1stアルバム『熱い胸さわぎ』の
バラエティー豊かなサウンドに
新人・サザンオールスターズの
比類なき才能を見る
デビュー曲
「勝手にシンドバッド」の衝撃
ディスコティックなリズムに、印象的すぎる♪ラララ…ラララ…のイントロ。パッと聴き意味不明だが、幼児でも覚えられるほどキャッチーなサビの《今 何時?》のリフレイン。1978年と言うと、世良公則&ツイスト、Char、原田真二が“ロック御三家”と呼ばれてすでに人気を博していたし(『ザ・ベストテン』の1978年年間ベスト1は世良公則&ツイストの「銃爪」だった)、この頃の沢田研二は井上堯之バンドを帯同していたので、バンドやロックはポピュラーになりつつあった頃だったはずだが、あの時の「勝手にシンドバッド」には、そこまで誰も聴いたことがなかった未知の音楽が、半ば強引にお茶の間に分け入っていくような感じが圧倒的にあった。
当時まだ中学校に上がったばかりの筆者には “これで時代が変わる!”というような具体的な感慨はなかったけれども、高揚感を抑え切れなかったことはわりと鮮明に覚えている。一緒にテレビを見ていた演歌好きのウチの母親は「○○○○の歌か!?」と唾棄していたし、昭和初期以前の世代にはまったく理解できないものだったのかもしれない。聞けば、当時、評論家がサザンを批判的に語ることをテーマにしたテレビ番組もあったというから、少なくとも、この時点ではのちに彼らが“国民的バンド”と呼ばれることになると思うような人は限りなくゼロに近かったと思う。
しかし──だからこそ…だったのかもしれないが──ある世代以下の音楽好きは、その音楽性を完全に理解できないまでも、サザンから発せられる未体験の音楽体験に酔った。『ザ・ベストテン』初出演時に桑田は自分たちを“目立ちたがり屋の芸人”と言ったが、サザンは決してコミックバンドなどではないことを多くのリスナーはどこか本能的に感じていたのだと思う。