【ライヴアルバム傑作選 Vol.5】
THE STREET SLIDERSという
ロックバンドの魅力を収めた
『THE LIVE!
〜HEAVEN AND HELL〜』

『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』('87)/THE STREET SLIDERS

『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』('87)/THE STREET SLIDERS

今週の当コラムは、5月3日に日本武道館にて再結集ライヴを開催したTHE STREET SLIDERSの音源をご紹介。彼らの名盤は、当コラムの連載が始まったばかりの頃、5thアルバム『天使たち』を紹介しており、それ以外のオリジナルアルバムをチョイスするのもありかと思ったものの、今回の武道館でも証明されたように、THE STREET SLIDERSと言えばやはりライヴだろう。彼らにとって初の日本武道館公演を収めた『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』をピックアップした。
■これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
聴き継がれてほしいバンド、ザ・ストリート・スライダーズのヒット作『天使たち』
https://okmusic.jp/news/41829/

バンド自体の地力を感じるライヴ盤

THE STREET SLIDERS(以下、スライダーズ)が日本のロックシーンを語る上で欠かすことができないバンドであることは疑いようがない。今回のデビュー40周年のアニバーサリーイヤーの盛り上がりも当然だ。しかしながら、それこそデビューは40年前で、解散が2000年とおおよそ4半世紀前である。メジャーでの活動期間は約17年間で、解散してからここまでの期間のほうが長いことになる。その辺りを鑑みても、2023年現在、10代から20代半ばの人たちはそのバンド名を聞いてもピンとこない人がほとんどではなかろうか。もしかすると、30代の音楽ファンであってもその記憶が怪しい人がいるかもしれない。いや、もしかしなくても…だろうか。別にそのことを揶揄するつもりはさらさらない。若い人たちに馴染みがないのも仕方がないと考える。

とりわけスライダーズが活発に動いていた1980年代中盤は音楽シーンが大きく成長した時期である。1980年代後半に“ホコ天イカ天”のバンドブームがあり、その前からビートロック、ハードロック、パンクロックなどさまざまなタイプのバンドが世に出てきた。それらの影響もあってか、1990年代にはいわゆるCDバブル期が到来。1960年代や1970年代以上に(おそらくは何倍も、下手すると十数倍も)音楽ファンの選択肢は増えていた。のちにシングル、アルバムもミリオンが頻発し、バンドにしてもメジャーどころだけでも相当数がいたことは改めて説明するまでもなかろう。そんな豊富なアーカイブが当たり前の世代が遡ってスライダーズに辿り着くのは(変な言い方だが)至難の業だと思う。彼ら彼女らにはリアルタイムで新たな音楽が続々と届いてきた。1980年代には主流ではなかったヒップホップやR&Bが日本にも増えたし、アイドルソングも多様化している。スライダーズを知らないのも無理からぬことである。

だが──もう一度言うが、このバンドは日本のロックシーンを語る上で欠かすことができない存在である。イエロー・マジック・オーケストラ、RCサクセション、レベッカ、BOØWY、THE BLUE HEARTS等々、独自のスタイルを貫き、他者の追随を許してこなかったバンドたちがかつて日本にいたが、スライダーズもまたそれらと同様のレジェンド級バンドと断言していい。今まさに『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』を聴き終えて、それを確信しているところである。1987年1月30日に開催された彼らにとって初の日本武道館公演において、スライダーズにしか出せない音を堂々と鳴らしている様子を見事に収録。個々のプレイの音像がクリアーでありながら、その絡み合いで絶妙なグルーブが生まれていることもよく分かる。数多くの日本の名盤を手掛けた名匠エンジニア、Michael Zimmerlingの手腕も見事なのだろうが、ライヴ盤の場合、そもそもバンド自体に地力がなければどんなに上手いミックスでもいい音にはならないはず。その人本来の頭の良さを指して“地頭がいい”と言い方をするが、それに準えるならば、スライダーズには“地バンドがいい”という感じだろうか。卓越したプレイと、それらが交じり合うケミストリー。スライダーズはオリジナルアルバム10枚と、ライヴアルバムを本作以外に2枚発表しており、いずれもこのバンドらしさを確認できるはずだが、本作もまたスライダーズの魅力が詰まった一枚であるということができるだろう。

OKMusic編集部

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