坂本龍一が
レジェンド級ミュージシャンたちと
格闘技ばりに作り上げた
『サマー・ナーヴス』

豪華音楽家たちとのセッション

M5「GONNA GO TO I COLONY」からはアナログ盤でのB面。M5もまたレゲエのリズムで奏でられるナンバーであるのだが、これも妙な楽曲と言わざるを得ないだろう。妙なのはやはり歌。しっかりと歌われているパートは大分バランスが後ろ(というか小さい)印象だし、それ以外も当然のように電子処理されていて、メロディはあるにはあるがそれが前面に出ている印象はない。それよりも、スペーシーな電子音が比較的大きめに配されていて、SF風に仕上げられている感じがする。今現在、レゲエにスペーシーな要素を合わせたナンバーがあるのかどうかよく知らないけれど、少なくとも、本作が出た当時これは斬新なスタイルであったことだろう。その実験音楽のようなテイストは今も音源に遺っていると思う。

M6「TIME TRIP」も歌はボコーダーを通しており、ここまでくると本作ではその処理がデフォルトという感じすらしてくる。どことなくさわやかなAORっぽいイントロで始まるナンバーで、そのヴォーカルもさることながら、歌われるメロディーが大陸的でノスタルジックなところに耳を惹かれる。ミスマッチという感じではなく、“こういうマッチングもあるのか!? ”というのが率直な感想。唯一の日本語詞で、《何も 何も変わらない/いつもかすかな風が吹く/街の角を曲る時 終りかける一日》といった内容が歌われているようである。それが影響したメロディーなのか、こういうメロディーだから日本語詞になったのか分からないけれど、ボコーダー以上にレゲエとアジアンなメロディの組み合わせの妙味がかなり興味深い。「TIME TRIP」というタイトルも何となくマッチしているようでもある。

M7「SWEET ILLUSION」は歌のないインスト曲で、これはレゲエというより、そのルーツであると言われるカリプソっぽい。そして、これは完全にフュージョンと言っていいだろう。シンセで奏でられるメインのメロディーはYMOにも通じるところがありそうだが、キャッチーなメロディーを二連のリズムで締める辺りは1980年代のフュージョンバンドの姿に重なる。パーカッションとサイドギター、ベースの跳ねた感じが実にダンサブルなのも注目だが、M3同様、間奏で突然、乱入してくるかのようなギターソロがスリリング。後半はそのギターの独壇場となっていくようでもあり、この辺はいい意味で完全にレゲエの粋を脱していると思う。実際どんな意識で臨んでいたのだろうか。

ラストのM8「NEURONIAN NETWORK」は細野晴臣作曲で、YMOの原型ととらえる向きもあろう(というか、この時点ですでにYMOは結成されていたので、厳密に言えば原型というわけではないが…)。落ち着いたピアノの旋律の周りに電子音を配しており、いわゆるテクノポップのピコピコ音が前面に出ている感じではないのだが、メロディーはもとより、各パートの配置やそのバランスにどう仕様なくYMOらしさが感じられるところではある。2000年以降、同期なしの生演奏でリアレンジした「ライディーン」に近い空気感というか、アダルトかつアーバンでありながらも、確実に坂本、細野とケミストリーが感じられるのである。

拙い説明であったとは思うが、本作『サマー・ナーヴス』はレゲエでありながらもレゲエだけにカテゴライズされない感じ、もっと端的に言えば、単なるレゲエアルバムではないことは理解していただけたのではないかと思う(ていうか、何とか理解してください)。どうしてそうなったのかと考えると、それが当時の坂本龍一の志向であったのは当然として、カクトウギセッションの“セッション”にあったと想像できると思う。カクトウギセッションはライヴ用に結成されたという。ということは、このメンバーで演奏することを前提として、意図的にレゲエにさまざまな要素をクロスオーバーさせていると言える。乱暴に言えば、このメンバーだからこそ、こういう楽曲になったのだ。主だったメンバーは、小原礼(Ba)、高橋ユキヒロ(Dr)、大村憲司(Gu)、鈴木茂(Gu)、松原正樹(Gu)、渡辺香津美(Gu)浜口茂外也(Per)、矢野顕子(Vo)、山下達郎(Vo)、吉田美奈子(Vo)。ここまで日本のロック、ポップスシーンを支えてきたと言っていいアーティストたちが本作に参加している。M8に坂本、細野とケミストリーがあったと前述したが、それ以外の楽曲でも、下手するとそれ以上に化学変化があったことは疑うまでもなかろう。何が起こっても不思議じゃない。というか、レゲエアルバムを目指したものが、結果的にどこにもカテゴライズできない作品になったのは、ある意味、必然だったというか、なるべくしてなったのだった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『サマー・ナーヴス』1979年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.SUMMER NERVES
    • 2.YOU'RE FRIEND TO ME
    • 3.SLEEP ON MY BABY
    • 4.THEME FOR "KAKUTOUGI"
    • 5.GONNA GO TO I COLONY
    • 6.TIME TRIP
    • 7.SWEET ILLUSION
    • 8.NEURONIAN NETWORK
『サマー・ナーヴス』('79)/坂本龍一&カクトウギセッション

OKMusic編集部

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