祝『モノノ怪』十五周年! イメージソングのような、そうでないような5曲

祝『モノノ怪』十五周年! イメージソングのような、そうでないような5曲

祝『モノノ怪』十五周年!
イメージソングのような、
そうでないような5曲

ノイタミナの傑作ホラーアニメ『モノノ怪』が十五周年を迎え、「やっと……やっと“ただの薬売り様”に再会できるのか……?」と期待に胸がはずむ企画が発表されました。先ほどNetflixで数十回目の観賞を終えましたが、リーマンショック前のジャパニメーションの先鋭さと冒険心の結晶のような演出の数々に改めて驚嘆し、同時に歳をとったからこそ理解できる“日本においてガワが女性として生まれたが故に背負わなければならない業”の凄絶さの表現に息を飲みました。ですので、今回は『モノノ怪』のイメソンのようでもあり、女性の祝福への祈りでもある楽曲を紹介します。
「森が燃えているのは」収録アルバム『春火燎原』/春ねむり
「ひとひら」収録アルバム『クチナシ』/Cocco
「マネキン」収録アルバム『東京ピアノ』/倉橋ヨエコ
配信シングル「BLACK SNOW (feat. MARA37)」/PUSSY RIOT
配信シングル「わたしたちへ」/カネコアヤノ

「森が燃えているのは」(’22)
/春ねむり

「森が燃えているのは」収録アルバム『春火燎原』/春ねむり

「森が燃えているのは」収録アルバム『春火燎原』/春ねむり

パンクネスの萌芽を絶やさないリリカルなポエトリーラッパー春ねむりのアルバム『春火燎原』がピッチフォークで8.0を獲得し、“9 Albums Out This Week You Should Listen to Now”に選出された。誰かの残像の中に他人が次々と連なるこの国の悪酔しそうな速度よりも勝るスピードで繰り出されるリリックが印象的な収録曲「森が燃えているのは」は、書割の煌びやかさと引き換えに取りこぼされてしまった数多の尊いものたちへの義憤と悲哀が鎮魂歌のように聴こえる。ステージとフロアーの境目をたちまち消し去るステージングを切り取ったライヴ映像の鉱石のような眩さをまずは観てほしい。

「ひとひら」(’21)/Cocco

「ひとひら」収録アルバム『クチナシ』/Cocco

「ひとひら」収録アルバム『クチナシ』/Cocco

2021年のアルバム『クチナシ』の収録曲。沸々と煮えたぎるマグマが如き怒りを鎮める幕開けから、シンガーソングライターとしての二十年分の傷痕と軌跡、それよりもずっと以前から重ねられてきたひとりの人間としての美しさの束、それだけに留まらず新たな出会いへと漕ぎ出すしなやかさがあふれ出す。ざらついたロックサウンドの渦の真ん中で《波風受け いざ行こう》《尖っていい 違っていい 同じ空の下》と童謡のようなやさしさ、《でも死にたいって気持ちに偽りないって生きながら言うって どお?》《でも生きてるが故の苦悩ってことなら だきしめちゃえば どお?》と加速するラップパートで一撃を放ちながら“真の多様性”を肯定する痛快さがたまらない。

「マネキン」(’04)/倉橋ヨエコ

「マネキン」収録アルバム『東京ピアノ』/倉橋ヨエコ

「マネキン」収録アルバム『東京ピアノ』/倉橋ヨエコ

個人が抱える多彩な闇をネット上で“共感してくれる誰か”に秒で届けられる時代が訪れる前は、“しくじった自分を見つめる人間が自分しかいないやりきれなさ”を封じ込めた宝箱のようなこの曲に何度励まされただろう。物憂げで仄暗いジャジーな曲調の“静”と、倉橋ヨエコのエネルギッシュで朗々とした歌声の“動”が織り成すシアトリカルな4分半に、涙を流す労力さえ奪われる無着色の夜を何度乗り越える勇気をもらっただろう。2004年発売のアルバム『東京ピアノ』に収録されているのだが、MVはおろかサブスクにすらないため、本当に特別な楽曲になってしまっていることが惜しい。早くリイシューしてくれないだろうか、もちろんアナログ盤で。

「BLACK SNOW (feat. MARA37)」
(’19)/PUSSY RIOT

配信シングル「BLACK SNOW (feat. MARA37)」/PUSSY RIOT

配信シングル「BLACK SNOW (feat. MARA37)」/PUSSY RIOT

匿名性の共有が究極の巨悪になることもあれば、それに立ち向かう牙となり得ることもあると、PUSSY RIOTの楽曲やパフォーマンスが国境を越えて拡散されていく度に実感する。あどけない歌声と甘やかなアレンジの「ロンドン橋落ちた」の引用パートから始まるこの曲から、目を背け、耳を塞ぐことはもうできないところまで来てしまった。荘厳なベースミュージックに象られたトラックの中で“自由”という間隙を手にするために暴れ回るラップに悲痛な叫びは、例え和訳が困難であっても襟首を掴んで離さないだろう。くぐもった叫びの跳弾が心臓を抉り、噴き出した血のあたたかさに気づく前にできることがあると教えてくれる音楽。

「わたしたちへ」(’22)
/カネコアヤノ

配信シングル「わたしたちへ」/カネコアヤノ

配信シングル「わたしたちへ」/カネコアヤノ

光の粒子の竜巻が暗闇を劈くサイケデリックな轟音のイントロ。息継ぎに似た瞬き分の沈黙から、羽化するサナギの硬化する寸前の肌がパキパキ捲れ上がるようなギターとリズムを交差しながら、脈打つ歌声の、なんと豊かなこと。ひとりぼっち同士の“わたしたち”への誰にも言い訳できないまま沈殿していた孤独感を掬い上げ、くっきりと刻まれる影ごと包み込む力強さ、鼻にかかったファルセットのやさしさと柔らかさ。そして、視線だけは太陽を追いかけながらもその場にいるままのヒマワリの群を思い出す歌詞。暦の上ではすでに始まっているはずの、これから盛りを迎えて燃焼を待つ夏によく似合う。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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