鮎川 誠も参加したYMOの
『SOLID STATE SURVIVOR』は、
デジタルの革新性を
ポップに伝えた音楽のイノベーション

単調に聴かせないリズム隊の工夫

オープニングが「TECHNOPOLIS」というのもいい。個人的にはこれが大正解だったと思うし、ど頭のボコーダーを使った《TOKIO》で勝利確定であったように思う。40年以上経った今となっては、若いリスナーは“その何がすごいの?”と思われるだろうが、当時ほとんどの日本人は(もしかすると、世界中のほとんどの人は…かもしれないが)コンピュータによって処理された音声が大衆音楽に乗ったものを聴いたのはこれが初めてだったと言っていい。そう言うと、それ以前に欧米のバンドが使っていたと指摘されるかもしれないが、Electric Light Orchestraにしても、KRAFTWERKやDevoにしても、日本においてメジャーな存在だったとは言い難いだろう。コンピュータを通した声など、その辺のおっちゃんや小学生がテレビやラジオで頻繁に耳にするようなものではなかった。おそらくSF映画の中だけで聴けるものだっただろう。そんな状況の中、いきなり《TOKIO》である。多くのリスナーは“面白い”と感じる以前に、かつてない音楽体験に驚いたのだと思う。

その《TOKIO》の連呼(?)の背後には、これもほどんどの人には新鮮だったシンセのピコピコとした音が鳴っている。しかも…だ。そこから5つのポップなメロディーが8小節ずつ(ひとつ目はメロディーというよりもコード弾き、ブリッジのような5つ目は4小節)連なっていく。いずれも音符の数は少なく、4小節ずつの(ほぼ)リフレイン×2で8小節という作りなので、複雑さはなく、数回聴けば頭に残る代物だ。ベースラインも、生真面目に…というべきか、主旋律に合わせて4小節のパターン×2を繰り返し、ここぞというところでスラップを入れてくる。ドラムは完全に生真面目な8ビートではあるが、ずっと4つ打ちで進むと思わせつつ、後半(あそこがいわゆるサビだろうか)ではバスドラムが変化し、楽曲全体に躍動感を与えているように感じる。躍動感はグルーブと置き換えてもいい。言うまでもなく、楽曲の“ノリ”にリズム隊は重要だ。コンピュータミュージックはその正確さゆえに“ノリ”に乏しい…というか、“ノリ”がないとも言われたことがある。しかしながら、YMO楽曲を聴いてグルーブを感じるのは、件のベースのスラップやドラムパターンの変化など、リズム隊の工夫が寄与していると思われる。まぁ、実際にはYMOの楽曲演奏は手弾きが多かったそうで、リズムなどは言うほどコンピュータに頼ってなかったらしいので、当然グルーブも出ているのだろうけど、リズム隊の工夫についてはここで念押ししておきたいところである。

続くM2「ABSOLUTE EGO DANCE」は、シンセサイザーで構築された沖縄風味のダンスチューン。喜納昌吉と喜納チャンプルーズの「ハイサイおじさん」がヒットしたのが1972年なので、1970年代後半ともなると、巷でも沖縄音楽への親しみは増していたことだろうが、それにしてもプチプチとしたサウンドとオキナワンリズムの組み合わせは相当に新鮮だったに違いない。伝統的な沖縄民謡の調子だけでなく、楽曲が進むに従って、ダンスビートがグイグイとドライブしていくところも大注目で、享楽的なノリがスリリングに展開して様子は今聴いても興奮する。

M3「RYDEEN」については、個人的にドラマーが原曲を手掛けた楽曲らしさを感じる。サビのメロディーがとにかくキャッチーで、いわゆるA、Bもあるにはあるけれども、基本的にはサビの繰り返しで成り立っていると言っていい。間奏以降の後半を聴けば、はっきりと分かる。ある意味、メロディーが多彩なM1とは対極にあると言えるナンバーなのである。同じメロディーの繰り返しが多いにもかかわらず、飽きずに聴けるのはなぜか…と言えば、これはアレンジの妙味があってのことに他ならない。ドラムのフィルインと、主旋律のバックで鳴っている細かなシンセサウンド。これらが楽曲に推進力を与えているのだと思う。シャープな8ビートがきびきびと響くだけでなく、8小節目の終わりにドラムのフィルイン──俗に言う“おかず” が入れられていて、それがやや早め、気持ち喰い気味に叩かれるので、聴いていいて次の8小節を自然と期待させる向きがある。しかも、“おかず”は毎回パターンが違っていて、楽曲の流れ、展開を印象付けてもいるし、演者のエモーションを感じさせるところでもある。

ちなみにM3以外でもフィルインは重要であって、話は前後するけれど、M1ではメロディーが変化するきっかけのようにスネアが刻まれる箇所も聴きどころではある。話をM3に戻せば、主旋律の背後のメロディーとサウンドは、これもまた間奏以降の後半が顕著であるのだが、前半とは異なるピッコロ風の音が入っていたり、ビートレスになったりと、同じメロディーの繰り返しでも印象が異なったものが連なっていくので、飽きないばかりか、こちらの高揚感を増幅させていくような効果があるように感じる。大衆音楽にしっかりと向き合った上での編曲であったように勝手に思うところである。

M4「CASTALIA」のピアノの旋律は今となれば実に坂本龍一らしい。M1からM3までがカラフルで、いずれもアッパーだっただけに、クールダウンも必要だったということで理解している。重くも思えるが、広がり、奥行きも感じさせ、アルバム全体のポップさを強調する上でも重要なナンバーではあろう。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着