ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

2019年になりましたが…
紅白の出演者を振り返る5曲

あけましておめでとうございます。2019年一発目の『ランキングに出てこない~』コラムですが、題材を何にすべきか懊悩しすぎたため、年末年始あまり休んだ気がしません。“平成最後の~”は食傷気味ですし、三ヶ日は寄席の初席に通っていたのでYMOの特番も『ボヘミアン・ラプソディー』もThe Slitsのドキュメンタリー映画も観ていないし…と、冷や汗を垂らしながらバックナンバーを辿っていたところ、意外にも他のライターさんが紅白を取り上げていないことに気付きました。せっかくの機会ですので、“キングギドラ vs メカゴジラ”のごときフィナーレを迎えた『第69回紅白歌合戦』を振り返りつつ記事を書いていこうと思います。ここまで読めばお察しいただけると思いますが、このコーナーを担当している我々、誰がどんなテーマで書くと話し合う場は一切設けておりません。ライターというのは孤独な商売なのです。
「Crazy Crazy」収録シングル「Crazy Crazy/桜の森」/星野 源
シングル「翳りゆく部屋」/荒井由実
シングル「マボロシ」/ゆず
「A Ghost In a Train,Thinking」収録アルバム『The Dream My Bones Dream』/石橋英子
「花」収録ミニアルバム『花』/ASA-CHANG&巡礼

「Crazy Crazy」(’14)/星野 源

「Crazy Crazy」収録シングル「Crazy Crazy/桜の森」/星野 源

「Crazy Crazy」収録シングル「Crazy Crazy/桜の森」/星野 源

『おげんさんといっしょ』枠と「アイデア」歌唱でJ-POPの中軸っぷりを見せつけた星野源が2014年に発表した楽曲。『シャボン玉ホリデー』におけるクレイジーキャッツを彷彿させる演出を取り入れたMVや、孤独や諦観の瓦礫の上に立つような歌詞は“虚無の騒乱”といった風情ですが、ブラックミュージック的なアプローチの脈動するピアノは凍える肌の裏側で滾る血のように躍動的で、しなやかなスナップの効いたドラム、間隙を縫うように跳ね回るベースが、あらゆる予兆を蹴散らすような賑やかさと力強さを象っています。自身が足を着ける地の位置は変えないまま、フィールドを押し広げながらポップスとカルチャーをより豊かにしていく彼の決意が結晶したナンバーです。

「翳りゆく部屋」(’76)/荒井由実

シングル「翳りゆく部屋」/荒井由実

シングル「翳りゆく部屋」/荒井由実

NHKホールへのサプライズ降臨で視聴者や観客のみならず、共演アーティストをも号泣させたユーミン。荒井由実時代にリリースした「翳りゆく部屋」は、椎名林檎やエレファントカシマシ、徳永英明ら錚々たるミュージシャンがカバーしています。アコースティックギター1本、あるいはピアノの和音の繰り返しだけでも際立ちそうな楽曲ですが、オリジナルバージョンは荘厳なパイプオルガンやコーラスに始まり、光芒の中に揺らめく埃のような残影を刻むギターやドラムがドラマチックに重なります。複雑な演奏に織り込まれることなく、別れによって取り残された“わたし”の心情というパーソナルな歌詞を、海を割る航路を描くように歌い上げるヴォーカリストとしてのユーミンの凄絶さに息を飲みます。

「マボロシ」(’18)/ゆず

シングル「マボロシ」/ゆず

シングル「マボロシ」/ゆず

昨年デビュー20周年を迎えたゆずの「マボロシ」は、実写版『昭和元禄落語心中』の主題歌。人の業とかかわりの因果を描いた作品に、老若男女問わないポピュラリティーの代名詞のようなゆずという取り合わせは、異色としか表現のしようがありませんでした。『死神』のサゲを想起させる一節を織り込み、登場人物の本懐を投影させた歌詞、メロディーに影のように寄り添うピアノから始まり、悲痛な慟哭を表す重厚なストリングス、何重もの波紋をくり抜く雨だれや心音を思わせるバスドラの深い音。彼らでなければ作り得なかった楽曲は、これまでの彼らのイメージを塗り替えるほどに衝撃的かつ鮮烈で、清澄な朝霧のような歌声とハーモニーがなかったら、ふたりの楽曲とは気付かなったでしょう。

「A Ghost In a Train,Thinking」
(’18)/石橋英子

「A Ghost In a Train,Thinking」収録アルバム『The Dream My Bones Dream』/石橋英子

「A Ghost In a Train,Thinking」収録アルバム『The Dream My Bones Dream』/石橋英子

『おげんさんといっしょ』に登場したセーラー服の女性、その方こそ石橋英子です。個人的には鋭敏かつユーモアに溢れたスティックさばきとフィルが印象的なドラマーですが、実はなんでもこなすマルチプレイヤー。「A Ghost In a Train,Thinking」は昨年リリースしたアルバム『The Dream My Bones Dream』の収録されているインストゥルメンタル曲で、列車の車輪が駆動音を思わせるタムが細かく刻まれ、ため息のようなシンセサイザーの単音が舞い降り、次第にシームレスで力強く、太い音の帯が一本の道筋を構築していきます。人の手を離れたような幻想的なムードを湛えながら、輪郭のはっきりした楽曲です。

「花」(’01)/ASA-CHANG&巡礼

「花」収録ミニアルバム『花』/ASA-CHANG&巡礼

「花」収録ミニアルバム『花』/ASA-CHANG&巡礼

まさかMISIAのバックバンドのパーカッションをASA-CHANGが務めているとは予想だにしなかったので、左下のテロップを見た時は度肝を抜かれました。ASA-CHANG&巡礼名義で発表した「花」は、2013年に制作されたアニメ『悪の華』のエンディングテーマ「花- a last flower-」の原曲で、2001年にリリースしたミニアルバム『花』のタイトル曲。ループするストリングスと不穏なテルミンやパーカッションの中で乱雑に顔をニュウっと出しては引っ込む壊れたポエトリーリーディングのような歌は、自意識の肥大と他者との不和が現実にまではみ出した『悪の華』の登場人物たちの後戻りできない人生を想起させました。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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