中原めいこの
シンガーソングライターとしての
優秀さを示す『ロートスの果実』は
1980年代邦楽シーンを象徴する一枚
“キウイ・パパイア・マンゴー”の
インパクト
《ドライなシェリー ちょっと誘われて/灼けつく恋の 食前酒(アペリティフ)/本気か嘘つき シャイなまなざし/憎いカサノバ fall in love》《太陽に虹をかけたら 抱かれてもいいわ/じらせば 最初のkissが アナタを熱くする》《君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね/うれしはずかし 真夏の噂/君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね/咲かせましょうか 果実大恋愛(フルーツ・スキャンダル)》(M5「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」)。
図らずも1番の歌詞を全て引用してしまったが、意味はさっぱり分からない。しかしながら、その内容がどうかなんて、正直言ってどうでもいい。《灼けつく恋の 食前酒(アペリティフ)》とか《咲かせましょうか 果実大恋愛(フルーツ・スキャンダル)》とか、冷静になれば “それ、どういう意味?”と突っ込んでしまいそうなものだが、曲を聴いている間は(少なくとも本作が巷でよく流れていた1980年代半ばの時点では)、そうさせないだけのエモーションがサウンドとメロディーにある。2番の歌詞《煙草は薄荷(メンソール) 火を貸しただけ/くやしいけれど 笑顔が好き/波のせいにして 抱きしめられて/今は妖しく fall in love》からすると、ナンパされたか何かで出会った異性に心惹かれて…みたいな話なのだろう。だが、そんな詮索は無粋なのだ。そんな理屈よりも、《果実大恋愛(フルーツ・スキャンダル)》のほうに有無を言わせぬ圧倒的な説得力がある。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、この楽曲は1984年の夏の化粧品キャンペーンのCMソングであり、このタイトルは広告代理店が指定したものだという。“「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」というタイトルで1曲作ってください”とオファーするほうも大胆で、いかにもバブル景気を目前にした日本のショービジネス界を偲ばせるが、そのオファーでこんなにもポップなナンバーを仕上げてしまう、中原めいこは本当に天才だと思う。今更ながらに天晴れ。彼女のコンポーザーとしての手腕を大絶賛したいし、大喝采を送りたいほどである。