これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

EARTHSHAKERが
ジャパニーズメタルを提示!
叙情的な歌に重きを置いた
『EARTHSHAKER』

『EARTHSHAKER』(’83)/EARTHSHAKER

『EARTHSHAKER』(’83)/EARTHSHAKER

1stアルバム『EARTHSHAKER』の発売が1983年6月だから、今年デビュー35周年を迎えるバンド、EARTHSHAKER。1度解散しており、6年間ほど動いていない時期はあったが、それでも延べ約30年間は現在のメンバーで活動しており、結成から数えると約40年間も続くレジェンドバンドである。和製ハードロック、ヘヴィメタルが世界的にも再び脚光を浴びそうな昨今。そのレジェンド、EARTHSHAKERの特徴と功績をデビューアルバムから見ていこう。

HR/HMに日本的な叙情性を
加味した元祖

昨年末のNHK『紅白歌合戦』でYOSHIKIが手術後初のドラム演奏を披露したことも記憶に新しいX JAPANだが、4月14日と21日にアメリカ・カリフォルニア州インディオで開催される音楽フェス『Coachella Music and Arts Festival』への出演も発表された。X JAPANの北米での知名度は十分に高いが、このフェスでのパフォーマンスがYOSHIKIの本格復帰となることもあって、現地でも大きな注目を持って捉えられることだろう。

X JAPANは所謂ビジュアル系バンドという日本のサブカルチャーの代表ではあるものの、そのルーツはハードロック、ヘヴィメタル。欧米から輸入されたこのカテゴリーの音楽が(X JAPAN自体に今やその面影はなくなったが)KISSであったり、ニューウェイブのアーティストであったりの影響でメンバーは派手なメイクや衣装を纏い、さらに日本的な叙情性を加味されて北米へ逆輸入されるようなかたちになったことは、昔を知る者にとっては痛快でもある。

日本のハードロックの元祖は紫やBOWWOWらであり、海外進出ということで言えばLOUDNESSがその先駆けであろうが、日本的な叙情性を加味したバンドという観点で見ればEARTHSHAKERを忘れてはならない。LOUDNESSが世界を標榜し“バカテク”な演奏でそれを実践したバンドならば、EARTHSHAKERは日本のシーンを意識し、“歌”の比重を高めることによって国内を熱くさせたバンドであったと思う。

不世出のヴォーカリスト2名を輩出

EARTHSHAKERの結成は1975年だったと言われている。二井原実(Vo&Ba)、石原慎一郎(Gu)がその中心メンバー。当初、二井原はベーシストとして参加したものの、ヴォーカリストが抜けたことで彼がヴォーカルを兼任する形の3ピースバンドになったが、1980年に二井原が脱退。同年、西田昌史(Vo)、石原、甲斐孝之(Ba)、工藤義弘(Dr)の4人編成となり、このメンバーで1983年にメジャーデビューを果たしている。1985年には元NOVELAの永川敏郎(Key)が加入し5人編成となり、1994年に解散するも1999年に再結成。西田、石原、甲斐、工藤という黄金のメンバーで現在も活動を続けており、昨年には永川も参加して“5 Shakers”でツアーも行なっている。

初期のメンバーであった二井原がそののち、1981年にLOUDNESSへ参加したことはファンならずともご存知の方は多いのではなかろうか。LOUDNESSに関しては当コラムでその名盤『Thunder In The East』を紹介しているのでバックナンバーをお読みいただけると幸いだが、二井原、西田という不世出のヴォーカリストを擁したEARTHSHAKERの求心力の強さは注目すべきであろう。二井原と石原とは高校の同級生であり、西田もEARTHSHAKER加入前から二井原と交流があったというから、当時、その界隈には独特の磁場があったようである。それがどのようなものであったのかは議論を重ねる余地があるが、80年代前半の日本のハードロック、ヘヴィメタルシーンをけん引するだけでなく、一方は海外でもう一方は国内で活躍することで日本のロックシーンを変革したアーティストが、当時はまだ“村”的であったと言える業界から出現してきたことは間違いない。
■『Thunder In The East』/LOUDNESS
https://okmusic.jp/news/83684/

艶やかさ、セクシーな
ハイトーンヴォーカル

異論はあろうが、EARTHSHAKERのデビュー作『EARTHSHAKER』を聴いてまず惹かれるのは西田=MARCYのヴォーカルであろう。和製R&Bの定着以降、フェイクを含めて歌メロの抑揚がことさらに強調される楽曲も多く、レンジの広い歌い手も珍しくない今となっても、ここに収められた彼のハイトーンは実に魅力的だ。単に甲高いだけでなく、独特のこぶし回しがあり、それが艶やかさ、セクシーさを生んでいる。

もちろんそのヴォイスパフォーマンスを発揮させているメロディーラインのキャッチーさも見逃せない。♪Oh!もう二度と♪(M3「412」)とか、♪エーンドレス・ドリーム・フォーエバー♪(M7「CHILDREN'S DREAM」)とか、♪なにもかもおまえにー Ah-Ha- なにもかも 求めた♪(M9「夢の果てを」)とか、そのハイトーンを再現できるかどうかはともかく、口ずさみやすいものばかりだ。♪アースシェイカー♪(M1「EARTHSHAKER」)、♪アーイ・フィール・オール・サッドネス♪(M4「I FEEL ALL SADNESS」)は、サビが楽曲タイトルであることでさらにキャッチーさが増しているようであり、特に印象的だと思う。これぞ、ジャパメタであろう。

また、きれいに言葉を音符に乗せているのみならず、M6「MARIONETTE」での見せる各小節を《Saturday Night》《Crazy Night》《Back Street》《Rock'n Roll》といった言葉で占める文法(?)であったり、M8「TIME IS GOING」の《yeah yeah》の多用であったりは、R&Rの作法に忠実といった印象で、叙情性だけでない様式美を見ることもできる。

歌を邪魔せずに自己主張する楽器隊

歌を支えるサウンドも見事だ。この言い方が合っているかどうかわからないが、概ねサウンドは奥ゆかしい印象がある。「ディストーションの効いたギター、ツーバスの重くて速いビートのどこが奥ゆかしいんだ!?」とお叱りを受けそうだが、ジャパメタの“メタ”はヘヴィメタルの“メタ”であるからして、そうしたサウンドの特徴は間違いなくあるのだが、楽器隊は出るところをしっかりとわきまえていると思う。それはM1「EARTHSHAKER」からして顕著。ミディアムのどっしりとしたリズムで、冒頭はギターもベースも決して派手ではない。しかし、ヴォーカルと重ならない部分──ソロはもちろんのこと、小節の終わりでも、「ここぞ」というところで、ギターはハンマリング、ベースはランニングするフレーズを入れてたりする。ドラムスが所謂オカズを入れているのは言うまでもない。楽曲が進むに従ってそうした楽器隊の自己主張は増していき、特にギターはサビを経てソロで個性全開。ドラマチックかつワイルドな実にカッコ良いアプローチが聴ける。そのM1「EARTHSHAKER」をアルバムのオープニングにしたのは意図的だったのだろうか。

2曲目以降はそうした奥ゆかしさ、楽器隊のヴォーカルを邪魔しないスタンスはそのままに各パートの小技は増えていく。M2「WALL」の間奏でブレイクを連発する箇所やM4「I FEEL ALL SADNESS」のプログレっぽいダイナミズムはバンドとしての面目躍如であろう。もっとも個性的に聴こえてくるのはやはりギター。M4「I FEEL ALL SADNESS」、M7「CHILDREN'S DREAM」辺りのソロは特にいいが、M6「MARIONETTE」のアウトロでのライトハンド奏法、M8「TIME IS GOING」の間奏で聴かせる、ほとんど曲芸のような速弾きは実に素晴らしい。当初からLOUDNESSとの比較で「“バカテク”ではなかった」と言われたEARTHSHAKERだが、いやいやどうして、石原=SHARAは流石に元祖ジャパメタギタリスト。言うまでもないことだが、優れたプレイヤーである。

そのアプローチは世界標準だったか

今回、『EARTHSHAKER』を聴いて、もっとも興味深く思ったのはM9「夢の果てを」である。マイナー調でシンプルだが堂々としたギターリフから始まって、これまたシンプルなリズムが重なるイントロ。音圧があって歌とギターソロこそメタル然としているものの、間奏以降はアルペジオを取り入れたりして、俗に言う煌びやかさとからは少し離れたナンバーだ。オルタナ、グランジっぽいというか、誤解を恐れずに言えば、どことなくNIRVANAっぽいのだ。NIRVANAの結成はEARTHSHAKERより10年遅く、アルバム『NEVERMIND』がリリースされたのはEARTHSHAKERが解散宣言した少し前なので、彼らの音楽性がカート・コバーンに何らかの影響を与えているのではないかと思って調べてみたが、その痕跡は発見できなかったが──まぁ、NIRVANAとEARTHSHAKERとに直接的な関係があるわけはないが、ともに欧米のハードロックがバックボーンにあっただけに、そのリスペクトを素直に出せばアプローチは自ずと似てくるのだろう。

冒頭で“LOUDNESSは海外でEARTHSHAKERは国内”と表したが、それは戦略において…ということで、EARTHSHAKERにしてもその音楽性は世界標準だったと言っても決して過言でもなかろう。今年デビュー35周年のEARTHSHAKER。音源制作、ライヴともにアニバーサリーに相応しい動きを見せるようで、2018年は再評価熱も高まりそうである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『EARTHSHAKER』1983年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.EARTHSHAKER
    • 2.WALL
    • 3.412
    • 4.I FEEL ALL SADNESS
    • 5.DARK ANGEL(ANIKALS)
    • 6.MARIONETTE
    • 7.CHILDREN'S DREAM
    • 8.TIME IS GOING
    • 9.夢の果てを
『EARTHSHAKER』(’83)/EARTHSHAKER

OKMusic編集部

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