L→R 桑田佳祐、松任谷由実

L→R 桑田佳祐、松任谷由実

【桑田佳祐&松任谷由実
リコメンド】
桑田佳祐とユーミンとの夢のコラボが
2023年に蘇った意味と背景とは?

11月27日よりすでに配信されている桑田佳祐&松任谷由実の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」がCDシングルとして12月20日にリリースされた。37年前に披露されて以来、ここまで音源化されてこなかった形で新たにレコーディング。日本のトップアーティストふたりから全音楽ファンへの素敵なクリスマスプレゼントである。

桑田佳祐が稀代の音楽家であることを
再確認できるメロディー

 作詞:松任谷由実、作曲:桑田佳祐による楽曲「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」が初めて発表されたのは1986年。その年の12月24日に放送された音楽番組『メリー・クリスマス・ショー』のエンディングで披露された。『メリー・クリスマス・ショー』とは、桑田佳祐が中心となり、テレビでほとんど観られないミュージシャンが一堂に会して放送されたクリスマス限定の特別番組だった。KUWATA BAND、吉川晃司、松任谷由実(以下、ユーミン)はもちろんのこと、ARB、鮎川 誠らがスタジオ出演した他、VTRで忌野清志郎、THE ALFEE、BOØWY、SUE CREAM SUE、山下洋輔らも出演した。10-FEETやMAN WITH A MISSIONが『NHK紅白歌合戦』に出場することになった2023年からすれば、そのすごさは分かりづらいかもしれないが、非歌謡曲だけの音楽番組が所謂ゴールデンタイムで放送されるのは、当時としては極めて稀なことであった。『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』で演歌や歌謡曲に交じってポップス、ロック勢が出演することはあっても、筆者の体感としては、せいぜい2、3組で、それらが半数を占めることはなかったと思う。そんな中で、トップアーティストたちが共演し、1986年、87年の2年にわたり、桑田、ユーミンの楽曲に加えて、The Beatles、The Rolling Stones、T. Rexらのロックナンバーも披露されたのだから、『メリー・クリスマス・ショー』は稀というよりも異例の音楽番組だったと言える。そう考えると、「Kissin’ Christmas(クリスマスだからじゃない)」は特別番組を彩るためのスペシャルコラボというだけでなく、1980年代における非歌謡曲=ロック、ポップスのアンセムだったという見方ができるかもしれない。

 『メリー・クリスマス・ショー』から37年。2022 年にデビュー50 周年を迎えたユーミンからのコラボレーションの提案に、桑田佳祐がアニバーサリーのお祝いとして応えたのが、今回の桑田佳祐&松任谷由実名義での「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」のはじまりである。注目ポイントは多々あれど、この楽曲、サビがいい! 何と言っても、まずそこを推したい。妙に安心感を覚える旋律である。ここまで音源化されてこなかったにもかかわらず(註:2012年リリースの桑田佳祐のベストアルバム『I LOVE YOU -now & forever-』には、桑田だけで歌ったバージョンが収録されている)、この37年間、毎年クリスマスの時期に聴いてきたような錯覚すらある。同曲が発表された時、桑田佳祐は30歳。未だ若手と呼ばれておかしくない年齢ながら、のちにスタンダードとなり得る楽曲を多々書いていたことを考えると、氏が稀代の音楽家であることを再確認できるメロディーである。

 個人的に今回、興味深く聴いたのはAメロ。桑田、ユーミンの楽曲と若干趣が異なるように思える。具体的に言えば、ユーミンはややキー高く、桑田はややキーが低い。ともにほんのわずかだが、そんな印象がある。これは想像でしかないが、桑田は自分自身もユーミンも得意とするところのキーの中間を選んでいたのではないだろうか。逆に言えば、どちらにも寄らない高さということになる。作曲は桑田だが、桑田の曲でもなければユーミンの曲でもない。中庸のキーとメロディー。だから、名義が“桑田佳祐 feat. 松任谷由実”ではなく、“桑田佳祐&松任谷由実”となっているような気がする。

 どちらにも寄らないAメロから始まることで、のちに桑田、ユーミンそれぞれが得意とするキー、メロディーが出てくる時に、聴き手としては“待ってました!”とばかりのカタルシスを得ることになる。構造上も素晴らしい楽曲である。制作にあたっては“今、この世界に必要なのは、争い傷つけ合うことではなく、互いに歩み寄り、穏やかに対話すること”という想いがあったという。この楽曲には間違いなく“歩み寄り”があると思う。
L→R 桑田佳祐、松任谷由実
シングル「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」

OKMusic編集部

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