1986オメガトライブの
『Navigator』から考察する
カルロス・トシキの
魅力とポップミュージック
カルロスの声と歌詞との相性
それはそれとして、歌詞で描かれているストーリーが、一部を除いて、主に主人公がお相手に翻弄される内容であるというのは注目ポイントだろう。
《But you belong to him 打ち消しながら/渚とばした 夏の日々/How can I say I love you かすかな予感/伏せたまつ毛に 煌めいた》《海を見つめて 戻れないと/君はつぶやいた》(M2「You Belong to Him」)。
《海へ続いてく ハイウェイを見下ろして/君はごめんねと/ひとことだけつぶやいた》《白いクーペから 差し出した左手に/握ってた指環/アスファルトに音たてた》(M3「Aquarium in Tears」)。
《Can I write our love story/いつも君は愛の Navigator/僕の心 静めてほしいのに/I do I believe I love you/二人でいる夜を Navigation/僕の願い その唇だけで 答えほしい》(M4「Navigator」)。
《黄昏の街角 君にダイアルする/返事はテープの声 むなしくもどかしい》《一人でいられない 僕は君を探す/いつか教えてくれた 秘密の19 century bar》《年上の人だけど せつない瞳で僕を見る/言葉を選ぶ度 はにかんですねてる》(M8「Older Girl」)。
どうしてこういう内容になったのかと言えば、これはもうカルロスの歌声、そのキャラクター性によるものだと──これは邪推ではなく、確信するところである。甘いけれど、可愛らしく、聴く人の心をくすぐる美声は、どこか寄る辺なさも秘めている。誤解を恐れずに言えば、少しばかりの不憫さがある。それがこうした歌詞と相性が抜群にいい。この辺はカルロスがどうとか、1986オメガトライブのメンバーがどうとかいう以前に、オメガトライブのプロデューサーである藤田浩一氏の意向、あるいはそれを汲んだ作家陣のイメージから来たものだろう。ちなみにM4、M8は藤田氏の作詞である(M8はカルロスとの共作)。そう考えると──筆者の邪推込みではあるが──1986オメガトライブとは、首尾一貫、とても丁寧に作られたプロダクトであったことも分かる。そう言うと揶揄しているように聞こえるかもしれないが、これは誉め言葉。米国の優れたエンターテインメントがそうであるように、音楽に限らず、ポップな作品というのは、ひと握りの人物の思考だけによって作られるものではないと思う。
TEXT:帆苅智之