電子音のグルーブにロックの精神を宿した作品

    坂本龍一(key)、高橋幸宏(Dr&Vo)、細野晴臣(Ba)による70年代邦楽シーンの最重要バンド、Yellow Magic Orchestra。そのデビュー作『Yellow Magic Orchestra』はロック未体験者にもロックの醍醐味を知らしめてくれた名作である。

    コンピュータゲームからの影響

     1970年代後半、“ブロックくずし”“スペースインベーダー”といったアーケードゲームの登場は、当時小学生~中学生の遊び盛りの筆者にとって相当衝撃的な出来事だった。今となればグラフィックもサウンドもチープ極まりないコンピュータゲームも、自分には未来を先取りした遊び…いや、遊びを超えた“何か”であった。プレイ料も1回100円というのは小中学生には決して安くはない金額であったことで1回1回かなり真剣にやっていたと思うし、しかもゲームセンターへは父兄同伴じゃなければ入れなかったので、“ハレの場”と言うと大袈裟だが、非日常の遊びであったことは間違いない。
     “スペースインベーダー”が大ヒットした1978年、Yellow Magic Orchestra(以下YMO)の1stアルバム『Yellow Magic Orchestra』は発売された。この作品には「COMPUTER GAME」という“サーカス”と“スペースインベーダー”というコンピュータゲームのサウンドをモチーフとした楽曲が収録されているが、自分にとっては「COMPUTER GAME」を聴くことは非日常の遊びであったアーケードゲームを頭の中で反芻する行為に近かったと思う。

    江口寿史の功績も見逃せない

     漫画家・江口寿史氏からの影響も大きい。週刊少年ジャンプに連載されていた同氏の代表ギャグ漫画「すすめ!!パイレーツ」(1977~1980年)は熱血スポーツものの脱構築なのだが、中期以降は作品中に江口氏の趣味が色濃く反映されていったと言われている。扉絵がアルバムジャケットのパロディーになっていたり、脈絡なく当時の人気アイドル歌手やアーティストが作中に登場したり、欄外に同氏が聴いたアルバムの感想が綴られていたり、とギャグの面白さもさることながら、江口寿史が紹介するサブカルチャー情報もこの漫画の魅力だった。YMOなるものも頻繁に登場しており、主人公たちが人民服を着てシンセを弾いているカットがあったり、YMOのメンバーを模したキャラがチラリと出てきたり、情報入手デバイスが今と比べ極端に少なかった時代に、YMOを全国の子供たちに知らしめた江口氏の功績は大きかったのは間違いない。コンピュータゲームが先立ったのか、『すすめ!!パイレーツ』が先立ったのか、それらが合わさったのか、アルバム『Yellow Magic Orchestra』を購入した直接の動機付けがどうだったのか今となっては思い出せないが、YMOへの自分の興味はその音楽性そのものから導かれたものではなかったことははっきりしている。

    YMOはロックである

     しかし、音楽性の興味からYMOに入ったわけではない中学生にも、このアルバムは実に楽しく、分かりやすかった(分かりやすいというのは名盤の必要条件だと思う)。歌はほとんど入っていないのに頭の中に残る主旋律。思わず身体を揺らしてしまうリズム。それまで聴いたことがない音色…。伝え聞くところによると、当のYMOのメンバーも未知の音楽へ向かうワクワク感を抱きながらこのアルバムを制作していたそうが、そのエモーションは見事に音源へ注入されており、それは田舎の中学生がしっかりと受け止めることができるほど生々しいものであった。
     このUS版はオリジナルのリミックス盤的存在でもあり、それが好みではないファンも少なくないようだが、楽曲がシームレスに繋がる様子は、ほぼロック未体験の自分にとって音楽作品の妙味を知らしめてくれた。(1)「COMPUTER GAME "Theme From The Circus"」から(2)「FIRECRACKER」へ、さらに(3)「SIMOON」(4)「COSMIC SURFIN'」を経て、再び(5)「COMPUTER GAME "Theme From The Invader"」へ戻る構造にはゾクゾクさせられたものだ((6)以降のB面も楽曲間のつなぎに「COMPUTER GAME」のトラックが使われている)。メロディーの良さは言うまでもないが、(6)「YELLOW MAGIC(TONG POO)」や(7)「LA FEMME CHINOISE」のオリエンタルっぽさは子供ながらに新鮮だったし、(9)「MAD PIERROT」は彼らの代表曲である「テクノポリス」や「ライディーン」にも匹敵する初期YMO屈指のポップチューンであることを強調しておきたい(この楽曲はもっと評価されていいと思う)。
     何よりも…当時はもちろんそんな言葉は知らなかったが…演奏がグルービーである。シンセを多用し、自動演奏も取り入れていたことから、YMOサウンドは無機質な電子音楽と捉えられる向きもあるが、初期はかなりの部分が手弾きで録音されており、人力ならではのグルーブ感がきちんと存在しているのである。(これはミックスの具合なのかもしれないが)今聴くと、いずれの楽曲もリズム(特にベースライン)が若干突っ込み気味であることが分かり、このパート間が拮抗する感じは3ピースバンドならではのものであったことにも気付く。“テクノポップ”と称されるYMOの音楽は、当時はロックと異なるものとして語られることもあったと記憶しているが、この辺を確認するにやはり彼らはロックバンドだと言わざるを得ない。
     それはYMO自身、2ndアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイバー』でビートルズの「デイ・ドリッパー」をカバーしていることでも分かるが、筆者と時を同じくしてYMOのエモーションを受け取った者たちがその後の音楽シーンを形成していったことでも明らかだろう。

    YMOのロック精神を受け継ぐもの

     日本国内ではその影響を公言してはばからないBUCK-TICKの今井寿、LUNA SEAのSUGIZOらがロック界でのYMOチルドレンの代表で、テクノというジャンルを深化させた点では電気グルーヴやテイ・トウワ、あるいはその精神を日本のヒップホップへと昇華させた宇多丸(RHYMESTER)の存在も見逃せないし、Perfumeやボーカロイドもその影響下にあると言えるだろうが、ことロックという観点で言えば個人的にはTHE MAD CAPSULE MARKET(以下MAD)を推したい。MADは3rdアルバム『SPEAK!!!!』で、『ソリッド・ステイト・サヴァイバー』、そのタイトルチューンをカバーしている。これが超絶にカッコ良い。ギター中心の、まさにソリッドなサウンドに変貌しているものの、その革新性、前のめりのビート感覚はYMOの革新性を正しく受け継いだものであると断言できる。ビートルズの「デイ・ドリッパー」の後、YMOの「デイ・ドリッパー」を聴き、YMOの「ソリッド・ステイト・サヴァイバー」を聴いた後、MADの「ソリッド・ステイト・サヴァイバー」を聴いてほしい。ロックが持つ革新性が正しく襷リレーされていく様子が感じ取れるはずだ。
     追伸:MADからの襷を受け継ぐ新進気鋭のアーティストの出現を待ち詫びております。お薦めがあればぜひ教えてください。あと、オリジナルデビュー盤ではなくUS版を選んだのは、やはりジャケットのアートワークが絶品だからです。

    著者:帆苅竜太郎

    28コメント
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