吉川晃司のソロ復帰への
意気込みを感じざるを得ない
アツきセルフプロデュース作品
『LUNATIC LION』

吉川、初のセルフプロデュース作

加えて、『LUNATIC LION』は吉川初のセルフプロデュース作である。これも熱さを助長する。吉川晃司の履歴は大きく3つに分けられる。渡辺プロダクションからデビューし、事務所を独立するまでの期間(1984~1988年)。COMPLEX期(1988~1990年)。そして、1990年から現在に至るまでの期間である。事務所やレコード会社の変遷からすると、もう少し細かく分けられるだろうが、一ミュージシャンとして…と考えると、こういうことでよかろう。最初期の渡辺プロ時代をアイドル期と見る向きもあるとは思うが、それは微妙に違うと思う。シングル「モニカ」と主演映画『すかんぴんウォーク』でのデビューではあったので、確かに当初はアイドル≒芸能人の側面は強かっただろう。

だが、3rdアルバム『INNOCENT SKY』(1985年)では「Gimme One Good Night」で吉川自身が歌詞を手掛けていたし、6thシングル「RAIN-DANCEがきこえる」(1985年)のC/W「I'm So Crazy」では作曲もしている。また、4th『MODERN TIME』(1986年)は収録曲10曲中、吉川による作詞が3曲、作曲が4曲であったし、シングルカットされた8th「MODERN TIME」は吉川晃司作詞作曲のナンバーであった。つまり、最初期こそ、大手芸能プロダクション所属ということもあって主演映画もあり、それこそバラエティー番組などにも出ることもあったが、いわゆるお飾り的な存在としてのアイドルなどではなかった。音楽を自作自演するシンガーソングライターであったことは疑いようはなかろう。6th『GLAMOROUS JUMP』(1987年)は全10曲の収録曲中、8曲が吉川の作詞作曲で、残り1曲はのちにCOMPLEXを結成する布袋寅泰との共作曲で、もう1曲は忌野清志郎からの提供曲であった。早くからアーティストであったのだ。

しかしながら、自作のプロデュース──楽曲制作だけでなく、作品における全ての権限を有するまでには、そこからもう少し時間がかかった。COMPLEXにおいても作詞の多くは吉川が手掛け(1stアルバムは全て吉川の作詞)、何曲か作曲もしているものの、プロデューサーには布袋の名前がクレジットされている。この辺は収録曲のアレンジは布袋が行なっていたことと関係しているのかもしれないが、いずれにしても、COMPLEXまでの吉川晃司はプロデューサーではなかった。何もそのことを揶揄しようとは思わない。自作自演ミュージシャンが必ずしも自作を全てハンドリングしなければならない法はない。ベテランでもプロデューサーを立てるケースはいくらでもある。そう考えると、『LUNATIC LION』とて、自身でプロデュースする必要はなかったとも言える。[本作はベーシストの後藤次利が全面協力した上での吉川初のセルフプロデュース作品となった]ということだから、後藤次利にプロデュースを依頼するという案もあっただろう。後藤次利というと、とんねるずやおニャン子クラブ関連の作品を思い描く人が多いとも思うが、1973年には[小坂忠とフォージョーハーフやよしだたくろうのセッションバンド新六文銭に参加。その後、トランザムやティン・パン・アレーのセッションにも参加]。さらには[高橋幸宏に誘われサディスティック・ミカ・バンドの「HOT! MENU」のレコーディングに参加。(中略)サディスティック・ミカ・バンド解散後は高橋幸宏、高中正義、今井裕とサディスティックスを結成し活動、ソロになって初期の矢沢永吉をNOBODYの相沢行夫らとバックでサポート]という経歴の持ち主である。吉川作品では、3rd『INNOCENT SKY』(1985年)、4th『MODERN TIME』(1986年)で全楽曲のアレンジを手掛け、『A-LA-BA・LA-M-BA』(1987年)でも全11曲中4曲を後藤がアレンジしているのだから、むしろ、ソロ復帰作第一弾は後藤次利プロデュースのほうがスムーズに事は運んだかもしれない。しかし、そうではなく、吉川晃司は自身でプロデュースにこだわったわけで、ここからもCOMPLEXの活動休止後のソロ復帰作に対する並々ならぬ想いは汲み取れる。心機一転、ソロで活動するには、それまで以上にあらゆることを自分自身で背負わなければならない。彼がホントにそう思っていたかどうかはともかく、そんな風に吉川晃司の歴史を振り返ってみると、勢い熱くなってしまうことを止められないのだ。(ここまでの[]は全てWikipediaからの引用)。

OKMusic編集部

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