SPEEDが想像の遥か上を行く
グループであったことをデビュー作
『Starting Over』から思い出す

『Starting Over』('97)/SPEED

『Starting Over』('97)/SPEED

それまでTVの音楽バラエティー番組で準レギュラーとして活躍していた4人組に“SPEED”というグループ名が付けられて正式に結成したのが1996年1月13日。2021年1月13日はSPEED、ジャスト25周年のアニバーサリーである。これを記念して、この日にはこれまでSPEED名義で発売されたすべてのシングル、アルバム楽曲のオリジナルバージョンを完全収録した上に、未発表楽曲、未発表映像も収められたボックスセット『SPEED MUSIC BOX -ALL THE MEMORIES-』が発売される。初回生産限定盤なので、ファンならば躊躇なく手に入れるべきアイテムだろう。当コラムの2021年第一弾も躊躇することなく、SPEEDのデビューアルバムである『Starting Over』で行くのである。

想像を超えたスマッシュヒット

新型コロナウイルス感染症の世界的流行という誰もが想像していなかった事態に陥った2020年。予想だにしないことが起こるのはホントこれっきりにしてほしいと願って止まないところであるが、良い方向へ想像が裏切られるならなんぼあってもいいとは思う。ビジネスマンであれば予想を上回る売上となるならどんどん想像を超えてほしいとは誰しもが思うところではないだろうか。今回、紹介するSPEEDにはこんなエピソードがある。彼女たちのデビュー曲「Body & Soul」は累計で60万枚を売り上げ、いきなりスマッシュヒットとなった。チャートも最高4位と、新人としては上出来も上出来の記録となったが、発売前はそれほど期待されていなかったという。[当時事務所の社長に「30万枚売れれば褒めてやる」と言われたが、それを大幅に上回る大ヒットとなり、社長も驚いていたという]話である。当時、彼女たちはまだ小中学生で、その娘たちに“ミリオン間違いなしだ!”とか言うのもどうかと思うし、その社長にしてみれば発破をかける意味合いでそう言ったのだろう。また、「Body & Soul」は[デビューシングルだけに難産であり、レコーディングは約7回、期間は4月29日からおよそ2ヵ月にも及んだという。加えて6月には「サビの掛け合いが今ひとつ」「まだグルーブ感が足りない」ことから発売日を7月22日から2週間延期し、ようやく発売された]そうで、件の社長の発言はそうした苦労が背景にあったからこそ出たものかもしれない。([]はすべてWikipediaからの引用)

結果として「Body & Soul」は“褒めてやる”と言われた予想ラインを多く上回り、ここから彼女たちの快進撃が始まったわけで、今さらそこを細かく掘り下げても栓なきことではあるのだが、『Starting Over』を聴いてみると、“30万枚売れれば褒めてやる”と当時、事務所の社長が言ったことも、あながち的外れでもないというか、無難な線だったのかも…と少し思ったりもした。やはり最初期のSPEEDは“イロモノ”に近いもの──それを“イロモノ”と形容していいのかどうか分からないけれども、ここでは便宜上そう呼ばせてもらう──だったように思う。当時からそう指摘する音楽評論家もいたし、歌詞にその傾向を見て取れる。

《欲しいものは いつもあふれているから/立ち止まってる 暇はないよね/刺激がもっと欲しい》《痛い事とか恐がらないで/もっと奥まで行こうよ いっしょに…》《Body & Soul 全部脱いじゃえば/Body & Soul 勇気を出して》《Hot な Soul 強気で Go!/平凡な毎日じゃつまんない!/ドキドキするような快感と/Chance を今すぐ Get したい!》《今日も出逢い求めて/街へくり出そう》(M2「Body & Soul」)。

気になる箇所を抜粋してみた。およそ四半世紀も前のこととはいえ、小中学生の女の子たちがこれを歌っていたと思うと、(一応、個人的には…と前置きさせてもらうと)正直言って閉口ではある。この傾向は「Body & Soul」のカップリングである「I Remember」にも、表題曲ほどに派手ではないものの、確実に貫かれている。

《I Remember 忘れられない…/真夏の恋 熱く深く/Remember 体中が覚えてる/あのメロディー…》《Baby Baby あんなに大胆に/Baby Baby 彼にも見せた事ない…/不思議なほど 素直になれた私》(M8「I Remember」)。

「Body & Soul」も「I Remember」も(おそらくは巧妙に)ストレートな物言いは避けてはいるものの、これはセックスソングだろう。それを小中学生のあどけない女の子たちが懸命に踊りながら歌い上げるというのが初期SPEEDのコンセプトであったと想像できる。この作風がデビュー曲だけに留まらなかったことを考えれば、その想像はほぼ的中していると言っていいと思う。2ndシングル「STEADY」では若干、鳴りを潜めた感はあるものの、3rd「Go! Go! Heaven」では再びそのコンセプトが露わになっている。

《成熟した果実のように/あふれ出してく 欲望に正直なだけ/満たされてたい!》《今が旬の毎日だから/他人より多く 生きていたい/味気ない大人にだけは なりたくないから/Break Out! Break Out! Break Out!》《Go Go Heaven どこまでも行こう Hey Yeah!/矛盾だらけの世の中じゃ/良いも悪いも興味がないよね/Go Go Heaven かかえきれない My Soul/何が一番大切か/今はわからないまま 踊り続けてる》(M7「Go! Go! Heaven」)。

そして、アルバム『Starting Over』でも、一部その享楽的な内容は引き継がれ、拍車がかかっているような気がしなくもない。

《ひとときの Happy でいい/消しゴムで 消せる遊びなら…》《One Night Dream 夜が明けたら/クシャクシャに丸めて 捨てよう/RAKUGAKI した 恋の数だけ/ときめいて 傷ついて 大人になっていくのね/いつか必ずいい女になる》(M5「RAKUGAKI」)。

《最近マンネリだよ コウジとは/3ヶ月神話っていうけど/もう ヤバイかもね》《終電も行っちゃったね どうする?/もうちょっと強引でいいんだよ》《HIPなビートに合わせて/たむろしてる Bad Boyz & Girls/Tonight 思いきって/あぁ はじけたいね/ふたりきりで 踊り明かそう!/めぐり合わせね》(M9「Kiwi Love」)。

1980年代前半に女子大生ブームがあって、1980年代中盤にはそこから「セーラー服を脱がさないで」のおニャン子クラブが派生した。芸能界における性の低年齢化は1980年代に一気に加速したと言える。初期SPEEDのコンセプトをそれと地続きであると見るのは流石に穿ったものかもしれないけれど、こうして歌詞だけを抜き出してみると、それを先鋭的とかラジカルと言えば聞こえはいいが、小中学生に歌わせるにはやや度がすぎたものであると言わざるを得ないとは思う。

OKMusic編集部

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