SHERBETの
1st『セキララ』から考察する
浅井健一の
アーティストとしてのピュアさ

『セキララ』('96)/SHERBET

『セキララ』('96)/SHERBET

4月26日、SHERBETSが通算13枚目となる新作『Midnight Chocolate』をリリースした。今週はそのSHERBETSのデビュー作を紹介する。本文でも述べている通り、このSHERBETSの他にもさまざまなバンドで活動している“ベンジー”こと浅井健一。SHERBETSにしてもシンプルなバンドサウンドを標榜しているとはいえ、音源毎に表現の幅を広げているのは間違いなく、ベンジーはいろんなアプローチに臨んでいるアーティストであるとは言えるだろう。その原動力の源を『セキララ』から探ってみた。

「水」の歌詞に見る純粋さ

《もしも誰かを愛したら 素直なその気持ちを/その人に伝える それがこの世界へ/生まれ落ちた理由だから/Ah とまどいながら話す言葉は 何よりもきれいさ》《Ah いつの日にか みんなどこかへ消えてしまう気がする/Ah 伝えなくちゃ 素直なその気持ちを今すぐ/その人に》(M1「水」)。

 人間の存在理由を突き詰めたような歌詞。ロックや音楽の意義、さらには芸術というものの意味をうかがうこともできるだろう。これがアルバム『セキララ』のオープニングである。その芯を喰った内容に、聴き手はいきなりズバッと深いところを打ち抜かれるようである。浅井健一(以下、ベンジー)というアーティストの純粋さを凝縮したかのような歌詞とも思える。この人の行動原理は全てこの歌詞の内容──とりわけ《素直なその気持ちを/その人に伝える》に基づいているのではないかとすら感じてしまう内容である。

これまで、SHERBETSの他、BLANKEY JET CITY(以下BJC)を始め、AJICO、JUDE、PONTIACS、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSと、縦横無尽にさまざまなミュージシャンたちと共に音楽活動をしているベンジー。今は2、3バンドを掛け持ちしているアーティストも珍しくなくなったけれども、日本のロックシーンでは1990年代頃でもまだ、タブー視…というまでの嫌悪感があったとは思わないけれど、少なくともメジャーどころで複数バンドの掛け持ちする人はそれほど多く見受けられるものではなかった(忌野清志郎が1980年代にRCサクセションと並行して、坂本龍一とユニットを組んだり、ソロもTHE TIMERSもやっていたのは例外中の例外で、今となると何とも清志郎らしかった行為のように思う)。BUCK-TICKの今井寿とSOFT BALLETの藤井麻輝とによるSCHAFT(1991年)、あるいはX JAPANのYOSHIKIと小室哲哉のユニットであるV2(1992年)などの例外も一部にはあったが、バンドマンがソロやユニットで活動するにしても、本体の解散や活動休止、もしくは“それぞれにソロ活動を行ないます”と宣言した上で行なうのが慣例だったように思う。

だが、ベンジーはそんな慣例に合わせた様子がなかった気はする。動きも早かった。SHERBETS(当時はSHERBET)をスタートさせたのが1996年。BJCはまだ存在していた。そればかりか、前年に5thアルバム『SKUNK』、翌1997年に6thアルバム『Love Flash Fever』を発表している。当時はすでに解散の空気があったという説もあるし、今となってみれば活動後期だったとは言えるが、まだ現役バリバリのバンドであった頃だ。そこで並行して新バンドを立ち上げたのは、先見の明があったと言えるし、その後のシーンに与えた影響も決して小さいものではなかったと見ることができるだろう。

そのベンジーの新しいバンドに向かう動機を、このM1「水」の歌詞に重ねることができるように思う。今やっているバンドを一旦終わらせて…とか、ソロ活動を宣言して…とか、そんなことをやるより先に動く。そういう行動原理があるように感じられる。SHERBETSのスタート時もそうだった気がするし、AJICOやJUDEの時も同じだったような気がする。まさに《伝えなくちゃ 素直なその気持ちを今すぐ》ということではなかったのだろうか。どうして《今すぐ》かと言えば、それは《みんなどこかへ消えてしまう気がする》からであろうし、《とまどいながら話す言葉は 何よりもきれいさ》というフレーズにもそのヒントがあるように感じる。“また今度”とか“その内”とか悠長なことを言っている場合ではない。《伝えなくちゃ 素直なその気持ちを今すぐ》なのである。まさに純粋。ピュアなアーティストであることの宣言と言っていいように思う。

OKMusic編集部

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