TM NETWORKが
小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の
三位一体であることがよく分かる
『Self Control』

欠かせない木根尚登の存在感

シンプルなメロディーのリフレインという構造でありながらも、アンサンブル、アレンジの妙で、リスナーを飽きさせない工夫というか、リスナーをアゲる仕掛けが施されているのは、これもまたM4に限ったことではなく、当然の如く、他曲もそうだ。アルバム前半──最初に『Self Control』が発表された時はまだアナログ盤もCDと同時発売されており、LPで言えばA面は、このキャッチーなメロディーのリフレインを骨子とした曲が並んでいる。アルバムとしては景気が良い。この時期のTMは自らの音楽を“FUNKS”と言っていたそうだ(現在はTMファンの名称として使用されているそうな…)。“FUNKS”は[FUNK+PUNK+FANSを語源としている造語]ということだが、ダンスミュージックとロックの融合ということでは、確かに言い得て妙だとも思う([]はWikipediaからの引用)。独自の音楽性を発揮していることは端的に言い表している。

ただ、そうしたリフレインが後半=B面でもそのまま続いていくかと言うと、そうではないところが本作の優秀さであろう。単なるダンスミュージックだけにカテゴライズされないTMの矜持みたいなものも受け取れる。具体的に述べるなら、コンポーザーとしての木根尚登の存在感に尽きると思う。M7「Time Passed Me By (夜の芝生)」と、M9「Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)」である。小室楽曲が再三言っているように、音域も狭い音符を数多く使わずにキャッチーなメロディーを創り出し、それをリピートすることだが、上記木根楽曲はそうではない。歌の主旋律に流れるようなメロディーアスがあると言っていい。“これはもうミドル~スローのバラードナンバーにするしかないでしょう!”と言わんばかりのメロディーラインを持っている。いずれの楽曲もサビでハーモニーを重ねることで、主旋律を立体的に聴かせているところも聴き逃せない。メロディーのレンジも広い。M9では、宇都宮はファルセットを聴かせている。この辺は小室楽曲では見られないところだ。

小室楽曲が先鋭的なのに対して、木根楽曲はスタンダードと言うこともできるだろうか。ロックやソウルへのオマージュも感じさせる。M7ではサイケなサウンドも聴こえてくるし、M9のタイトル(加えていうと、小室楽曲だがM3「Don’t Let Me Cry (一千一秒物語)」も同様)からはThe Beatlesへのリスペクトも垣間見えるところである。その辺の意識がどれほどメンバーにあったか分からないけれど、小室楽曲に木根楽曲が混ざることによって、アルバム自体がバラエティー豊かになり、バンドとしての奥深さを感じさせているのは間違いなかろう。小室哲哉が稀代のミュージシャンであることは疑うまでもないけれど、そこに木根尚登が加わってバンドの彩りを増し、歌を宇都宮隆が一手に引き受けることで、バラエティな中にも一本太い芯を通す。本作『Self Control』は、ザっと聴いただけでも、ロックバンド、TMの特徴をしっかりと示しているアルバムであることがよく分かる。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Self Control』1987年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Bang The Gong (Fanks Bang The Gongのテーマ)
    • 2.Maria Club (百億の夜とクレオパトラの孤独)
    • 3.Don't Let Me Cry (一千一秒物語)
    • 4.Self Control (方舟に曳かれて)
    • 5.All-Right All-Night (No Tears No Blood)
    • 6.Fighting (君のファイティング)
    • 7.Time Passed Me By (夜の芝生)
    • 8.Spanish Blue (遙か君を離れて)
    • 9.Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)
    • 10.Here, There & Everywhere (冬の神話)
『Self Control』('87)/TM NETWORK

OKMusic編集部

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