これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

『PRESENCE』に見る
HR/HMからの超越、
次世代バンドならではの
PRESENCEの存在感

『PRESENCE』(’00)/PRESENCE

『PRESENCE』(’00)/PRESENCE

1月は1980年代の関西HR/HMシーンを彩ったバンドたちの名盤を紹介してきた本コラム。EARTHSHAKER、44MAGNUM、NOVELAと続けてきたが、今週はPRESENCEの登場である。先輩バンドたちと同じく、HR/HMジャンルでは国内屈指のライヴハウスであったLiveHouse Bahamaで腕を磨いたテクニックと、メンバーのルックスの良さで、彼らもまた日本の音楽史にその名を刻むバンドであることは間違いない。デビュー作『PRESENCE』から彼らの特徴を探る。

関西HR/HMシーンの次世代バンド

PRESENCE は1982年結成、1987年デビュー。先週紹介したNOVELA(1980年デビュー)やEARTHSHAKER、44MAGNUM(ともに1983年デビュー)と同じく関西HR/HMシーン出身で、それら先達に続いた世代の代表格と言える。デビュー時のメンバー、西川“SHIGERU”茂 (Vo)、白田“RUDEE”一秀 (Gu)、恩田“RADY”快人 (Ba)、岡本“HIBARI”浩明 (Dr)はみんな昭和40年前後の生まれで、年代的にも先輩たちの少し下の世代に当たる。結成直後はなかなかメンバーが固定せず、一時期は5人編成のこともあったそうだが、1984年には上記4人となり、インディーズながらメジャーバンドにも負けない動員力を誇っていたという。

その人気の裏には彼らが出演していた大阪のライヴハウス、LiveHouse Bahamaの尽力があったと聞く。結成当初はメンバーが高校生だったこともあってまだまだ演奏もちゃんとしていなかったということだが、西川の声の良さに注目したBahamaのオーナーが一念発起。何とか人前に出られるように手助けしようと、親の許可をとってメンバーを近所に住まわし、練習時間を設定して、曲作りからステージングまで一から教授したそうである。LiveHouse Bahamaは、それこそEARTHSHAKER、44MAGNUMといった先達を送り出した老舗ライヴハウスである。PRESENCEはそんな日本のHR/HMシーンの重鎮が入れ込むだけの逸材であったということだろう。ちなみにBahamaのオーナーはインディーズ時代の彼らから一切金銭はもらわずにマネジメントしていたというから、それだけ惚れ込んでいたということだろうか。

世界も注目した非凡な才能

こんな逸話がある。PRESENCEのメンバーが上記4人になった頃、世界的にもHR/HMが流行っており、LOUDNESSが海外で評価を得ていたことも関係していたのか、すでにインディーズで人気を博していた彼らの元にロンドンの音楽誌から“資料一式を送ってほしい”と依頼があったという。英訳したプロフィールとデモ音源を先方に送ると、後日その音楽誌が送られてきて、モノクロではあったものの、1ページを使ってPRESENCEを取り上げてくれたそうだ。

その内容はバンドを絶賛するものであって、メンバーもスタッフも大そう喜んだというが、話はそこで終わらなかった。その音楽誌でPRESENCEのことを知ったであろう各国の音楽誌からもアプローチが続々寄せられた。デンマーク、イタリア、ドイツ、アメリカ等々。“プロフィールとデモ、写真を送れ”と毎日のように送られてきたそうである。それらに対してもしっかり応対すると、今度は“イタリアのインディー専門ラジオ局で今週のリクエストNo.1になった”とか、“アメリカで音源を出す気はないか”といったエアメールが、これまた毎日のように届いた。中には、全米に向けてプロモーションするエージェント契約の契約書もあったというし、ドイツ(当時はまだ西ドイツか)から実際、取材に訪れたライターもいたという。とは言え、当時も今もPRESENCEが海外進出した事実はないので、そうした海外からのアプローチが彼らの活動に直接影響を及ぼすことはなかったようだが、PRESENCEの非凡さを裏付ける話ではあろう(これは想像だが、当時インディーズのままで海外進出するのは事務的にも相当にハードルの高い行為ではあったと思われる)。

時代の端境期を示すレコード

そのPRESENCEが約5年間のインディーズ期間を経て、満を持して発表した1stアルバムが『PRESENCE』である。今回、音源を聴いた率直な感想をまず綴らせてもらうと、関西HR/HMシーン出身ということでそのジャンルで語られるPRESENCEであるが(それはそれで間違ってないとも思うが)、『PRESENCE』に限って言うならば、本作はR&Rアルバムと呼んだほうがしっくりくる気はする。さらに言えば、本作のリリースは、欧米でのポストパンク/ニューウェイブ、とりわけニューロマンチックの台頭後であり、44MAGNUMがソフトロック路線に変更するなど、所謂“ジャパメタ”も曲がり角を迎えたと言われる時期でもある。

その辺にも起因しているのかもしれないが、それほどHR/HMしていない──少なくともメタルの様式美は薄い印象はある。この辺をもってか、当時は“メジャーへ行ってPRESENCEはポップになった”と言われたようで、インディーズ時代のライヴでの音圧に比較してギャップを感じたファンもいたことも分からないでもないが、今も残る音源からはソリッドかつヘヴィ、それでいてしっかりとキャッチーなロックバンドであったことを伺うことができるし、PRESENCEが時代の端境期に存在していたことを証明するレコードでもあると思う。

類型的なスタイルに
とらわれないサウンド

M2「BAD BOY」やM6「ROCK DRIVE」での重いビートは確かにHR/HMっぽいが、それとて全編がそうではなくて、「BAD BOY」のアウトロでギターがちらりとテンションノートを聴かせたり、「ROCK DRIVE」のAメロのギターはニューウェイブ的なドライな音作りがなされていたりと小技が効いていたり、ひと筋縄ではいかないアプローチがなされている。乾いたギターリフはM5「SHE LOVES ME」やM7「7つのピアス」でも聴けるが、とはいえ、それがニューロマになることなく、例えば「SHE LOVES ME」のギターソロではしっかりとライトハンドでのテンションの高い演奏を見せていたりする。T-REXかThe Rolling Stonesかというブギーが聴けるM4「SLOW DOWN」、前のめりなロカビリービートが心地良いM9「LET'S DANCE」、あるいはDavid Bowieの「Ziggy Stardust」へのオマージュが感じられるM8「蜃気楼」等で、ベーシックなR&Rへの敬愛を示す一方で、類型的なスタイルにこだわることなく、バンドサウンドを構築していることが分かる。

これもまたギターの話になるが、鋭角的なリフを弾いたかと思えば途中アルペジオになったり(M1「ROCK ME」)、Aメロでのキラキラとしたコード感がBメロ以降ではザクザクとした重いストロークに展開したり(M3「I LOVE YOU ONLY YOU」)、その変幻自在ぶりも楽しいところだ。

特徴的なメロディーを巧みに歌う

西川の声の良さにBahamaのオーナーが注目し、無償でマネジメントを始めたというだけあって、本作でもヴォーカの上手さは十分に確認できるし、誰が聴いてもプロの仕事をしていることが分かるパフォーマンスだ。HR/HMのそれに忠実というか、M1「ROCK ME」、M5「SHE LOVES ME」、M8「蜃気楼」辺りで特有なハイトーンが聴けるが、嫌味な感じはなく、聴き手を選ばない印象である。M2「BAD BOY」などで聴かせるキャッチーなサビメロをさらに引き立てるハーモニーもいいが、そもそも歌メロにPRESENCEならではのオリジナリティーがあるのだろう。

個人的にこのバンドならではの特徴が出ていると思うのはM3「I LOVE YOU ONLY YOU」とM7「7つのピアス」。ともにどこか60年代歌謡曲風というか、グループサウンズ的というか、いずれにしてもR&RともHR/HMとも異なる面白いメロディーセンスだと思う。強いて形容するならば“妖艶さ”と言ったらいいだろうか。そのミステリアスさとセクシーさを兼ね備えたメロディーは、押しの強いバンドサウンドにも負けることなく、それと重なり合うことで楽曲の世界観を広げている。

メンバーの音楽性に違いに勝因が?

さて、端的に言うのも憚られるが、ここまで述べたように、アルバム『PRESENCE』収録曲から見るPRESENCEの特徴は所謂HR/HMを超越しようとしたところにあるのではないかと思うのだが──結果論ではあろうが──このバンドが1987年のメジャーデビューからわずか2年で解散を発表し、その後、各メンバーがそれぞれベクトルの異なる音楽活動を開始したことでもそれが分かると思う。

白田は元REACTIONの加藤純也らとともにGRAND SLAMを結成。その後もさまざまなバンド、ユニットで活躍する今も名うてのギタリストである。恩田は1990年にJACKS'N'JOKERへ参加したのち、1992年にJUDY AND MARYを結成。大ブレイクを果たしたことは皆さんご存知のことだろう。岡本はEins:Vierの結成メンバーとなり(のちに脱退)、西川に至っては現場を離れ、音楽制作会社を設立してプロデューサーとして活躍している。音楽性も方向性も見事にバラバラで、今になるとよくぞこのメンツがひとつのバンドに収まっていたとも思えるほどである。だが、そんなふうにメンバーが自らのセンスを持ち寄ってバンドにぶつけたことでアルバム『PRESENCE』はオリジナリティーあふれる作品になったのだろうし、そこに今もPRESENCEが日本のHR/HMシーンにおけるレジェンドバンドとして語り継がれている要因があるように思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『PRESENCE』2000年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ROCK ME
    • 2. BAD BOY
    • 3. I LOVE YOU ONLY YOU
    • 4. SLOW DOWN
    • 5. SHE LOVES ME
    • 6. ROCK DRIVE
    • 7.7つのピアス
    • 8.蜃気楼
    • 9. LET'S DANCE
『PRESENCE』(’00)/PRESENCE

OKMusic編集部

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