JUDY AND MARYが『THE POWER SOURCE
』で見せたポップとアバンギャルドの
絶妙なバランス

「復活してほしいバンド」なるアンケートでは必ず上位にその名前が挙がる、90年代邦楽シーン最強のポップアイコン、JUDY AND MARY。今もなお根強い人気を誇るバンドである。10年間に満たない活動期間でミリオンセールスを連発し、ドーム、スタジアム公演を成功させるに至った彼女たちの勝因はどこにあったのか? 最大のヒットを記録したアルバム『THE POWER SOURCE』のサウンド面からJUDY AND MARYの本質を分析してみた。

 JUDY AND MARY(以下JAM)は、「バンドをやりたい」というYUKI(Vo)の想いに応える格好で、恩田快人(Ba)をリーダーに92年結成。そこに五十嵐公太(Dr)と、前任のギタリストに代わってTAKUYA(Gu)が加わり、93年にメジャーデビューを果たした。当初のコンセプトは「女のコが歌うポップで切ないサウンドをバンドでやってみたい」という恩田の構想を具現化したとのことで、3rdアルバム『MIRACLE DIVING』辺りまでは、確かにロックンロールを基調としたバンドサウンドにYUKIのヴォーカルを乗せたガールポップバンドという印象が強い。…と書くと、最初は凡百なバンドだったと思われるかもしれないが、無論そんなことはない。初期からキャッチーなメロディーが前面に出ているばかりか、1stアルバム『J・A・M』にも収録されている3rdシングル「DAYDREAM」でのマイナーだけどポップな感じからは単に甘いだけではないバンドであることも分かり、今聴いてもポテンシャルの高さをうかがわせる。そして、このバンドの最大の特徴であるYUKIの歌声は初期から完成されていた。パッと聴いて彼女のものと認識できる声質はJAMにとって大きなアドバンテージだったとも思われる。2ndアルバム『ORANGE SUNSHINE』にしてチャート上位にランクインし、ブレイクを果たしたことも十分にうなずける。
 96年、初の日本武道館、大阪城ホール公演を成功させ、『NHK紅白歌合戦』に初出場するなど、バンドを取り巻く状況は俄然盛り上がり見せていくなか、彼らはさらなる音楽的高みを目指した。その結実が4thアルバム『THE POWER SOURCE』であろう。オープニングを飾るM1「BIRTHDAY SONG」からしてそれまでとは雰囲気が異なり、ノイジーなギターがリードするダイナミックなロックサウンドが聴ける。うねるリズム隊、強めなディレイでスペイシーさを醸し出したヴォーカル――サイケデリック、いやアシッドなロックだ。サビはメロディアスで大らかな印象だが、そこがまた幻想さを増す要因にもなっている。5thシングル「Cheese "PIZZA"」でレゲエを取り入れているなど、決してベーシックなR&R一辺倒のバンドではないことも確認できたが、「BIRTHDAY SONG」はそういったバラエティー感とは明らかに趣を異にする深化であり、バンドの進化だったと言える。《トキメキは とめどなく溢れ出す~宝石を閉じこめてる/臆病な 星のかけらを飛び越えたい》というリリックと、“BIRTHDAY SONG”というタイトルそのものに当時のメンバーの決意が感じられる。これ以外にも、目まぐるしくテンポが変化していくM4「KISSの温度」、ジャジーなグルーブを響かせるM6「Pinky loves him」など、明らかにアルバムならではのチャレンジを見せている楽曲もあるほか、シングルナンバーも結構挑戦的だ。バンド初のシングルチャート1位楽曲であり、唯一のミリオンセラーシングルであるM3「そばかす」にしても――今となってはこれが当たり前なものとして聴いてしまうが、サビはキャッチーで親しみやすいのは間違いないものの、イントロはノイジーなカオスで雰囲気だし、全体を引っ張るファンキーなギターはヴォーカルと不協…とは言わないまでも、その拮抗感はかなりスリリングである。
 この進化は過渡期ならではのものであり、過渡期特有の緊張感が生み出すマジックこそが『THE POWER SOURCE』を傑作足らしめたのではないかと筆者は見る。M3「そばかす」で《そばかすの数を かぞえてみる/汚れたぬいぐるみを抱いて/胸をさす トゲは 消えないけど/カエルちゃんも ウサギちゃんも/笑ってくれるの》と少女性を残しつつも、《思い出は いつも キレイだけど/それだけじゃ おなかが すくわ》と冗談めかして現実を見ている歌詞は過渡期の証左であろう。所謂バンドマジックはM7「くじら12号」で見ることができる。この楽曲、ギターとベースの絡みがとにかく素晴らしい。密集感のあるイントロから、歌が始まるとギターとベースは一旦左右に分かれて、これまた不協気味に進行しつつも、サビで見事なアンサンブルを奏でるという構造がお見事だ。生真面目にリズムをキープするドラミングもよく、バンドらしい躍動感あるサウンドが聴ける。ポップさとアバンギャルドさの中間──厳密に言うと、7対3くらいでポップさが勝るバランス感覚がここにはある。このバランスこそがJAMを日本を代表するロックバンドへと押し上げた主たる勝因ではなかろうか。ポップ過ぎては単なるポップスになってしまい、ロックとはかけ離れたものになる。また、前衛感が出過ぎると決して聴きやすいものにならず、ポピュラリティーは得られない。古今東西、多くのロックバンドがせめぎ合ってきた課題に対する模範解答のひとつが『THE POWER SOURCE』のようにも思う。楽曲内でのバランス感覚だけでなく、M1「BIRTHDAY SONG」やM4「KISSの温度」と、M8「クラシック」やM9「風に吹かれて」といったメロディーの良さを強調したアレンジが施されている楽曲がアルバム内に同居しているバランスも作品の価値を高めているところだとも思う。
 このアルバム『THE POWER SOURCE』はチャート初登場1位、トータルセールス約300万枚という売上を記録し、バンド最大のヒット作となったが、本作で見せた絶妙なバランス感覚はその後もいい塩梅で継続していくわけではなかった。YUKIの喉の不調により一時活動停止をした後に制作された『POP LIFE』はポップさとアバンギャルドさの乖離が際立った印象がある。14枚目のシングル「散歩道」で見せた、ある種、牧歌的とも思える素直なポップ感と、15thシングル「ミュージック ファイター」でのアンビエントなサウンドメイキングとが同居している様は、よく受け取ればバラエティー感だろうが、逆に言えば個の突出とも言えるし、いずれにせよ、バランス感覚は前作とは異なるものだった。『POP LIFE』もセールスは悪くなかったものの、前作に迫るところまで行かなかったということは、大衆からの支持は低下したと見るべきであろう(それがイコール作品のクオリティーではないが)。以後、各メンバーのソロや別ユニットでの活動が始まり、充電期間を経たものの、JAMは01年に解散を発表。アルバム『WARP』のリリース、ラストライブツアーを持って、その活動に終止符を打った。解散から5年後の06年にリニューアルベスト盤『COMPLETE BEST ALBUM「FRESH」』がヒットし、09年にはデビュー15周年を記念したトリビュートアルバム『JUDY AND MARY 15th Anniversary Tribute Album』もリリース。「復活してほしいバンド」なるアンケート調査では必ず上位にその名前が挙がるJAMであるが、再結成はその噂すら聞いたことがない。トリビュート盤に参加した中川翔子、木村カエラのほか、きゃりーぱみゅぱみゅ、ELTの持田香織らに影響を与え、現在のガールポップシーンの礎を担った存在のJAMだけに、復活が実現すれば超ビッグトピックとなるだろう。実現性はかなり低いと言わざるを得ないが、何かアクションがあるとすれば、結成25周年目の2017年、あるいはメジャーデビュー25周年となる2018年といったところだろうか。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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