ストイックに歩んだインディーズの雄
、ELLEGARDENの名盤『RIOT ON THE G
RILL』

昨年、細美武士が立ち上げた新バンド、MONOEYESのライヴを拝見した。バンドというよりもアート・プロジェクトに近いthe HIATUSとの比較により、余計にシンプルさが強調されたような印象を受けたことは否めないが、「細美武士が速い曲に戻ってきた」と自身もMCで語っていた通り、ストレートなパンクロックが彼本来の資質であったことを再確認させられた。となると、やはり思い出すのはELLEGARDEN。邦楽ロックシーンに果敢に切り込んだ彼らの足跡を振り返ってみた。

ピュアな魂のままにシーンへ挑む

インディーズバンドのままであり続けながら邦楽シーンをけん引したELLEGARDEN は、PIZZA OF DEATH RECORDS主宰のHi-STANDARD、アルバム『MESSAGE』を280万枚以上売り上げたMONGOL800と並んで、邦楽史に名を残す偉大なバンドのひとつだ。CD不況と言われる最近でも、所謂メジャーレーベルに所属していないことで資本面、流通面でのアドバンテージが低くなることは間違いない。それゆえに…だろう。古今東西のビッグヒット作品、大ブレイクアーティストのほとんどはメジャーレーベルから生まれているし、ある時期まで“インディーズで名を挙げて、鳴り物入りのメジャーデビュー”は定番化していた感じさえある。だが、ELLEGARDEN はメジャー契約のないまま、幕張メッセでのワンマンライヴで約3万人を動員し、5thアルバム『ELEVEN FIRE CRACKERS』をチャート1位に叩き込んだ。これらは偉業と呼んでいいであろう。ライヴハウスにこだわり続けたバンドなだけに(少なくとも当時は)絶対に実現しなかっただろうが、最盛期だった2007年頃なら東京ドームを埋められたのではないかと思われるほど、彼らへの支持は圧倒的だった。
派手なタイアップや芸能マスコミを賑わすようなネタはまったくなかった。やることと言えば、ひたすらライヴと音源制作。初期にはライヴで地方を訪れる度にその土地のラジオ番組へ出演し、レコード店を廻り、タウン誌の取材を積極的に受けてきた。地味と言えば地味である。しかし、これは想像だが、良くも悪くも当時のELLEGARDENと、彼らのスタッフは、それしかやれることがなかったのだと思う。インディーズレーベルゆえに、マネジメントもライヴ制作も生真面目に、実直にやれることをやっていたのだろう。それが奏功してELLEGARDENがシーンに浸透していった…と言いたいところだが、おそらくそこには狡猾なプロモーション戦略などはなかったとも筆者は想像する。ELLEGARDENというバンド、そのメンバーたちが持っていた熱。その熱が純粋にスタッフに移り、さらに媒体やバイヤー、そしてリスナーに移っていったのだと思う。音楽業界ですら、やれマーケティングだ、やれマーチャンダイジングだと言われていた頃に、彼らは実直…いや、あえて愚直と言いたいような方法論で活動し、支持を拡大したのだ。それはまさに《一滴の水で泳ぐ 勝算みたいなもの》(M5「Missing」)だったわけだが、それでも彼らは見事に泳ぎ切った。
当時、細美武士(Vo&Gu)に話を聞いた時、映画『ルパン三世 カリオストロの城』のラストシーンで、クラリスのもとを去るルパンたちに向かって庭師の爺さんが言う台詞になぞらえて、「“なんと気持ちのいい連中だろう”と言われるようなバンドになりたい」と言っていたことを思い出す。また、これはELLEGARDENのファンの間では有名なトピックだろうが、彼は漫画『ワンピース』の大ファン。劇中の有名台詞を引用して、「俺も“海賊王”になりたいんですよ」と清々しい笑顔を見せてくれたこともあった。この辺りからも推測できるように、ELLEGARDENというバンドは、「いつか武道館のステージに立ちたい」とか「紅白歌合戦に出たい」といったような具体的な目標を持つバンドではなかったし、おそらく「シーンを変えよう」みたいな気持ちもなかったと思う。自分たちがカッコ良いと思う音源を作り、それを聴いてもらったり、ライヴで演奏してみんなで騒いだりすること──それしかなかったのである。逡巡するような場面もあっただろうが、彼らはそのバンドとしての姿勢を固持し続けようとした。《たった一つのことが今を迷わせてるんだ/数え切れないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ/遠回りする度に見えてきたこともあって/早く着くことが全てと僕には思えなかった》(3rdシングル「ジターバグ」)にその姿を垣間見ることができる。

清々しいまでのサウンドを収録

さて、そんな風に極めてストイックに活動を続けたバンド、ELLEGARDENの1枚を選ぶとすると、バンドのスキルやテクニックで言えばおそらく5thアルバム『ELEVEN FIRE CRACKERS』ということになるだろうが、ここは4thアルバム『RIOT ON THE GRILL』を推したい。『ELEVEN FIRE CRACKERS』はバンドの臨界点を示したようなスリリングなアンサンブルが聴きどころではあるのだが、個人的にはあのキリキリとした感じが微妙に馴染めず、カッコ良いと知りつつも、定期的に聴きたくなるようなアルバムではない印象だ(少なくとも筆者にとっては…であるので悪しからずご了承願いたい)。その点、『RIOT ON THE GRILL』はバランスのとれたアルバムだと思う。M3「Snake Fighting」やM7「TV Maniacs」といったヘヴィかつラウドなナンバーもあれば、M2「モンスター」、M4「Marry Me」、M6「Bored Of Everything」等のポップチューンもあるし、ミディアムのM5「Missing」、M9「虹」、M10「I Hate It」もあれば、ライヴでのモッシュ&ダイブシーンが浮かぶM1「Red Hot」、M11「BBQ Riot Song」もある。インディーズチャートでロングセールスを記録したことにも納得できるバラエティー豊かなアルバムであるし、ELLEGARDENというバンドのスタイル、音楽性がよく分かる作りでもある。細美武士が作り歌うキャッチーなメロディーラインを、高田雄一(Ba)と高橋宏貴(Dr)両名による骨太のリズム隊が支え、生形真一(Gu)の流麗なギターが彩る。清々しいまでにストレートなバンドサウンドがパッケージされており、今聴いても色褪せた感じはない。
“逡巡しつつもバンドとしての姿勢を固持し続けたバンド”と前述したが、バンドが上り調子にあったこの時点で、そうした心境がそれまで以上に露呈している点も興味深い。
《As always things won't be better/As always no one understands/As always I'll do anything/As always if it makes you laugh》(「Red Hot」)。
《そういう二つとない宝物を集めて/優しくも揺れてる声と合わせて/一つ一つ片付けてく僕らは/不確かなまま駆けてく》(「モンスター」)。
《重なって 少し楽になって/見つかっては ここに逃げ込んで/笑ったこと 思い出して/We're Missing》(「Missing」)。
《積み重ねた 思い出とか/音を立てて崩れたって/僕らはまた 今日を記憶に変えていける/間違いとか すれ違いが/僕らを切り離したって/僕らはまた 今日を記憶に変えていける》(「虹」)。
“As always=いつものように”と強調しつつも、それが“不確か”であり、“音を立てて崩れさることもある”ことを暗に認めているかのようだ。極めつけは「Missing」。これは「ELLEGARDENでのライヴ光景。そういう場所がなくなったらイヤだという気持ちを綴った」という趣旨のことを当時、細美に聞いた記憶があるが、後にバンドが活動休止に至ってしまった事実の前には何とも複雑な感じだ。もちろん、彼らは悪戯にバンドがなくなる危機感を煽ったわけではない。それは断言していい。バンド活動が永遠に続くことが彼らの望みであったことは間違いないが、同時に、終わりなき日常がないことも予見していたのだと思う。それだけ彼らがピュアだったということだろう。

必然とも言える活動休止、そして…

その予見は、哀しいかな、的中する。新作レコーディング中に、メンバー間でのモチベーションに差が出て納得のいく作品できないという判断でその制作を中止。併せてバンドの活動も休止すると発表され、2008年9月7日のライヴを最後にELLEGARDENとしての活動に一旦幕を下ろした。以後、細美武士はthe HIATUS、生形はNothing's Carved In Stone、高田はMEANING、そして高橋はScars Borough(現在は活動休止)と、それぞれ別バンドにて始動。高橋はTHE PREDATORSにも参加した上、細美は新たなバンド、MONOEYESを立ち上げるなど、みんな、精力的に活動を展開している。活動休止が決まった直後は“事実上の解散”というのが大方の見方であった。実際、後に細美が自身のブログで、ELLEGARDENの活動休止を「あの日俺の世界の全てだったバンドがなくなって、大げさに言えば生きる意味も分かんなくなってた」や「まるで自分の人生の全てが終わってしまったように感じた」と綴っていることから、それはほぼ間違いなかっただろう。しかし、その同じブログ内で「待つのはめっちゃ辛いよな。その気持ちは、活動再開をこの世界で誰よりも待ち望んでる俺にはよーく分かるぜ」とも、「俺はあきらめが悪い。きっとそのうち、全部のピースが揃って、またELLEGARDENのライヴができる。そしたらバンド3つになって超大忙しになるな。今から楽しみだよ。:-)」とも語っていることから、活動再開の可能性は十分に出てきた。記憶に止めておくには惜しいバンドである。遠くない将来での活動再開を望む。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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