1stアルバム『熱い胸さわぎ』の
バラエティー豊かなサウンドに
新人・サザンオールスターズの
比類なき才能を見る
バラエティーに富んだ高次元なアルバム
ボサノバタッチのM2「別れ話は最後に」。シングル「勝手にシンドバッド」のカップリング曲M3「当って砕けろ」はモータウン風。M4「恋はお熱く」はロッカバラード調でドゥワップ的なコーラスも入る。桑田と原のデュエット曲M5「茅ヶ崎に背を向けて」。ブルージーなM6「瞳の中にレインボウ」。今もサザン最大の問題作のひとつと言われるM7「女呼んでブギ」は、確かにこの御時世では物議を醸す可能性は否めないが、「Les Champs-Élysées」を彷彿させる可愛らしい音階が憎めない──それどころかどこか愛おしく感じられるナンバーだ。文字通りレゲエを取り入れたM8「レゲエに首ったけ」。そして、M9「いとしのフィート」は桑田がその影響を公言するバンド、Little Featへのオマージュを隠すことなく披露したR&B。これもまたブルーステイストがあるものの、昭和歌謡の香りを如何なく感じさせるM10「今宵あなたに」。ザッと簡単に解説しただけでも、十二分にバラエティー豊かな作品であることが分かる。
繰り返しになるが、それでいて洒落臭くもスノッブでもない、とても親しみやすいメロディーを持っているところが多くのリスナーを惹き付けたのだろうし、それがサザンの本質とも言える。そのメロディの親しみやすさは、歌に限った話ではなく、鍵盤やギター、ブラスもそうである。ギターはM2「別れ話は最後に」やM8「レゲエに首ったけ」の間奏でのソロも特徴的だが、白眉はM5「茅ヶ崎に背を向けて」のアウトロだろうか。若干長尺な印象は拭えないものの、“フュージョンバンドか!?”と思わせる流麗な旋律は本作の聴きどころのひとつではあろう。ホーンセクションは、M1「勝手にシンドバッド」やM3「当って砕けろ」、M7「女呼んでブギ」などで分かる通り、歌メロを損ねることなく、それでいてちゃんと派手というのがポイントだと思う。楽曲への溶け込み具合が絶妙なのだ。かと思えば、M2「別れ話は最後に」でのサックス、トランペット、フリューゲルホルン辺りで渋い音色を奏でるなど、管編を担当したブラスロックバンド、スペクトラムの確かな手腕も確認できる。
鍵盤はサザンサウンドの最大の彩りでもあろうから、本作収録曲ではどれも一様にフィーチャーされている。これ1曲を挙げるとすると、なかなか迷うところでもあるが、個人的にはM9「いとしのフィート」を推したい。特にイントロで鳴らされるエレピは如何にもアメリカン・ルーツミュージックな雰囲気ではあるものの、この軽快で弾けたフレーズは、のちの「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」(1984年)や「希望の轍」(1990年)での、あの印象的なイントロへのつながりが感じられるようで、実に味わい深い。
バラエティー豊かなサウンド、大衆的かつ多彩なメロディーは、サウンドの要であるリズム隊の支えがあってこそ成り立つものであることは疑いようがない。関口和之(Ba)、松田弘(Dr)両名の手腕は実に素晴らしく、この時のサザンは新人であってさすがに若干粗削りな面はあることも否めないものの、リズム隊からはプロフェッショナルの風格すら感じられるほどだ(『熱い胸騒ぎ』でのリズム隊については『サザンオールスターズ1978-1985』に詳しく、スージー鈴木氏は本作のMVPは松田で、敢闘賞は関口だと述べている。完全に賛同)。
野沢秀行(Per)=毛ガニは、デビューから40年を経た今でもメンバーからバンドにおける存在感を弄られているようではあるが、彼のパーカッションなくしてサザンのサウンドは成立しない。それはもうM1「勝手にシンドバッド」からして明らかだ。もし毛ガニのトラックのない「勝手にシンドバッド」が聴けたとしたら、それは相当に味気のない「勝手にシンドバッド」になるはずである。あの楽曲の躍動感、高揚感を生み出しているのは確実にコンガだし、それほど毛ガニのパートは重要であることもこの機会に改めて記しておきたい。
そんなサウンドに、今もサザン最大の魅力と言える桑田のメロディと歌詞が乗っているのだから、デビュー時から完全にその辺のバンドとは次元が違ったことが分かる。アルバム『熱い胸さわぎ』に今も残る音像はそれを活き活きと示してくる。
<つづく>
※参考文献:スージー鈴木『サザンオールスターズ1978-1985』
TEXT:帆苅智之