『Ja,Zoo』/hide with Spread Beave

『Ja,Zoo』/hide with Spread Beave

遺作であり、メンバーの
hideへの愛が詰まりまくった
伝説の大ヒットアルバム『Ja,Zoo』 

hide生誕50周年記念アルバム『子 ギャル』のプロモーションビデオが12月10日のリリースに先がけて公開され、話題を呼んでいる。VOCALOIDとhideの楽曲制作に欠かせない右腕的存在であったI.N.Aのプロデュースワークの融合により完成した新曲「子 ギャル」はそもそも、hideが他界した年の1998年11月にhide with Spread Beaver名義でリリースされ、ミリオンセラーを記録したアルバム『Ja,Zoo』に収録される予定だった曲だ。制作途中でhideが急逝したこともあって、ラフなヴォーカルのデモ音源をかたちにすることができなかったという語り継がれてきた未発表曲「コギャル」が、こういうかたちで発表されるとは想像もしなかったが、賛否両論あれど、hideの写真を眺めていると天国から「面白いじゃん!」と笑っているような気がする。そして、RIZEを始め多くのアーティストにカヴァーされてきた「PINK SPIDER」をはじめ、「ROCKET DIVE」「ever free」などの大ヒット曲が収録され、I.N.Aを中心とするSpread Beaverのメンバーの手により本人不在のもと完成へとこぎつけた『Ja,Zoo』はhideへの愛が詰まった伝説の一枚である。

解けない魔法をかけて去っていった
永遠のロックスター

X(現X JAPAN)のギタリストとして1989年にメジャーデビューを果たし、1993年にソロデビューを飾ったhide(Xでは大文字表記のHIDE)は、その才能を爆発させるように少年少女の心を撃ち抜き、ロケット並みのスピードでシーンを駆け抜けていった。“ヴィジュアル系”というジャンルがhideの考案した“PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK”というキャッチがあってこそ後に生まれたものだということは有名なエピソードだが、そのずば抜けたファッションセンスは彼の音楽性と見事にリンクしていた。グラマラスでパンキッシュでストリートで、ピンクの髪とジャージがあんなに似合うアーティストはいないと当時、思っていたものだ。存在そのものがオモチャみたいで、宇宙から来たんじゃないかと思わせる佇まいは、どこかT.REXのマーク・ボランを彷彿とさせるものがある。個人的な思い入れにすぎないけれど、ふたりともキッズにロックンロールの解けない魔法をかけたまま、強烈な存在感とキラめく曲を残して、あっと言う間に去っていってしまったイメージがあるのだ。

アルバム『Ja.Zoo』

レコーディング途中のhideの突然の悲報の中、I.N.Aを中心に完成していたテイクや残されたヴォーカルトラックをもとに、hideのツアーバンドでもあるSpread Beaver(I.N.A、KIYOSHI、K.A.Z、CHIROLYN、JOE、D.I.E)のメンバーの協力のもと、完成させた最後のオリジナルアルバム。hide史上最強のヒット作となった。

タイトルの“Ja,Zoo”は、生前にhideが考えていた造語で日本(Japanese)と動物園(Zoo)を融合させたもの。洋楽と邦楽の垣根を取っ払うというコンセプトのもと、レイ・マクヴェイ、ポール・レイヴンらとヘヴィロックバンド、zilch(本作の「LEATHER FACE」はzilchのカヴァー)を結成し、活動していたhideだが、“日本人にしか生み出せない歌謡でわびさびのあるメロディーは武器だと思う”や“日本で育ったロック”と当時、発言。そのことは「ever free」のメロを含め、このアルバムでも十分、感じとることができる。日本人の琴線に触れる旋律を持ちながら、どこか不埒で歌舞いていてロックに突き抜けているところがhideのスゴイところなのである。その魅力を挙げたらキリがないが「PINK SPIDER」のギターリフひとつとっても、楽器を持ったことのないキッズにギターを買わせてしまう問答無用のキャッチーさとパワー、音そのものに吸引力があるし、歌詞もhideのヴィジュアル同様、キュートで棘があって、ドキドキするようなフレーズがたくさん散りばめられている。個人的には“嘘つき”という台詞で始まる毒が炸裂した「DOUBT '97(MIXED LEMOned JELLY MIX)」のようなインダストリアルなスピードチューンが収録されているところもツボだが、その感受性の豊かさ、ポップとマニアックを独自のバランス感覚で行き来するセンスはやはり天才的だと思う。
なお、急逝後、発表されたヒットシングル「HURRY GO ROUND」のストリングスを入れたアプローチは生前のhideのイメージをI.N.Aが具現化したもの。21分を超えるラストナンバー「PINK CLOUD ASSEMBLY」で朗読しているのはhideの弟、松本裕士。後半は仕掛けが隠された無音が続くがアルバムのトータルタイムを58分28秒にすることにより、それがデジタル表示された際に“8”が“日”に見えることから、hide の命日、平成10年5月2日を忘れないようにというメンバーの想いが込められている。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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