サザンオールスターズとは違う
桑田佳祐の魅力が詰まった
ソロの傑作『孤独の太陽』

『孤独の太陽』('94)/桑田佳祐

『孤独の太陽』('94)/桑田佳祐

9月15日、桑田佳祐が4年振りの新作EP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』をリリースした。そして、9月18日の宮城・セキスイハイムスーパーアリーナを皮切りに、全国10カ所20公演を巡る全国アリーナツアー『桑田佳祐 LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」supported by SOMPOグループ』がスタートする。ということで、桑田佳祐のソロ作品をご紹介。KUWATA BANDを除いて5作あるソロアルバムの中から『孤独の太陽』をチョイスしてみた。

この夏、誰もが最も耳にした歌声

“国民的アニメ”“国民的アイドル”等々、知名度がちょっと高くなると、すぐに“国民的”と付ける世の中の風潮を依然かなり訝しく思っている。事の始まりはサザンオールスターズ(以下サザン)の“国民的バンド”。気付いたらいつの間にかそう呼ばれるようになっていて、もはやそこに対して不思議に思わない人の方が多いのではないだろうか。ていうか、最近はサザン以外にも“国民的バンド”がたくさんいるようで、何が何やら分からなくなってきている気もする。そのうち、“国民的ラッパー”や“国民的ユーチューバー”なんてのも出てくるんだろう。このままいくと。しかしながら──それが悪態と言われようが、しつこく“果たしてそれは本当に国民的なのか?”と問い続けたいと思ってはいるけれど、今夏、あれだけ桑田佳祐の「SMILE~晴れ渡る空のように~」を聴いてしまうと、“これが2021年現在の国民的音楽と呼ばれるものなのだろうなぁ”という気になったことは、正直に白状しておこう。

民放5系列による『2020年東京オリンピック共同企画』のテーマソング。7~8月の数週間はどのチャンネルを点けても流れてきた。その物量は半端じゃない。決して持論を曲げて白旗を揚げるということではない…と一応、最低限の抵抗をしておくが、あそこまでいくと、もはや“国民的流行歌”と認識せざる得ないところはある。納得せざるを得ないと言ってもいいかもしれない。そもそも同曲、そして桑田佳祐は[プロジェクトチームがテーマソングのアーティストを決める際に「桑田さんしかいない」という意見が多数上がり、起用が決定した]ものだという([]はWikipediaからの引用)。これが仮に若手~中堅の当代人気アーティストであったのならば、この夏の流行歌に認識しつつも、別の意味で訝しさを感じることもあっただろう。桑田以上のベテランが担当したとしたら、多分、若い世代からはあまり支持を得られなかったのではないかと自分なんかでも想像できるし、アナクロ感の漂うものになっていたような気もする。オリンピックのような世界的イベントの日本国内でのテーマソングを担当するアーティストとして、老若男女の多くが丁度良く感じるのが桑田佳祐だっただろう。“丁度良い”という言い方をすると語弊があるように思われるかもしれないが、まさか凡庸などという意味では言ってないので、そこんところは誤解のないように。あえて言うなら中庸。平均でも中間でもなく、中庸である。変な偏りが少ないというか、多くの人が“この人なら…”と腑に落ちるポジションにいるアーティストが桑田佳祐だと件のプロジェクトチームの方々は思ったと思われる。そのプロジェクトチームもさすがに適当な人たちの集まりではなかろうし、間違いなくプロフェッショナルがマーケティング等も加味して推したのだろう。案外それが“国民的”なる形容の正体かもしれない。

OKMusic編集部

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