【ライヴアルバム傑作選 Vol.5】
THE STREET SLIDERSという
ロックバンドの魅力を収めた
『THE LIVE!
〜HEAVEN AND HELL〜』

HARRYの歌声と蘭丸の巧みなギター

まず、村越“HARRY”弘明(Vo&Gu)(以下、HARRY)について。他のメンバーの演奏も誰ひとり替えが効かないものであるが、その中でもこの人の声は格別だろう。まさに唯一無二である。その意味で、本作のオープニングがサビ頭のM1「TOKYO JUNK」であることは正しいし、しかもHARRYの“ハロー!”から入るのもまったくもって正解である(余談だが、同様の理由で1stアルバム『SLIDER JOINT』のM1「Blow The Night!」がサビ頭なのも正しいし、これが1stシングルであったことも正しい判断であっただろう)。洋楽のレジェンドたちのような“これぞ、ロック!”というべき、しゃがれ声。それが気怠い印象のメロディー&歌詞世界と見事にマッチしている。気怠いとは言っても、そもそもスライダーズの歌はキャッチーなものが多く、どっぷりと暗いわけでも難解でもない。明るい…と言い切ると若干語弊があるけれど、本作収録曲で言えば、M7「Boys Jump The Midnight」やM9「So Heavy」、M10「Blow The Night!」など、ポップと言っていいナンバーもある。だが、それらを単にポップなだけに終わらせていないのはHARRYの歌声が独自のニュアンスを加えているからに他ならない。ルーズでスライダーズらしさ全開のM2「カメレオン」、M3「あんたがいないよる」、M5「Dancin' Doll」、そしてM8「Angel Duster」は言うに及ばないだろう。とりわけ名曲M8の艶めかしいまでの旋律はHARRYの歌声があってこそ成立するものだと確信する。痺れるテイクである。

歌詞に関しては、今回本作を聴いて個人的には“ロックらしい言い回しが多いな”と感じたところではある。“ロックらしい言い回し”とはロックの様式美と言い換えてもいいかもしれない。特にM7にそれが多い印象で、ザっと挙げると、《真夜中のシャッター》《くたびれたブーツ》《退屈につつまれた夜》《ねむれない街》《なけなしの スリル》《夢にとり残された夜》といった具合である。別にその作風を揶揄しているわけではないが、揶揄していると思われたらそれはそれで構わない。たぶん最近はこういう言い回し、このような作風が少なくなっていると思う。最近どころか2000年以降かなり減ってきている気がする(それこそスライダーズ解散したことと関係しているのではないかとすら思うほどだ)。このタイプのロック的歌詞は、テキトーな声には合わない。軽薄な歌声では世界観に深みが出ず、上滑りしてしまう。もっと言えば、実際にロック的な人生を送ってきた人物ではないと説得力がまるでなくなるタイプの歌詞ではないかと思う。スライダーズ楽曲の歌詞は、HARRYの歌声で歌うべき内容であり、HARRYの歌声でしか歌えない内容なのである。

土屋“蘭丸”公平(Gu&Vo)(以下蘭丸)のギタープレイも鉄壁だ。こちらも彼ならではのフィーリング──誤解を恐れずに言えば、昔からブルージーなニュアンスを持った上手いギタリストであるとは思っていたけれど、本作を聴いて、その巧みなプレイに思わず唸った。全曲どれもこれも素晴らしいテイクで、M3「あんたがいないよる」やM6「Let's go down the street」、もちろんM8「Angel Duster」もいいけれど、強いて1曲挙げるとすると、個人的にはM5「Dancin' Doll」を推したい。まず終始楽曲を引っ張るギターリフがいい。歌のニュアンス、世界観を受け継ぎつつも、それともまた少し異なる独自のフレーズを聴かせてくれる。躍動感がありながら、それでいて開放的すぎない。絶妙なところを鳴らしている。サビに入ってからの歌との絡み合いもまた絶妙だ。間奏でのギターソロも短いながら実に味わい深い。強弱の付け方も独特で柔らかさを感じるプレイだ。温かみを感じると言ってもいいかもしれない。また、これもスライダーズの特徴のひとつと言える、HARRYの弾くギターとのアンサンブルもいい。それぞれのキャラの違いが分かりやすく出ていると思う。蘭丸のリフとサイドギターらしいHARRYのストロークの絡みもいいが、お互いがソロを弾くアウトロが聴きどころだろう。先ほど述べた通り、柔らかく温かみを感じる蘭丸の一方で、鋭角的に迫るHARRY。ツインギターバンドの面白さがはっきりと示されている。

OKMusic編集部

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