山下達郎の『RIDE ON TIME』は
巧みなアレンジと、
あふれんばかりのアーティストの熱に
完全に脱帽

『RIDE ON TIME』('80)/山下達郎

『RIDE ON TIME』('80)/山下達郎

6月22日に発売された山下達郎、11年振りの最新アルバム『SOFTLY』が“オリコン週間アルバムランキング”で1位を獲得。通算12作目の1位獲得という以上に、今回で昭和、平成、令和の三時代でアルバム1位を獲得したということも大きく報じられていた。何でもこれは、矢沢永吉、竹内まりや、桑田佳祐に次ぎ史上4組目の達成ということで、分かっていたことではあるけれど、改めて氏は邦楽シーン、いや、日本の芸能史にその名を残す偉大なる音楽家であることを知らされた格好ではある(山下、竹内ご夫妻の偉大さも忘れてはならない)。本文でも書いたけれど、11年振りの新作発表に伴って、“山下達郎祭り”となっている中、少々遅れを取ったが、当コラムでも山下達郎の過去作を取り上げる。氏にとって初のチャート1位獲得となった作品『RIDE ON TIME』だ。

絶妙なアレンジ、
絶妙なアンサンブル

アルバム『RIDE ON TIME』のオープニングナンバーはM1「いつか」。ベース&ドラムが鳴らす軽快なリズムから始まる。そこに山下達郎本人が弾くエレキギター、エレピ、もう1本のギター、そしてブラスが順に重なっていく。ブラスは派手ではあるが、イントロでは出番が長くないこともあって下品な印象は皆無だ。それは他のサウンドも同じで、どのパートも抑制の効いた感じで進んでいき、歌が入ってからもそのテンションが妙に変わることはない。それでいながら、ヴォーカルの歌詞のない箇所では、その隙間を埋めるかのように、ベースのスラップが入っていたり、鍵盤でコードが鳴らされていたりと、決して伴奏に留まっていないところに絶妙なアレンジセンスを感じさせる。簡単にグルービーと片付けたくない巧みさだ。サビを迎えるにあたってドラムがフィルを入れてくるが、これも抑制が効いていて、自己主張が強過ぎない。とても品がいい印象。サビでは《SOMEDAY》のリフレインの隙間をブラスが埋めている。追っかけているといった感じであろうか。背後では女性コーラスが主旋律を支え、エレキギターが跳ねている。ギターは結構おもしろいフレーズを弾いているけれども、これもまた自己主張が強過ぎない。主たるメロディを邪魔することなく、楽曲の彩りとなっている。

サビ後半では、コーラスもメインの歌詞を歌い、オクターブユニゾンとなるが、それだけに若干見せる本人のフェイクが効いてくるようにも思う。ここでさり気なく添えられている、キラキラとしたシンセの音色もとてもいい。1サビが終わると間髪を入れずに2Aとなるが、1Aにはなかったコーラスとブラスが入ってくる。それによって楽曲の世界観がさらに開けていく感じがする。そこから続く2サビも、1サビとはコーラスの重ね方が異なっているので、キャッチーなリフレインを新鮮に聴くことができるようにも思う。個人的には、さらにソウルフルに展開したようにも感じる。間奏はキーボードとブラスの競演といった感じ。だが、いずれも派手に鳴り過ぎず、しかも長過ぎない。しつこくないと言ったらいいだろうか。楽曲の中心は歌のメロディであり、どのパートもそこから大きく逸脱しないこと不文律としているかのようだ。楽曲後半はサビのリフレインが続く。コーラスが《めまいする程遠い毎日の時の波》のパートを歌う一方で、それをバックに山下達郎本人は《SOMEDAY》のパートを歌うという構成。跳ねるようなエレキギターもそこまでよりちょっと前に出ていて、なかなか聴きどころではあるが、ここはやはりメインボーカルのテンションの高さに注目だろう。いや、ことさらに注目せずとも、時にシャウトも聴かせる歌声は、楽器陣が奏でる絶妙なアンサンブルと相俟って、実にスリリング。歌詞の《SOMEDAY 一人じゃなくなり/SOMEDAY 何かが見つかる》は、このアンサンブルに自身の気持ちを重ねているようにも感じられるが、それはともかくとしても、山下達郎というアーティストの熱を如何なく感じさせるところである。

M2「DAYDREAM」はギターのカッティングとファンキーなベースラインが引っ張るナンバー。とは言え、ビートのわりには音圧はないと言ったらいいか、これも全体に抑制が効いている印象だ。ブラスも必要最低限に鳴っている感じではある。M1に比べて各パートが派手ではあるものの、どこぞのファンクチューンのような下世話さはまったくない。聴きどころはBメロ~サビだろう。

《ビル街に跳ね上げて砕ける/スカーレット グラスグリーン/流れる バイオレット ショックピンク/渦巻く ローズグレー ペールブルー/たちまちに》《水玉に弾み出す 砕ける/ワインレッド カーマイン/流れる ココブラウン イエロー/渦巻く チェリー ダークオレンジ/またたく間に》(M2「DAYDREAM」)。

上記がBメロの歌詞。[日本語の乗りにくい細かな譜割りのメロディーをクリアするために、アクリル・カラーのチャート表から詞を作り上げる発想は彼女以外には出来ないワザだ]と山下本人は絶賛したという([]はWikipediaからの引用)。確かに、流れるようなメロディーを損なうことなく、楽曲のテーマに沿ったシャレオツなワードチョイスは素晴らしく、吉田美奈子の天才的なセンスを感じるところだ。だが、そのかなり印象的なBメロのあとで、官能的なサビを持ってきているところも見逃せないだろう。どこまでも広がっていくようなハイトーンのヴォーカルはまさに白昼夢を感じさせる。間奏、アウトロのトランペットが若干長いような気がしないでもないけれど、全体的にスリリングなバンドサウンドに反して、ハツラツとした感じでありつつも柔らかな雰囲気は、これもまた楽曲のテーマに沿ったものなのだろう。

OKMusic編集部

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