を受けて、その3代目ヴォーカリストとなった木村カエラであったが、彼女が愛されたのは何もベテランからだけではなかった。『Scratch』は、まずそれを確認出来るアルバムである。とにかく参加したミュージシャンの顔触れがすごい。1st『KAELA』(2004年)も2nd『Circle』(2006年)も素晴らしい面子が多数参加しているが、3rd『Scratch』はさらに多くのアーティストが顔を揃えている。無論、数を揃えればいいというわけではない。ポイントはそのクオリティーである。もっと言えば、参加したアーティスト、ミュージシャンがそれぞれのキャラクターに発揮していなければならないし、そうでなければ頭数を揃えただけ…ということになる。以下、楽曲を解説していくけれども、本作は面子が多いだけ…なんてわけもなく、それはまったく当たらない。収録曲は参加ミュージシャンそれぞれの”らしさ”が見えるものばかりだし、それらが集まることで実にバラエティーの豊かなアルバムに仕上がっているのである。

OKMusic編集部

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