『CASINO DRIVE』/RED WARRIORS

『CASINO DRIVE』/RED WARRIORS

RED WARRIORSの原動力とも言える
リトライ精神を熱きR&Rに昇華させた
快作『CASINO DRIVE』

木暮“SHAKE”武彦のギターが奏でるヘヴィかつソリッドなR&Rサウンドに、DIAMOND☆YUKAIのワイルドなヴォーカルを乗せたロックバンド、RED WARRIORS。80年代の国内ロックシーンを語る上で忘れてはならない存在だ。レベッカのリーダーだったSHAKEがレベッカ脱退後に新たに立ち上げたというバンドということも話題となったが、彼らのすごさはその出自そのものをバンドの推進力としたうえに、そのスピリッツをしっかりと音像に落とし込んだ点だと推測できる。そんなレッズの魂が最も色濃く刻まれているのが2ndアルバム『CASINO DRIVE』ではないだろうか。

基本は弾けるようなロックンロール

このコラムを読んでいる人の中、夢や目標へ向かう過程で挫折を経験したものの、そこを目指すことを諦め切れず、再び立ち向かっていこうとしている人はいないだろうか? 受験浪人生がそうであろうし、再就職を考えている人の中にもそんな心境の人がいるかもしれない。もし、そんな人いるなら、この駄文を読む前にまず『CASINO DRIVE』を聴いてほしい。できれば大音量で聴くのが望ましいが、それで周囲に迷惑がかかるのであればヘッドフォンでもOKだ。面倒なら1曲目のタイトルチューンだけで構わないから、騙されたと思って聴いてほしい。目を閉じて、このサウンドと言葉に身を委ねてほしい。

…どうだろう? 胸の奥からたぎる気持ちが沸々と沸いてきただろう。再び踏み出そうとする一歩に力が入る気がしないか? 根拠など何もないけれども、次は勝てる気がしないか? イケる気がしないか? …別にそんな気にならないという人がいるなら、それはそれで仕方がない。だが、そういう人は筆者とロックに対する価値観が違うと思われるので、この先を読んでいただかなくて結構である(※注:このサイトの他のコンテンツには面白い記事がたくさんあるのでそちらはお見逃しのないようお願いします)。
RED WARRIORS(愛称:レッズ)は、レベッカのリーダーだった木暮武彦(愛称:SHAKE)がレベッカ脱退後、1985年にDIAMOND☆YUKAI(Vo)らと結成したロックバンドである。ネットもなかった頃だったが、SHAKEのレベッカ脱退~レッズ結成にまつわる噂話はリアルタイムで耳にすることができた。どこから情報を入手してきたか分からなかったが、レッズファンの友人が嬉々として語ってくれたものだ。曰く「当時の所属事務所がレベッカを歌謡バンドにしようと画策し、それに反発したSHAKEがバンドから追い出された」とか、「レベッカを脱退したSHAKEが、50音順でもアルファベット順でも、レベッカの前後に来るようバンド名を考えて“RED WARRIORS(レッド・ウォーリアーズ)”と付けた」とか、「レベッカの「フレンズ」は実はSHAKEに向けた歌で、レッズの「ルシアン・ヒルの上で」はそのアンサーソングだ」といったところだ。これらの真偽は、直接、本人や関係者に確認したことがないので実際のところはどうか、私は知らない。

しかし、この『CASINO DRIVE』のサウンドとメッセージ性が当時の状況を雄弁に語っていると思う(加えて言うなら、SHAKE脱退後、レベッカが3rdアルバム『WILD & HONEY』でその後に大ブレイクを果たす音楽スタイルの礎を築いたことも事実である)。話に尾ひれは付いているかもしれないが、真実から遠からず…といったところであろう。ただ、文字面だけ見ると結構な恨み節を含むように感じられるこの噂話に辛気臭さはほとんど感じられない。それは当時からそうだった。代表曲「ルシアン・ヒルの上で」のようなセンチメンタルなナンバーもあるものの、レッズの基本は弾けるようなロックンロール。サウンドに変なウェット感がないことが、バンド自体の印象を前向きなものにしていたのかもしれない。また、『CASINO DRIVE』発表の翌年には西武球場公演といった大規模なコンサートを展開。これによりシーンの頂点に登り詰めたといってもよく、仮にレッズが“コンチクショー!”精神の下に結成されたにせよ、それを見事に昇華させたという点では清々しいロックバンドでもあったとも言え、当時からネガティブなイメージは感じさせなかった。

アルバム『CASINO DRIVE』

さて、この『CASINO DRIVE』。今聴いても実にカッコ良い。アガるアルバムである。故・高倉健や故・菅原文太の映画を観た観客の多くは鑑賞後、肩をいからせて映画館を出てきたというが、冒頭でも述べた通り、M1のタイトルチューンにはそれに似た効果があると思う。一瞬で「何か大きなものにも勝てるんじゃなかろうか?」という高揚感を与えてくれる。掴みはバッチリである。M2「I MISS YOU」もへヴィなリフでグイグイと引っ張るナンバーだが、このアルバムはその流れだけでは終わらない。まさにオールドファッションなR&RナンバーM3「OLD FASHIONED AVENUE」、へヴィなブルースM4「OUTLAW BLUES」から、アコギ、ストリングスをフィーチャーしたミディアムバラードM5「MORNING AFTER」、ジョン・レノンへの敬愛を綴った名曲M6「JOHN」、ハードファンクチューンM7「MONKEY DANCIN'」、そして疾走感あふれるM8「FOOLISH GAMBLER」と、全9曲と収録曲こそ少ないが、このアルバムは実にバラエティー豊かなのである。にもかかわらず、決して散漫になっていないのは、サウンドの中心にあるギターの存在感によるところではなかろうか。

木暮武彦という人はどんなタイプも器用に奏でつつ、“らしさ”を損なわないギタリストである。本作はその特異さが発揮された作品とも言える。アルバムはM9「WINE & ROSES」で締め括られる。この楽曲は、80年代はおろか、邦楽ロック史にも刻まれるのではないかと思われる名曲だ。《シケた暮らしも 今は忘れてさ 明日の朝 目覚めの時までは いつもの罪ほろぼしさ 一年でたった一度だけでも》と綴られていることから、ここで描かれているのは文字通り、一年で一度の贅沢──言わば、かりそめのゴージャス感なのだが、それが “Club Version”のブラスアレンジと相まって、力強くもやさしく、愛らしいトーンで描かれている。「このタイプの豊満さをR&Rに取り込んだバンドはレッズ以外にいるだろか?」と少し考えてみたが、パッと思い浮かばない。こういった他に類を見ないR&Rを日本のシーンに送り込んだ功績は後年まで称えられるべきだろう。
最後に──レッズを語るにあたって、やはりDIAMOND☆YUKAI(Vo)の存在を無視はできない。SHAKEが書いたバラエティー豊かなメロディーは、YUKAIの歌唱力、表現力があってこそ輝きを増すものである。M1「CASINO DRIVE」やM8「FOOLISH GAMBLER」での押しの強さ。M5「MORNING AFTER」やM9「WINE & ROSES」の大らかさ。また、M3「OLD FASHIONED AVENUE」でのオールドスクールなR&R特有のフェイクなど、改めていうことではないが、氏はヴォーカリストとして非凡な才能の持ち主である。TVバラエティー番組への露出から、“DIAMOND☆YUKAI =不思議おじさん”と見られている向きもあるようだが(本稿をここまで読んでいただいた懸命な読者の中にはよもやそんな人はいないだろうが)、仮に今のYUKAIに対する一般的なイメージがやや嘲笑傾向であるにせよ、YUKAIのパフォーマンスのカッコ良さを知る者は、それこそそんな印象は一笑に付すことができる。周りにレッズの全盛期を知らず、DIAMOND☆YUKAIを半笑いで語る奴がいたら、ぜひ『CASINO DRIVE』を聴かせてやってほしい。もちろん、大音量で…だ。聴き終わったら言ってやれ。な・め・ん・な・よ…と。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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