小野リサが
ハワイアンも取り込んだ傑作アルバム
『BOSSA HULA NOVA』に
ボサノヴァの真髄を見る
ハワイアンにボサノヴァをブレンド
その意味では、〈グレンミラーの「ムーンライトセレナーデ」他、アメリカの古き良き時代の曲を選曲〉したという『DREAM』も小野リサを代表するアルバムと言えるが(つまり、こちらを当コラムでチョイスする手もあったわけだが)、『BOSSA HULA NOVA』の場合、伝統的なハワイ民族音楽をブラジルで生まれたボサノヴァでカバーしていることが興味深いと思う(〈〉は小野リサ オフィシャルサイトからの引用)。ハワイアンで使用されるウクレレは[ポルトガルからの移民が持ち込んだブラギーニャ(braguinha)と呼ばれる楽器を起源とし、ハワイで独自に改良を重ねられて現在の形になったと]言われている。さらに調べていくと、その“ブラギーニャ”は、同じくポルトガルからの移民がブラジル持ち込んだことで、[カヴァキーニョ(ブラジルポルトガル語:Cavaquinho)はサンバやショーロ等に使われるブラジルの弦楽器]へと発展した。つまり、『BOSSA HULA NOVA』はポルトガルにルーツを持つ楽器によって生まれた音楽同士の邂逅なのである。大袈裟でなく、音楽史的に見ても相当に意義深いことをやっているのだ。
バラエティー豊かな収録曲中でも、原曲が最も古いのはM13「ALOHA‘OE」で、続いてM10「KAIMANA HILA」、そして、おそらくM2「NANI WAI‘ALE‘ALE」が作られたのがM10の前後だと思われる。M13は1870年代後半に作られたと言われており(諸説ある)、M10は1916年頃の制作らしい。M2の制作時期は調べがつかなかったのだけれど、この作曲者はDan Pokipala, Sr.らしいのだが、その息子らしいDan Pokipalaのジャズバンドが大正15年(1926年)に来日していたようで、そう考えるとM10より早かったとの考察もできる(この辺りは確証がまるでないので、大体その時期と思ってもらっても宜しいかと思います)。いずれも日本でも有名なハワイアンミュージックであり、作られた時期からすると、ハワイ民謡と呼んでいいものかもしれない。現地のみならず、世界各国の多くのミュージシャンにもカバーされてきたと思しき両曲を、本作では何ともらしく仕上げている。
M2はイントロのパーカッションから、いきなりラテンフレイバー。ブラス、エレピの他、ハワイアンに敬意を表してか、スティールパンも入れるなど、音数は多い。しかしながら、雑多な感じはなく、瀟洒にしか聴こえないのは流石と言える。M10は、フラダンスで使用されている動画をいくつか見た限り、元は軽快なテンポで演奏されることが多いようだが、小野リサはドラムの手数が少ないからか、ゆったりと聴こえる。ピアノ、ベースをあしらったジャジーなサウンドで、終始流れるトランペットがアーバンな雰囲気を醸し出している。Teresa Brightのアルバム『Tropic Rhapsody』(2008年)にも収められている同曲に近いテンポ感だ。M13はそのTeresa Brightがゲスト参加。「ALOHA‘OE」の印象的なメロディーはそのままに、跳ねたリズムとピアノ、ギターの演奏法、フルートの音色、どれを取ってもまさにボサノヴァというアレンジを施している。歌の旋律の流れるような感じは、ボサノヴァとの相性もいいのだろう。妙な違和感はまったくと言っていいほどない。