『Songs』のヒットで00年代のパンク
ブームを牽引! 復活を遂げた175R、
そのバンドの本質を探る

175Rの活動再開が発表された。10月19日に活動再開記念作品として、「ハッピーライフ」「空に唄えば」等、代表曲6曲を再録した『175R(e) BEST』の配信がスタート! ライヴ活動は12月3日に幕張メッセ国際展示場で開催される『SKULLSHIT 20th ANNIVERSARY 骸骨祭り』を皮切りに、12月25日の『MERRY ROCK PARADE 2016』(@ポートメッセなごや1~3号館)、12月27日・28日(175Rの出演日は未定)の『FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY』(@インテックス大阪)といったフェスに登場する。00年代前半の所謂“青春パンク”の旗手的存在として一気にシーンを席巻した175R。復活を祝し、そのバンドとしての本質を、メジャー1stアルバム『Songs』から検証する。

2作連続で初登場1位というデビュー時の
快挙

175Rのメジャーデビューは2003年01月。02年7月、SHAKALABBITSと共作シングル「STAND BY YOU!!」をインディーズで発表後、その翌年、シングル「ハッピーライフ」で華々しくデビューを飾った。この「ハッピーライフ」はいきなりチャート初登場1位を獲得。さらに、この3カ月後に発売された2ndシングル「空に唄えば」もチャート初登場1位。この2作連続の1位は日本のロックバンドではそれまでなかった快挙で、まさしく“華々しいデビュー”だったと言える。当時の音楽シーンがどうだったかも少し触れておくと、02年の年間売上1位が宇多田ヒカル、2位は浜崎あゆみ、3位にMISIAという、所謂ディーヴァ全盛期。MONGOL800のアルバム『MESSAGE』がインディーズながらチャート1位かつミリオンセールスを記録した年でもあるのだが、バンド勢は鳴りを潜めつつある時期でもあった。そんな中、03年に「空に唄えば」をシングル年間売上18位に、アルバム『Songs』はアルバム年間売上20位に叩き込み、同年の『NHK紅白歌合戦』にまで出場を果たした175Rは、当時のロックバンド勢の中で、ほとんどひとり気を吐く状態だったと言っても過言ではなかろう。
では、その175Rのどこがすごかったのか? 正直に告白すると、筆者はここまで自然と耳に入ってくる以外で彼らの音源に触れたことがなかったのだが、今回、『Songs』を入手し、初めて自発的に175Rを聴いてみて、“なるほど”と膝を叩いた。まず、歌メロが分かりやすい。十二分にポップだ。歌詞を詰めむこともなく、メロディーに言葉をきっちりと乗せている印象で、歌が耳に残るのだ。要するにキャッチーだということだ。さらに、サウンドはパンクのそれを中心に、M4「Party」等では弾むピアノでオールドスクールなR&R感を出していたり、M6「さらば恋人」やM7「僕の声-Album version-」でスカを聴かせたり、M2「旅人」のイントロ、アウトロではセカンドラインを導入するなど、一本調子となりそうなところを回避している。飽きずに聴ける。そして、何と言っても特筆すべきは曲の構成だろう。このバンドの楽曲は、そのほとんどで実に効果的に転調が行なわれている。ロックの、というよりもポピュラーミュージックの輪郭を、意図的か無意識か分からないが強調している。Bメロで転調してサビにつなげるという、ポップスの王道展開はM2「旅人」、M3「ビューティフルデイズ-Album version-」を筆頭に随所で聴けるが、最注目は、と言えば、これはM8「空に唄えば」で間違いないだろう。

起伏に富んだドラマティックな曲構成

「空に唄えば」は175R最大のヒット曲であり、『NHK紅白歌合戦』でもこの楽曲を披露している。この楽曲は組曲さながらに転調が連続する。まず《空を見上げて雲を見つめる》~《小さなこの両手で夢を掴もうとしてた》の部分。ここは所謂Aメロに当たるのだが、伸びがあり突き抜けるようなメロディーで、パッと聴き、「サビ頭?」と思うほどである。《友の声は遥か遠くに 僕の心の中で絶えずに響いて…》で転調。メロディーもややマイナーで、テンポも若干落ちるので、ここはBメロらしいBメロだ。その後、もう一度、A、Bを繰り返すのだが、2度目のAでは若干メロが変化。言わば“A´”といった感じで、ここまでの短いタイムの中でも十分に起伏がある。で、サビ。《あの日の僕等はそこに立っていて/何も言わずにこっちを見ている》以下の部分だ。ここでは完全にリズム隊の手数が減る上、歌メロの音符も少なくなるので、大袈裟に言うと別の曲が始まったかのように景色が変わる。そこから、B(半分)~サビを繰り返して、その後にC《僕らが過ごしたあの日々は/何も変わらずあの日のまま/明日へ繋がるこの道に/大きな足跡残してやれ》が待っている。ここはビートも派手でメンバーのコーラスも重なるので圧しが強く、所謂“大サビ”と捉えることもできる。そして、サビ~Aに戻る。こうして分解してみると、かなりドラマチックな展開である。
これも正直に告白をすると、筆者は「空に唄えば」をちゃんと聴くまで、このAとサビは別の楽曲のものだと思っていたし、これだけ立ったメロディーがあれば2、3曲に分けても良かったのでは、と今でも思う。でも、そんな素人考えかつ貧乏根性を175Rが持つはずもなかった。持て余る才能を出し惜しみすることなく、ぶつけたのだろう。上記でも述べた通り、SHOGO(Vo)の作るメロディーは分かりやすく、ポップなものばかりである。「空に唄えば」に関して言えば、そのメロディーをツイン、トリプルで盛り込んでいるのだから、大衆に支持されたのも当然だったと言える。しかも、そのサウンドは勢いのいいパンクロックをベースに、R&Rの基本もしっかりと抑えてある。今考えても175Rは売れてしかるべきバンドだったと思う。ツインカレーに喩えよう。それぞれに他店なら看板メニュー級の旨さのビーフカレーとチキンカレーが乗っているとする。ルーはともにマイルドな辛さながらも、本場の香辛料の風味がピリッと効いていたりする本格派ならば、そりゃあ万人受けするだろうし、提供する店には行列もできようというものだろう。

歌詞は意外と“青春真っ只中”ではない

個人的に興味深かったのは歌詞。「ジャンルとしては青春パンクに分類される」(ウィキペディアより抜粋)とあるから、歌詞は青春時代特有の清々しさ、甘酸っぱさが満載かと思ったら、これが意外にもそうでもなかった。《あの日の夢は今も僕の事を縛りつけて/何も変わらずずっと流れてる》(M8「空に唄えば」)でも分かる通り、青春真っ只中を描いたというよりも、若干回顧的なのである。
《僕はあなたに求めすぎたのか/つらい思いをどれほどさせたのか/あなたの痛みをわけてくれないか/何度歌えどあなたには届かないよ》《ゆっくりと時は流れ気付いた時には遅すぎ…》(M3「ビューティフルデイズ-Album version-」)。
《いくつもの季節を二人で過ごして/君の笑い声がとなりで聞こえて/気付けばでっかくたくさんの想い出が/いつでも僕を救ってくれて》《二人が出会ったあの日の夜も/二人で聴いていたアイツの歌も/気付けばでっかくたくさんの想い出が/いつでも僕を救ってくれた》(M7「僕の声-Album version-」)。
まぁ、回顧と言っても、過ぎ去った過去を思い出しているだけでなく、過去の出来事が今も続いているといった内容で、決してネガティブなものではない。この辺が青春パンクと線引きされる所以なのだろう。
《僕らの道 歩いてきた道 凸凹な道 乗り越えていく/夢見た物 掴んできた物 ここから始まる ここから走り出す》(M4「Party」)。
《いろんな人との出会いや別れが/今の僕をここまで勇気づけてきた/背中を押してくれた》(M5「ハッピーライフ」)。
これは好意的に受け取るべきであろう。決して今回の復活劇を見込んで書いたものではなかろうが、全盛期の175Rを聴いていた世代にとってこれらの歌詞は、リスナー自身と175Rとの過去の関係を彷彿とさせることにもなると思う。図らずも、であろうが、そう考えると、これまたドラマチックではある。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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