細野晴臣が
狭山市の自宅でのレコーディングで、
アメリカの空気を創造した
『HOSONO HOUSE』

『HOSONO HOUSE』('73)/細野晴臣

『HOSONO HOUSE』('73)/細野晴臣

シティポップを筆頭にかつての日本のポップミュージックが海外でスポットライトが当たっているが、やはりと言うべきか当然と言うべきか、細野晴臣にも改めて評価が集まっているという。そんな中、細野晴臣のソロ1stアルバム『HOSONO HOUSE』が歌詞カードや内袋等のデザインを含めてオリジナルの仕様を完全再現した50周年記念アナログ盤として、5月25日に発売となった。リマスターCD版やUHQCDなど過去に何度も再発されている名盤だが、こういう仕様は新旧ファン共も嬉しいところではなかろうか。今週はその『HOSONO HOUSE』の基本情報をまとめてみた。

レコーディング環境の重要性

その昔…と言っても筆者がミュージシャンへのインタビューを仕事にしてからのこと。海外レコーディングという話を聞くと“何で海外へ行くんだろう?”と訝しく思ったものだ。レコーディングスタジオが日本にない、あるいは日本人にレコーディングエンジニアがいないとなれば、それも分かる。必然、海外へ行くことになる。だが、昭和ですらそんなことはなかったわけで、別に自己弁護するわけではないけれど、知識の乏しい自分が当時そう思ったのも止む無しではなかったかと思う。そののち、インタビュー仕事が増えていき、実際に海外レコーディングを行なったミュージシャンに直接話を訊く機会もしばしばあって、その理由を尋ねることもあった。最大の理由は音が良いことだという。その回答が一番多かったと思う。正直に白状すると、その時ですら、さすがに口には出さないまでも、“ホントにぃ?”と懐疑的に見ていたことも確かで、“実は半分は旅行だったんじゃないの?”とか思っていた。CDバブルの頃には実際に半分(以上)が旅行という人たちも少なくなかったことだろう。“儲かってる会社はいいよなぁ”と完全にやっかみ半分(以上)で見ていたとは思うが、さらに年月を重ね、さまざまなアーティストに取材する中で、海外レコーディングを理解できるようになってきたところはある。海外は音が良いことは事実であるようだし、旅行気分であってもそれはそれで立派な理由だということも分かってきた。

まず、音の件。概ね米国のロスアンゼルスとか西海岸は湿度が日本とは違うと聞いた。物理化学的なことは門外漢なので、あくまでも覚えている範囲の伝聞を述べると、カラッとしている分、高音がスッキリ聴こえるという。アコギの響きがいいという話も聞いた。それはそのスタジオにあった楽器が良かったということもあっただろうけど、湿度が違えばアコギのボディの湿気も違うだろうし、響きも変わってくるのも当然だろう。あと、電気の周波数のせいか、アンプから出る音が違うという話を聞いた記憶もある。今調べたら、日本は東が50 Hzで西が60Hz、欧州が50 Hzで北米が60Hzだそうだから、多分、周波数は関係ない。それは単なる勘違いだろうが、もしかするとそこにも湿度の違いがあったのかもしれない。当時取材したアーティストの返答を思い出すと、海外レコーディングでの音の違いは間違いないようではある。そうは言っても、日本と海外とでまったく同じ状態で録ったものを聴き比べたわけではないので、実際に何がどう違うのかを実感したわけではないのだけれど、大満足しているミュージシャンが多かったところを見ると間違いないようだ。

響きの違いもさることながら、旅行気分(そう言うと若干語弊があるけれど…)が海外レコーディングの利点である話もよく聞いた。リラックスできるのだという。異国に居るという開放感もあるだろう。日本、とりわけ東京都内のスタジオでやっていると、レコーディングが上手く進まずにストレスが溜まったとしても、それを発散できる場所が限られる。ストレスを抱えながら毎日会社に通うビジネスマンとそう変わらない。それでもいい演奏、歌唱ができれば問題ないわけだが、それは稀だろう。会社での長時間の会議のしらけた空気感を知っている会社員ならそこには共感してもらえるのではなかろうか。日常と日本の喧噪から離れた土地で、落ち着いた精神状態で作業に没頭できる。仮に作業が煮詰まっても、スタジオの外に出れば異国情緒がストレスを癒してくれる(らしい)。それは確実にプレイにいい影響を与えるようだ。

あと、コストの問題もあったとか。当時は渡航費や現地スタッフのギャラなどの諸々を含めた海外でのレコーディング費用は、日本の有名スタジオを何週間か借りた時の金額に比べても安かったという話も聞いた。今は円安でその状況も大分変わったのだろう。

OKMusic編集部

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