7度目の来日公演を3月~4月に控えているボブ・ディラン。今回のツアーも前回2010年のツアーと同様に世界がうらやむ“日本だけのライヴハウス・ツアー”と銘打たれ、約2,000人規模の会場で行なわれる。常時アリーナ満杯の大ベテランがあえてそれをやる(!)、いやはや、脱帽。1941年生まれというから、御年73歳になるわけだ。現在の容姿には、さすがに“ディラン翁”と呼びたくなるほど年輪を感じさせるけれど、衰え知らずのライヴ活動、こと音楽に関しては今も鋭いメッセージを送り続けている。まさに恐るべき爺、いや神か、生きる伝説か、人間国宝か世界遺産か? そこで! 芸歴52年に産み落とされた膨大な楽曲から5曲を選ぶなんて、どだい無茶な話だが、一応オールタイム・ベストを心がけつつ…ええい、強引にやってみた。

1.「MY BACK PAGES」('64)

通算4作目となった『ANOTHER SIDE OF BOB DYLAN』に収録されたこの曲はフォーク期に残された数ある名作の中でも、詩人としてのすごさを知らしめた一曲だろう。自身の弾き語りのみで表現され、その清冽な歌声で《Ah, but I was so much older then,I'm younger than that now(ああ、でも私はとても年老いていた。そして今、私はあの頃よりずっと若い)》とリフレインされる一節が染みる。「風に吹かれて」や「激しい雨が降る」等のヒットで、プロテストソングの旗手などと言われていた時期だが、表現の枠はそれを越えている。この曲は後年、ディランの主演映画『ボブ・ディランの頭の中』(2005年)の挿入歌として、我らが真心ブラザーズが秀逸なカバーを残し、話題になった。

2.「LIKE A ROLLING STONE」('65)

超有名曲は外したくなるものだが、この曲にそんな振る舞いをする勇気はさすがに私にもない。『HIGHWAY 61 REVISTED』(邦題:追憶のハイウェイ61)の冒頭に収録された曲。リリース時、全米第2位の大ヒット記録した。それ以上に、現在ではロック史上最も重要な曲としてあらゆるチャートの1位に選ばれている。当時のディランのライヴを記録した音源として98年にリリースされた公式ブートレッグシリーズ『ロイヤル・アルバート・ホール・コンサート』における同曲はハードロックの趣さえある激しさだ。まさにこの曲はロックそのものを変革した曲と言えるだろう。ローリング・ストーンズをはじめ、多くのアーティストにカバーされているが、オリジナルを越えるものはない。

3.「KNOCKIN' ON THE HEAVEN'S DOOR」
('73)

ディランはいい意味でファンを裏切ってきた。本人は常に唯我独尊、その時に向かいたいほうに歩みを進めるだけなのだ。そうして米英でロックが盛り上がり出した頃には、早くもディランは世間の流行とは異なる道をゆく。『JOHN WESLEY HARDING』『NASHVILLE SKYLINE』で示されたカントリーミュージックへのアプローチはフォーク、ロックのファンを大いに戸惑わせた。73年にディランも自ら出演した映画『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』のサウンドトラック・アルバムとしてリリースされたアルバム『PAT GARRETT & BILLY THE KID』に収録された、この曲もそうしたテイストを持つ。後にガンズ・アンド・ローゼズが、最近ではアヴリル・ラヴィーンも歌っている。

4.「NOT DARK YET」('97)

彼にも低迷していた頃がある。2005年に出版された『ボブ・ディラン自伝』(ソフトバンクパブリッシング)の中で自ら、当時のモヤモヤした状況を吐露している。そうした80年代に発表されたアルバムの多くを、酷評する評論家、ファンもいた。90年代に入ると長い暗闇を抜けたように、ディランは再び傑作を連発し始める。オルタナ期とでも言うべきか、ドン・ウォズ、ダニエル・ラノワといった鬼才をプロデューサーに迎えて制作された諸作がそれである。この曲が収録された『TIME OUT OF MIND』はU2との仕事でも知られるラノワと組み、彼ならではの空間性を生かした音の上を徘徊するように響く、枯れて渋みを増したディランの歌声は本物のブルースマンのようだ。

5.「PO' BOY」('01)

この曲が収録されているのは、通算31作目として発表された『LOVE AND THEFT』。パッケージが米国の店頭にならんだのは2001年9月11日のこと(日本では翌12日)。そう、世界中を震撼させた同時多発テロの日だった。それはさておき、内容はディランのルーツ・ミュージック再訪といった趣で、2014年の現在にまで通じる“ディラン・ミュージック”の特色と言えるかと思う。ブルース、カントリー、ロカビリー、ウェスタンスウィングと、さながら米国南部音楽を総括したような曲が並ぶ。ライヴでもよく演奏されているこの曲は、地味ながら実に愛すべき小品だ。当時NYに暮らしていたので、その頃に行ったライヴでも聴いた。大切そうに歌っていた姿が思い出される。

著者:片山明

OKMusic編集部

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