菊池桃子のデビューアルバム
『OCEAN SIDE』は、
林 哲司のプロデュースによる
シティポップの傑作

秀逸なジャケットにも注目

『OCEAN SIDE』の歌詞の3分の2は秋元 康によるものだ。秋元氏はこの時期、小泉今日子の「なんてったってアイドル」やとんねるずの楽曲、さらにはおニャン子クラブの一連のナンバーを手掛けていた頃で(正確に言うと、それらが1985年なので、『OCEAN SIDE』はその1年前)、多作で多彩な秋元氏ならではの仕事っぷりが垣間見える。とりわけ、AORに寄せた感じというか、1980年代っぽさがかなり際立っていて面白い。AKBグループや坂道シリーズの作品でも流行の言葉をさらりと入れ込んでくるのが秋元流と言っていいと思うが、その原型と言っても過言ではないかもしれない。

《Friday night 白いBMW止めて/Free way 見つめ合った二人》《右の窓を開ければ/海が近く聞こえて/あなたのシガレット/灰が落ちる》(M3「BLIND CURVE))。

《コテージの窓から広がる/コバルトのリーフが光れば》(M4「SUMMER EYES」)。

《一人だけ ウエットスーツのあなた/少し無口になって 海の中消える》(M5「FUTARI NO NIGHT DIVE」)。

《カブリオのワーゲンが通りすぎて》《L.A.みたいリズムが聞こえるわ》《FEN流してるカフェテラスで/ペリエを飲みながら》(M7「EVENING BREAK」)。

こうして並べるとバブル期の映像をダイジェストを見ているようで何とも味わい深い。今となっては突っ込みどころもなくはないが、時代を象徴する史料と言うべきだろう。

最後に、これは菊池桃子ファンにとっては説明するまでもないだろうが、ジャケットが優れている点を推しておきたい。この時期はまだ、アイドル歌手のジャケット写真と言えば、男女問わず、その歌手のアップの写真がほとんどだった頃。菊池桃子とてシングルではほとんどが顔のアップで、「BOYのテーマ」(1985年)と「Broken Sunset」(1986年)は顔小さめだが、それでもそれが菊池桃子と分かる代物だ。だが、アルバム『OCEAN SIDE』では水着で海面に横たわる彼女の姿。ファンならばそれが菊池桃子だと分かるだろうが、そうでもない人はよく見ても誰か分からないかもしれない。そのくらい構図でありサイズだ。ある意味で大胆と言っていい。このジャケットは当時、相当のインパクトを与えたものだ。この傾向は、2nd『TROPIC of CAPRICORN』(1985年)、3rd『ADVENTURE』(1986年)と続いていく(4th『ESCAPE FROM DIMENSION』ははっきりと顔が見えるので、微妙に違うと思う)。制作スタッフには“大学生が持っていてもおかしくないアルバムを作ろう”という命題があったという。当時はまだアナログ盤の時代。このジャケットならばパッと見にはアイドル作品とは思われないことを意図したのだろう。その目論みは成功したと言えるし、昨今のシティポップのブームにおいて、菊池桃子作品が再評価されていることとも、まったく無縁ではなかろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『OCEAN SIDE』1984年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.OCEAN SIDE
    • 2.SHADOW SURFER
    • 3.BLIND CURVE
    • 4.SUMMER EYES
    • 5.FUTARI NO NIGHT DIVE
    • 6.青春のいじわる
    • 7.EVENING BREAK
    • 8.SO MANY DREAMS
    • 9.I WILL
『OCEAN SIDE』('84)/菊池桃子

OKMusic編集部

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