ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲

平成最後の夏を燃焼させる
キラーチューン5曲

「恋に焦がれて鳴く蟬よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」という都々逸をMacBook Proが予測変換で出してきたのでちょっと驚いている今日この頃ですが、初夏の苺をジャムにして、夏至の真夜中に赤シソのシロップをこしらえて、水色の空と赤橙の夕焼けの境目をぼんやり見つめている間に梅雨も終わり、いよいよ平成最後の夏の幕開けです。夏休みという贅沢な時間と無縁になっても、暴力にも似た日差しから逃げ惑うように影を追いかけ続けても、満員電車で見ず知らずの他人の汗の感触に辟易しても、昼の長さが変わるごとに途方もない寂しさが肺の奥に積もるので、やはり夏という季節は抗いがたい魔性を秘めているようです。今回はそんなうら寂しさの予感を焼き尽くす楽曲を紹介します。
シングル「闇夜に提灯」/赤い公園
「Walk Like an Egyptian」収録アルバム『シルバースクリーンの妖精(Different Light)』/The Bangles
「あの子のジンタ」収録アルバム『ミラージュ・コラージュ』/チャラン・ポ・ランタン
「This Song is Called Ragged」収録アルバム『We Keep the Beat Found the Sound See the Need To Start the Heart』/Jonathan Boulet
「I LOVE BEER!!」収録アルバム『Microphone’s Counter Attack!!』/SUZISUZI

「闇夜に提灯」(’17)
/赤い公園

シングル「闇夜に提灯」/赤い公園

シングル「闇夜に提灯」/赤い公園

メンバーチェンジを経てなお、GirlやMotherでないとエンタメ、カルチャーに介在できない日本のど真ん中で戦い続けるフィメールバンド、赤い公園。現在はチアキ名義でソロシンガーとして活動する佐藤千明のキュートネスとクールネスが共生した声調からクールかつエレガンスなファルセットへの移り変わり、ポップロックの懐かしさを携えながらも和太鼓のごとき強靭なタムの響き、ブレイクの余白も息をつかせないギターとベースの閃光が暗いフロアーに走るようなせめぎ合いは、宵闇に穴を開ける灯篭のように鮮やかかつ賑やか。楽曲のヒリヒリとしたシリアスとユーモアをもたらす高揚感は、寝苦しく生ぬるい風が吹きすさぶ真夏の深夜をさらりと賑やかな時間に変えてくれます。

「Walk Like an Egyptian」(’86)
/The Bangles

「Walk Like an Egyptian」収録アルバム『シルバースクリーンの妖精(Different Light)』/The Bangles

「Walk Like an Egyptian」収録アルバム『シルバースクリーンの妖精(Different Light)』/The Bangles

『ジョジョの奇妙な冒険』第5部のアニメ化記念で、第3部スターダストクルセイダーズのエンディングテーマを。“エジブト人のように歩きなよ”というタイトルの“エジプト”の部分で安直に熱帯のイメージを抱いたのではなく、高温多湿な酷暑に苛立つ気力すら根こそぎ奪われて虚無の塊と化してしまった時に聴くと、キュートな風貌を裏切らない声で気怠げに歌い上げるシニカルなリリック、スカスカで軽妙な鐘の音の反響とタンバリンのループするリズムに茹る脳内を異空間に突き落とされ、ポストパンクを基調としながらもニューウェイビーなアレンジの襞がギラギラ光る演奏に横揺れを禁じ得なくなり、段々と少しずつ自暴自棄の念が潰え、「仕方ねえな、原稿書くか」という気になってくるのです。

「あの子のジンタ」(’16)
/チャラン・ポ・ランタン

「あの子のジンタ」収録アルバム『ミラージュ・コラージュ』/チャラン・ポ・ランタン

「あの子のジンタ」収録アルバム『ミラージュ・コラージュ』/チャラン・ポ・ランタン

全サブカル・アングラ住民の必修科目『少女椿』がまさかの実写映画化という衝撃から早2年。原作者丸尾末広が描く華美でエロティックでグロテスクな曼荼羅にとらわれ、カビ臭い資料を漁りながら世界中の見世物小屋の歴史を遡り、また蛇食いや鶏食いの芸見たさに花園神社に足を踏み入れるかつての少年少女の業を浄化させるかのごとく、同作の主題歌に起用されたのが「あの子のジンタ」でした。原作のモチーフを取り入れることで童謡や唱歌に隠された残酷な比喩を浮き彫りにする歌詞、ダンサブルなスカのリズムから切迫感あふれるヴォーカルに雪崩れ込むことで生まれるドラマ性は、自身の奥深くに封じ込めた“見てはいけない禁じられるほど見たくなる”という不謹慎な好奇心を容赦無く赤裸々にします。

「This Song is Called Ragged」
(’12)/Jonathan Boulet

「This Song is Called Ragged」収録アルバム『We Keep the Beat Found the Sound See the Need To Start the Heart』/Jonathan Boulet

「This Song is Called Ragged」収録アルバム『We Keep the Beat Found the Sound See the Need To Start the Heart』/Jonathan Boulet

オーストラリアのシンガーソングライター、ジョナサン・ボーレットの2ndアルバム『We Keep the Beat Found the Sound See the Need To Start the Heart』より。ボーレットは作品ごとに別人のごとくジャンルが変わり、なかなか尻尾を掴ませない人なのですが、同作はトライバルビートとポストパンクを下地にしたエレクトロニックな楽曲で構成されています。「This Song is Called Ragged」はマリンバの連打がトロピカルなムードを触発しつつも、エコーのかかったヴォーカルの残響が寂寥感をチクリと刺し、白日夢の最中を彷徨うような心地にさせます。『ピエタ』を想起させるアートワークや、爛熟した果実と廃墟、朽ちた人形の眼差しが印象的なMVが誘引する清廉で退廃的なイメージは、盛夏の真ん中の物悲しさにどこか似ています。

「I LOVE BEER!!」(’18)
/SUZISUZI

「I LOVE BEER!!」収録アルバム『Microphone’s Counter Attack!!』/SUZISUZI

「I LOVE BEER!!」収録アルバム『Microphone’s Counter Attack!!』/SUZISUZI

KAORI(YELLOW MACHINGUN)、IxSxO(ex.ABNORMALS)、MUROCHIN(WRENCH、DOOOMBOYS)、K♠からなるハッピーでファニーなハードコアバンド、SUZISUZIの2ndアルバム『Microphone’s Counter Attack!!』より。昭和末期の血と汗と涙と唾液と悲鳴と怒号が飛び交う時分のライヴハウスでしのぎを削っていたであろうお兄様お姉様方が、全員ヴォーカル全員楽器パートという地獄さながらの編成で繰り出す年季の入ったテクニカルな演奏、暑苦しいシャウトと流暢な発音の英語が入り乱れるヴォーカリゼーション。フィジカルの鬼に後ろ髪を掴まれそうな危うさと「I LOVE BEER!!」のサビパートがもたらす容赦ない多幸感に、過ぎ行く夏やひとつの時代の終末に覚える悲哀ごとぶん殴られるような痛快さが堪りません。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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