硬派ロッカー、PANTAが“思いきりス
ウィートに”をテーマに作り上げた超
・問題作『KISS』

頭脳警察のメンバーとしてデビューしてから40余年。日本のロック史に大きな足跡を残してきたPANTAは今現在もソロ・アーティストとして、そして頭脳警察のメンバーとして、精力的にステージに立ち、歌いつづけている。その間、リリースしてきたアルバムは頭脳警察時代を含め、40枚を超える。数々の武勇伝とともに語るべき作品はいくつもある。その中から今回は敢えて、当時のミュージック・シーンに物議を醸した81年発表の『KISS』を取り上げてみたい。

『KISS』というアルバムは何とも取り扱いが難しい作品だ。60年代の英米のポップスを換骨奪胎したモダンな和製ポップ・アルバムと考えるなら、日本のロック史に残る名盤であることに間違いない。大瀧詠一の『A LONG VACATION』と比較するリスナーもいるようだが、その魅力はリリースから33年経った今もこれっぽっちも色あせてはいない。人気アレンジャー、矢野誠によるシンセを大胆に使ったアレンジも時代がぐるっと一回りだか二回りだかした今なら違和感なく受け入れられるだろう。
しかし、そういう作品が同時に超・問題作であり、PANTAのディスコグラフィーにおいては極めて異色と言える作品なのだから話がややこしい。
なぜ超・問題作かと言うと、頭脳警察の時代から、常に過激であることと硬派であることを求められてきたPANTAが“思いきりスウィート”をテーマにラヴソングを歌ったアルバムだからだ。
デビューアルバムと2ndアルバムが発売禁止と発売中止になったとか、ステージでマスターベーションしたとか、ライバルであるはっぴいえんどのステージを乗っ取ったとか、日本中が政治運動に荒れ狂うさなか、「世界革命戦争宣言」「赤軍兵士の詩」「銃をとれ!」といういわゆる革命3部作で武装蜂起をアジったとか、物騒なエピソードの枚挙に遑がない――パンク誕生以前にすでにパンクだった頭脳警察については別の機会に語ってみたいが、頭脳警察を解散して、一人歩きしていた反権力・反体制というイメージから解き放たれてからもPANTAは硬派路線のロック・アルバムを作り続けてきた。
中でも新バンド、PANTA & HALを組んでリリースした――中東から日本までのオイルロードをテーマにした『マラッカ』(79年)と近未来の東京を舞台にしたハードボイルド・タッチの『1980X』(80年)という2枚のアルバムはコンセプトの完成度に加え、ロック・サウンドに取り入れたサンバやレゲエといったエスニックな要素(前者)とシャープなニューウェイヴ・サウンド(後者)という音楽的な成果も歓迎され、単に過激なだけに止まらない、アーティストとしての成熟も印象付ける作品としてリリース当時、傑作と謳われた。
そして、この次の作品こそはナチスによるホロコーストを描き、そこから日本の歴史に迫るという長年、温めてきた野心作『クリスタル・ナハト』になるんじゃないかとファンの多くが期待していたそのタイミングで、唐突にリリースされたのが『KISS』 だったのである(『クリスタル・ナハト』は6年後の87年にリリースされた)。今では考えづらいことだが、『KISS』を認めるのか認めないのかといういわゆる「スウィート路線論争」がミュージック・マガジン誌上で堂々と繰り広げられ、ファンクラブによる不買運動まで起こったというんだから、PANTAが軟弱なラヴソングを歌ったことに対する当時のファンの驚き、失望、怒りが窺える。
ファンの気持ちは理解できる。PANTAもファンから反感を買うことは分っていたに違いない。それを覚悟の上で、自分がやりたいことを貫き、自らのパブリック・イメージを破壊してみせたんだから、ある意味、PANTAが作った最も過激なアルバムなんて言えるかもしれない……おっと、そんなレトリックを使いたい誘惑に負けてしまうと、この作品の魅力はぼやけてしまう。やはり、このアルバムは前述したように60年代の英米のポップスを換骨奪胎したモダンな和製ポップ・アルバムとしてとらえ、頭脳警察時代からヘルマン・ヘッセの詩に曲を付けた「さようなら世界夫人よ」や「詩人の末路」といった叙情ナンバーを作ってきた日本のロック界屈指と言えるPANTAのメロディー・メイキングの才能に耳を傾けるべきなんだと思う。
また、それと同時にオープニングを飾る「悲しみよようこそ」のインスピレーションになったというウォーカー・ブラザーズをはじめ、日本語のロックのパイオニアのひとりでもあるPANTAが英米のポップスやロックから受けた影響を、例えば「想い出のラブ・ソング」からローリング・ストーンズ(あるいはマリアンヌ・フェイスフル)の「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」が連想できるようにここからいろいろ想像してみるのも一つの楽しみ方だろう。そういう楽しみ方はむしろ今の若いリスナーのほうが上手なのでは。
れを考えると、バックグラウンドや副産物を知らないほうが余計なことに煩わされず、『KISS』という作品を100パーセント楽しめるのかもしれない。しかし、余計なことを知った上で聴けば、単なるスウィートなだけのラヴソング集に止まらない作品として、あれこれ想像を膨らませながら120パーセント楽しめるような気もする。日本のロックの名盤として、どちらの聴き方を薦めるべきなのか、ここまで書いてきてもまだ考えがまとまらないが、血の通った生身の人間が作るものだ。単純に行かないのは当たり前。いや、単純じゃないからこそ面白いんじゃないか。
スウィート路線を謳いながら、そこにそれだけに止まらない含蓄があるところが『KISS』を聴きながらいいなと思うのだ。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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