【ライヴアルバム傑作選 Vol.5】
THE STREET SLIDERSという
ロックバンドの魅力を収めた
『THE LIVE!
〜HEAVEN AND HELL〜』
存在感あるリズム隊が支える屋台骨
ここまで市川“JAMES”洋二(Ba)(以下JAMES)に触れてこなかったけれど、無論、このベーシストあってのスライダーズである。それも本作で確認できるところだ。JAMESのベースプレイは縦横無尽という言い方でいいだろうか。ある曲ではベースらしく持ち場を堅持し、ある楽曲ではギターと双璧を成すようなプレイでアンサンブルを聴かせる。スラップのような派手な動きはないけれど、テクニカルで器用なプレイヤーという見方ができるとは思う。ベースラインが楽曲の背骨となっている楽曲はM2、M6、M8辺りだろうか。テンポの違いこそあれ、いずれもシンプルではあるものの、丁寧なルート弾きで、その上を歌とギターがフリーキーに鳴らされる。ややポップな印象ではあるM4「天国列車」もそれらと構造は同じだろう。M4は蘭丸がメインヴォーカルであるゆえにギターリフが若干おとなしめで、おそらくそれを補うようなかたちでベースが少しポップになっているのだろう。この辺でもJAMESの器用なところが垣間見えるのではなかろうか。ベースとギターとのアンサンブルの面白さが分かるのはM5だろう。ベースラインと蘭丸のギターのフレーズが、完全なユニゾンではないけれど、ほぼ同じリズムを刻んでいる箇所が随所随所で見られる。そのフレーズのループで成り立っている楽曲ではあって、その絡み具合がドラムと相俟ってグルーブを生み出しているとは言える。まさにスライダーズならではのバンドアンサンブルだろう。歌×ギター、ギター×ギターだけではなく、リズム隊も折り重なってバンドサウンドが生み出されていることがよく分かる。また、M5で言えば、サビに向かうところで高音に上がっていくベースラインも聴き逃せない。比較的歌の抑揚が薄いナンバーに高揚感を与え盛り上げている。こういうところでもJAMESのプレイヤーとしての確かな手腕がよく分かる。
ザっとメンバーそれぞれの特徴をフィーチャーしながら『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』を振り返ってみた。冒頭でスライダーズは今の若いリスナーにはピンとこないだろうと書いたが、ロックに興味がないという人はともかく、バンド好きを自称する人でスライダーズ未体験の人はぜひ一度本作を聴いてみたらいいと思う。ここまで述べたように、4人のメンバーの個性が絡み合いながら(しかもライヴで)サウンドを作り上げている様子は触れておいて損はなかろう。
また、本作はベスト盤としてもとらえることができる。リリースされた1987年3月時点でスライダーズは、1stアルバム『SLIDER JOINT』(1983年)、2nd『がんじがらめ』(1983年)、3rd『JAG OUT』(1984年)、4th『夢遊病』(1985年)、5th『天使たち』(1986年)の5枚のオリジナルアルバムを発表していたのだが、本作はご丁寧なことにそれぞれのアルバムから2曲ずつチョイスしている。さらに言えば、先日の日本武道館での再集結においても本作収録曲は5曲も披露されているのだから、彼らのライヴの中心を成す楽曲であることは間違いないだろう。スライダーズ入門編としても最適な『THE LIVE! 〜HEAVEN AND HELL〜』である。
TEXT:帆苅智之