ティン・パン・アレー
『キャラメル・ママ』は
音楽の達人たちが遺した
レジェンド級アルバム

『キャラメル・ママ』('75)/ティン・パン・アレー

『キャラメル・ママ』('75)/ティン・パン・アレー

鈴木 茂、小原 礼、林 立夫、松任谷正隆によるバンド・SKYE。デビューアルバム『SKYE』は10月27日に発売されているが、そのアナログ盤が11月10日にリリースされたとあって、今週はそのメンバーがかつて結成したバンド、ティン・パン・アレーを紹介する。その概要をちょっと調べるだけでも、本人たちのみならず、伝説級のアーティストが数多く携わっていることが分かる、まさにレジェンド・バンド。活動期間中に制作された作品数は少ないものの、今も遺るアルバムにはレジェンド級の音楽家ならではの作風が垣間見える。

邦楽シーンの神々の集い

ティン・パン・アレーは、細野晴臣(Ba&Vo)、鈴木 茂(Gu&Vo)、林 立夫(Dr)、松任谷正隆(Key&Vo)の4人で1973年に結成されたキャラメル・ママを前身としたバンドで、1974年にこのバンド名になったと言われている(1975年に佐藤 博(Key)が参加)。少しでも邦楽に詳しい人にはもはや説明不要だろう。はっぴいえんどのメンバーであり、はちみつぱいのメンバーであり、ユーミンのプロデューサー&アレンジャーであり、YMOであり、現在に至る日本の音楽シーンの名立たるアーティストをバックアップしたミュージシャンたち。数多くの邦楽名盤を産み出してきた音楽人で、もし彼らがいなかったら邦楽シーンは今とは大きくスタイルを変えていたと言っても過言ではなかろう。

そのティン・パン・アレーは1970年代に3枚のアルバムを遺しているのだが(実質2枚…いや、1枚とする説もあるけれど…?)、今回紹介する1st『キャラメル・ママ』に参加しているレコーディングメンバーもこれまた半端ない。ザっと紹介すると──。高中正義(Gu)、駒沢裕城(Gu)、後藤次利(Ba)、今井 裕(Key)、矢野顕子(Pf)、南 佳孝(Pf&Vo)、斉藤ノブ(Per)。さらにコーラスには、山下達郎、大貫妙子、桑名正博、桑名ハルコ(現:桑名晴子)、久保田麻琴。上記で紹介したバンドに、サディスティック・ミカ・バンドであったり、シュガー・ベイブであったりの関係者も加わっており、ほとんど神々の集いと言ってもいい顔触れである。誰にしても当時は今ほどの知名度もなかったことと、このバンド以前からの付き合いも深かったから実現したものとはいえ、それにしてもこれだけのメンバーが集ったのはほとんど奇跡的に思える。逆に、バンドメンバーも含めて本作に参加した人の多くがのちに名を成した…と考えたとしても、まさに神懸かったことではあったと思うし、ティン・パン・アレー自体、そののちに[各メンバーの多忙により、1970年代後半には自然消滅]したというから、(変な言い方になるが)すでにそれなりに奇跡的な邂逅であったのだろう([]はWikipediaからの引用)。

当時からメンバーが多忙だった節は本作にもある。半分冗談、半分本気でそう思う。というのも、このアルバム『キャラメル・ママ』、なかなか特異なかたちなのである。全10曲収録で、4人のメンバーによるプロデュース楽曲(“編曲”とクレジットされている)が2曲ずつと、バンド名義でのアレンジの2曲で構成。しかも、4人全員が演奏している楽曲が10曲中6曲とおよそ半分なのだ。スタッフのクレジットを見ると、ディレクターもエンジニアもひとりずつで、レコーディングスタジオも1カ所だったようなので、決してソロ作品を寄せ集めたということではないようだが、全員が全曲に携わったということでもないのである。

例えば、林 立夫が作詞作曲編曲を手掛けたM2「チョッパーズ・ブギ」は林以外のティン・パン・アレーのメンバーは演奏に参加していないし、鈴木 茂が作詞作曲編曲のM3「はあどぼいるど町」も同様で、鈴木以外のメンバーはクレジットされていない。アルバム『The Beatles』、いわゆる『ホワイト・アルバム』ほどに個別で録った様子ではないようだし、かと言って、全ての楽曲において、メンバー個々の個性をぶつけ合うという、のちの日本のバンドが取ったバンドらしいアレンジ手法(例えば、UNICORNやLUNA SEAの楽曲制作がそういうスタイルであろうか…)を導入していたようでもないようだ。もしかすると、各メンバーにたっぷり時間があった上で、この作り方が最適と感じた結果なのかもしれないし、実際のところは知らないが、いずれにせよ、これがベターという選択があったことは間違いないし、今も遺る音源を聴いても、“とりあえず”な感覚はないし、しっかりとした顔見世興行的アルバムであったことはよく分かる。

OKMusic編集部

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