『センチメンタル・
シティ・ロマンス』の
サウンドから
付き付けられる貫禄と奥深さ

絶妙なバンドアンサンブルの数々

M2「うん,と僕は」はファンクと言ってよかろう。そうは言っても、頭からギター、キーボード、ベースも派手な動きは見せず、お互いがお互いの隙間を埋めるようなプレイを見せるのが何ともいい。抑制の効いたアンサンブルだ。しかし、アウトロではそれが一転。各パートの応酬という表現でいいだろうか。冒頭の比較的落ち着いたアンサンブルから解き放たれたようなワイルドな演奏が飛び出す。ギターソロにベースとドラムが突っ掛っていき、それに応えてギターがまた派手に鳴らされる。さながらボクシングで言うところのクロスカウンターのようだ…とは言い過ぎだと思うが、分かる人には分かってもらえるような気がする。そうした派手な動きの背後でサイドギターとキーボードは持ち場を堅持するように自らのフレーズを生真面目にキープ。その支えが合ってこそ派手な応酬が可能になるのだ。そうかと思えば、

続くM3「あの娘の窓灯り」、M4「庄内慕情」は、リズム隊は配されているものの、アコギ基調のミッドチューンとなる(M3はアコギ強め、M4はアコギ弱め)。アコギ基調でも、フォーキーなナンバーと片付けられないのは、ブルージーに鳴らされるエレキギターの存在感があるからに他ならない。ともに終始、登場するわけではないが、歌を追いかけるかたちで入ってくるエレキギターは、やはり米国の匂いがあるし、ロックバンドのそれである。加えて言うと、A面ラストのM5「籠時」はリズムレスで(トライアングルは入っているが…)アコギのアンサンブルと歌で聴かせるナンバーで、それこそフォークと括ってもいいようなスタイルだが、まったくそう思えないのは、M3、M4からの流れがあるからと睨んだし、何よりもそこにロックのスピリットが感じられるからだと思う。

B面1曲目は伸びやかでポップなM6「暖時」で始まる。バンドサウンドが軽快だ。相変わらず、ツインギターの絡み、やや喰い気味のドライブ感を見せるリズム隊はもちろんいいが、ここではキーボードに注目してみた。その後にギターが追いかけるイントロのフレーズ。Bメロで鳴らされる和音。間奏ではキーボードが2台重ねられている。さらに言えば、その間奏を挟んでからは、歌の背後でサイドギターばりに細かいフレーズが鳴らされ、ドラムレスになるアウトロではベースと共にやや幻想的と思える世界観を構築している。M6のサウンドの主役は鍵盤と言ってもいいと思う。センチのサウンドは(例えばギターが中心とか)どれかひとつのパートがけん引しているのではなく、楽曲に応じて誰もがメインを張れるものなのだ。楽曲優先という言い方でもいいだろうか。それがよく分かるM6でもある。

そして、だからこそ、続くM7「恋の季節Part1」のようにストリングスを入れることも可能なのだろう。A面で聴かせたように、バンドサウンドでメロウなナンバーの構築が出来ないバンドではない。前半がそうであるように、M7も楽器とハーモニーだけでも十分にイケると思う。だが、そこに外部から弦楽器を入れることで、楽曲の世界観の幅広がる。文字通り、“恋の季節”の空気を醸成させていくような意図もあったのだろう。歌詞にある《紅茶をすする》ような優雅さもあるし、恋愛におけるちょっとしたスリリングさも感じられる。必然性があって、絶妙な案配で外音が配されているのであるのは、おそらく間違いない。

OKMusic編集部

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