NOVELAがプログレッシブ・
ハードロックを見事に具現化した
デビューアルバム『魅惑劇』
“花のXX組”と“○○世代”
また、大相撲には“花のサンパチ組”や“花の六三組”という初土俵を踏んだ年が同じ年の力士の総称もあったりする。こういった呼び名はスポーツ界に限ったことではなく、青池保子、萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子、山岸凉子ら昭和24年前後生まれの女性漫画家たちを指して“24年組”とも言われるし、芸能で言えば、80年代のアイドルシーンにはこのカテゴリーが多々ある。松田聖子、河合奈保子、柏原芳恵、岩崎良美らの“80年組”、中森明菜、小泉今日子、掘ちえみ、松本伊代らの“82年組”、中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、浅香唯らの“85年組”がそれ。1985年生まれの蒼井優、満島ひかり、宮崎あおいに加えて、綾瀬はるか、上戸彩、相武紗季、戸田恵梨香らをもって“85年組”とする向きもあるようだし、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみは“奇跡の98年組”と言われているようである。
さらには、明確な総称こそないが、バンドで言えば、94年にメジャーデビューしたGLAY、L'Arc〜en〜Ciel、黒夢、97年デビューのLa'cryma Christi、SHAZNA、FANATIC◇CRISIS、MALICE MIZERも同時期に同世代の秀でた才能が集結した例であろう(まだまだあるが、キリがないのこの辺で…)。
関西HRシーンの先駆け的存在
NOVELAは当時すでに関西のハードロックシーンでは名を馳せていた山水館(1974年結成)とSHEHERAZADE(1977年結成)とのメンバーが結集したバンド。もともとデビューする予定だったSHEHERAZADEの音楽性にレコード会社の上層部が難色を示したことから、その頃、解散したばかりだった山水館のメンバーを加えて新バンドとすることで話題性を高めようとしたという。つまり、界隈のバンドの中でもキャリアは上だったのである。メジャーデビュー後、大阪のスタジオでの練習終わりにメンバーは、当時、出演していたライヴハウスにもよく顔を出していたというが、そこのカウンターでドリンクを出していたのがEARTHSHAKERのギタリスト、石原慎一郎だったという(とはいえ、上下の関係ではなく、友人の間柄だったようだ)。NOVELAはSCHEHERAZADEから参加した平山“Teru”照継(Gu)、五十嵐“Angie”久勝(Vo)、永川“Toshi”敏郎(Key)、秋田“Eijro”鋭次郎(Dr)と、山水館から参加した高橋“Yoshiro”ヨシロウ(Ba)、山根“Mock”基嗣(Gu)の6人編成。それが100パーセント、メンバーの意思であったかどうかはともかく、実力派バンド同士の合体はそれをリアルタイムで経験したリスナー、オーディエンスにとってはドリームチームの結成であった。
プログレにハードロックを
ほどよくブレンド
具体的に楽曲を見ていこう。M1「イリュージョン」。ややオペラ調というか、クラシカルというか、幻想的なハーモニーから始まる箇所はのっけから単なるハードロックではないことを印象付けているが、そこからR&Rならではのギターがグイグイと楽曲を引っ張っていく様子はHRバンドそのものだ。歌が入るとギターは落ち着くが、ブリッジの部分(と言うのも憚られるが…)では再びこのリフがドライヴしていく。ハイトーンのヴォーカルも、キーボードの音色もいかにもHRっぽい。M2「名もなき夜のために」もイントロの逆回転にこそ少しアートロックっぽさが感じられるものの、ヘヴィなギターリフと突っ込み気味のリズムはLed Zeppelinを彷彿させるものだ。M5「少年期~時の崖」は長尺で、その展開の妙も含めて、まさにプログレなのだが、中盤から聴こえてくる重いギターリフやアウトロ近くのワイルドなギターはやはりHRに忠実な印象である。また、リフだけでなく、M5「少年期~時の崖」、M6「魅惑劇」でのアルペジオにはどことなく「Stairway to Heaven」っぽさもあって(個人の感想です)、この辺のギターもまた印象的だ。
プログレらしい長尺な楽曲も魅力
M6「魅惑劇」はタイトルチューンであるからか、収録曲中、もっとも展開が劇的。「ナウシカレクイエム」的な子供の歌声に唐突とも思えるタイミングでミディアムテンポのバンドサウンドがインして(ここのドラムスはどことなく「21st Century Schizoid Man」っぽくない?)、そこに迫力あるハイトーンヴォイスのシャウトが響く。Aメロのバックはピアノがメインで、徐々にギターとシンセも加わって全体的に70年代ロックテイストを醸し出し、序盤から3〜4分でも聴き応えはあるのだが、それ以降がさらにすごい。歌がないので所謂、間奏と捉えられそうなパートだが、間奏と呼ぶにはあまりにも豪華すぎるサウンドなのである。アコギから始まり、チェンバロ~ジャジーなピアノ~フルート(多分)~キラキラとしたシンセ(多分)とつながり、そこから一転、あえて躍動感をなくしたようなピアノ、さらにまたそしてスパニッシュなアコギへと、聴きどころが満載。さらに後半、ドラムの手数も増えてバンドサウンドがよりスリリングさを増していき、メロディアスなエレキギター、シンセ、そして押しの強いヴォーカルも重なって、終幕に相応しい展開へと連なり、締め括りは讃美歌的というか、パイプオルガンのようなサウンドで、楽曲そのもの、アルバムそのものが昇天していくようなイメージだ。『魅惑劇』はアルバム全体でひとつのコンセプトを提示しているような作品ではないが、後半の長尺の楽曲群、そのドラマチックさにはプログレを自称するバンドならではの矜持が受け取れる。
分かりやすいメロディーライン
プログレバンドやHRバンドの中には当時もマニア受けする方向へいくバンドもいたと思うが、NOVELAには女性ファンも多かった。これには、彼らが多田かおるの漫画『愛してナイト』に登場するバンド、ビーハイヴのモデルになったことにも起因しているのだろうが、楽曲に分かりやすい大衆性を備えていたこともそれとは無関係ではないだろう。NOVELAに近い音楽性はMALICE MIZERやJanne Da Arc、D、あるいはある時期のTHE ALFEEにも見出せるが、1980年にそれをやっていたバンドとしてその先見の明は今も称えられてしかるべきであろうと思う。
TEXT:帆苅智之