小林賢太郎のパフォーマー引退に寄せて、多面的な軌跡を辿る5曲

小林賢太郎のパフォーマー引退に寄せて、多面的な軌跡を辿る5曲

小林賢太郎の
パフォーマー引退に寄せて、
多面的な軌跡を辿る5曲

12月1日、小林賢太郎のパフォーマー引退発表がTwitterトレンド1位を独占した。TLに溢れる驚愕と困惑のツイートの数々に、小林賢太郎という存在とその創作物が今日のクリエイターにどれほど多大な影響を及ぼしたかを改めて思い知り、ストイックな物作りの姿勢を貫き通す狂気にも似た途方もない芯の強さに畏怖を覚えた。改めて、何度でも。フライヤーの肌触りを指先で堪能し、暗転直後の舞台が光を浴びるまで息を飲み、チケットの抽選結果に一喜一憂し、DMの「初夏です、いい季節になりました」の一文に胸を弾ませた日々。長身痩躯のノーブルなビジュアル、シャイな人となりが滲み出る演技と所作のひとつひとつに神経を摘まれる緊迫感とカタルシス、優雅かつナンセンスで衒学的な欲求を刺激する言葉遊び。「お疲れ様でした」も「ありがとうございました」も書けない。永遠に終わらない。
「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸,小林賢太郎」収録アルバム『AFTERMIXTAPE』/KREVA
「イロメキ!イロマキ!」収録配信シングル「イロメキ!イロマキ!」/緑巻(CD:長縄まりあ)
「Twenty-Five」収録アルバム『harusame』/anonymass
「環境と心理」配信シングル「環境と心理」/METAFIVE

「東京五輪音頭-2020-」(’17)

自国民ですら生命の危機を覚える酷暑の日本で赤字覚悟の東京五輪など夢も希望も皆無に等しいと絶望しつつも、ケラリーノ・サンドロヴィッチが『東京パラリンピック』の開会式、小林賢太郎が閉会式の演出を手掛けるという報道には興奮を抑えきれなかった。「東京五輪音頭-2020-」は「東京五輪音頭」にパラリンピックの要素を加えたリメイク版。篝火のように朗々として冴え渡る石川さゆりの声調から、角の取れないままゴツゴツしたざらつきと素朴さを内包した竹原ピストルの歌、加山雄三の包容力と洗練された“枯れ”のパフォーマンスへのバトンリレーの鮮やかさ。その隙間を縫ってMVでこじつけと誰も傷つかない嘘を巧妙に練り込んだ振り付けを披露し、するりと懐に入り込む小林の抜け目のなさが痛快。

「それとこれとは話がべつ!
feat. 宇多丸,小林賢太郎」
/KREVA(’19)

「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸,小林賢太郎」収録アルバム『AFTERMIXTAPE』/KREVA

「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸,小林賢太郎」収録アルバム『AFTERMIXTAPE』/KREVA

長年にわたって小林賢太郎ファンを公言するKREVAが小林と宇多丸(RHYMESTER)をフィーチャリングした「それとこれとは話がべつ!」は、ムーディーなウッドベースのイントロから始まるジャジーなトラックに乗せてタイトル通りの不可分な理屈と本懐の混在を演じ、説き、吐き捨てる贅沢な寸劇。“推し”に夢見る多幸感から瞬く間に現実に切り替わるあまりの冷静さへの脱力感から始まり、匿名と覆面の書き込みが氾濫するネット社会への皮肉につながり、小林のお家芸の戯画的な“演劇のステレオタイプっぽい演技”でコーティングされた音声コントに着地する3分46秒は、コンパクトなアミューズメントパークのごとき高揚感の高低差とどこにもブレない安心感で満ちている。

「イロメキ!イロマキ!」
/緑巻(CD:長縄まりあ)(’16)

「イロメキ!イロマキ!」収録配信シングル「イロメキ!イロマキ!」/緑巻(CD:長縄まりあ)

「イロメキ!イロマキ!」収録配信シングル「イロメキ!イロマキ!」/緑巻(CD:長縄まりあ)

ラーメンズをはじめとする舞台活動についつい目が行きがちだが、多摩美術大学出身という学歴を存分に活かしたデザインのキャリアも豊富で、こと漫画『鼻兎』をはじめとする愛らしいキャラクターを量産している。監督と脚本とキャラクター原案を務めたアニメーション作品『カラフル忍者いろまき』に至ってはエンディング主題歌の作詞と振付まで担当。“忍者”というテーマに沿った古典的な王道一直線のオリエンタルなサウンド、まったく意味をなさないからこそ小気味いいレインボカラーのリリックで染まったゆるいラップ調の歌の楽しく賑やかな雑多感をキープしつつ、予定通りにカチッと同期する精緻さが心地いい。

「Twenty-Five」/anonymass(’04)

「Twenty-Five」収録アルバム『harusame』/anonymass

「Twenty-Five」収録アルバム『harusame』/anonymass

チェリストの徳澤青弦は、小林がこれまでに発表した多数の作品を振り返るにあたって必要不可欠な人物。徳澤青弦が参加するanonymassの「Twenty-Five」は『小林賢太郎プロデュース公演「Sweet7」』のメインテーマに起用された。跳ね回るリズム、有機質的なパワーと“音”としての構造の美しさを発光させるヴォーカル、ポップかつ壮大なユーフォニアム、時に春の萌芽を思わせる厳粛さを漂わせ、時にヴォーカルに寄り添う影のように伸びるチェロの自在さ、後半のブレイクから軽快な打音が沈黙を破り、全ての音という音がお互いを巻き込み合う渦に変化する展開がなんともドラマチック。

「環境と心理」/METAFIVE(’20)

「環境と心理」配信シングル「環境と心理」/METAFIVE

「環境と心理」配信シングル「環境と心理」/METAFIVE

かねてより『広告批評』の特集記事などでラーメンズに賛辞を送っていた高橋幸宏に加えて、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井からなるMETAFIVE。7月にリリースした「環境と心理」は、シンセサイザーから放たれる球体の音がパーカッシブに重ね塗りされるテクノサウンドの狭間で“泣き”のギターのファズが冒頭の「通り雨」を切り裂き、「夕暮れ時」の幕を開くかの如く芽吹く。小山田圭吾からLEO今井へつながれ、高橋幸宏が受け取る浮遊感を纏ったヴォーカルは、希薄な輪郭の中で《なんとなく気分が ちょっとだけ晴れてく 変化する景色や 環境と心理》と歌い、明確な根拠がないゆえにどこにでもあるささやかな希望を築く。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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